ここがおかしい日本の雇用制度(2)

きのうに続いて週刊エコノミストの特集「ここがおかしい日本の雇用制度」からです。今日は権丈英子亜細亜大学経済学部准教授の「日本の非正規労働者はステップアップができない」です。まず引用します。

…各国における非正規労働者の割合は、各国労働市場における様々な要因が影響している。なかでも、労働市場に対する規制のあり方に関連するとみられている。例えば、非正規労働者の割合が低い英米では、労働市場に対する規制が弱く、正規労働者に対する解雇も容易である。アメリカには、随意雇用の原則があり、使用者は原則として随意に雇用者を解雇することができる。イギリスでは、使用者が雇用者と正規の雇用契約を結んだとしても、採用から1年未満であれば、使用者は雇用者を簡単に解雇できる。このため、イギリスの使用者は1年未満の有期雇用契約を結ぶ必要性を感じないという。
 ヨーロッパ諸国のなかで非正規労働者の割合が低いデンマークも、正規労働者に対する解雇規制が緩やかな国である。デンマークの雇用モデルは、「黄金の三角形(the golden triangle)」と呼ばれており、(1)解雇しやすい柔軟な労働市場、(2)手厚い失業保険制度、(3)充実した職業訓練プログラムを中心とする積極的労働市場政策――という3つを有機的に連携させることにより、労働市場における「柔軟性(flexibility)と安定性(security)の確保=フレキシキュリティ(flexicurity)」を目指すものである。すなわち、この国では、特定の企業や仕事における雇用保障ではなく、労働市場全体で流動性を保ちながら労働者の生活保障を行おうとしている。EUでは現在、雇用戦略としてフレキシキュリティを重視する方向にある。
 オランダにおける非正規労働者の割合は、ヨーロッパ諸国では中程度であり、最近は上昇傾向にある。解雇規制の強さも、ヨーロッパでは中程度である。オランダの特徴は、他国と比べて、派遣労働者の割合が高いことだ。この国では、98年に派遣業が全面的に自由化され派遣期間の制限も廃止された一方、派遣労働者と正規労働者の均等待遇が定められた。翌99年には、柔軟性と安定性に関する法(フレキシキュリティ法)により、一定期間(働き方により1年半から3年)就業した派遣労働者は、派遣元企業と常用雇用契約を結ぶ権利を得ることとなった。
 非正規労働者の割合が突出して高いスペインは、解雇規制が強固なことで知られる。スペインでは、失業率上昇のなかで84年に非正規労働(臨時雇用)に関する規制が緩和された。この結果、非正規労働者の割合は、80年代後半に急激に高まり、90年代以降は雇用者の3分の1が非正規であるという現在の状況が続いている。スペインにおける非正規労働者の増加は、失業率低下に役立ったとみられる一方、企業による職場訓練の低下や労働生産性への負の影響、出生率の低下など多くの問題を引き起こしたと見られている。
 国による程度の差はあっても、一般に非正規労働は正規労働に比べて、賃金や他の労働条件で恵まれていないことが多い。そこで、非正規から正規への転換の可能性が重要になる。日本では、新卒採用を中心とする内部労働市場が発達しており、公的な職業訓練機会も少ないため、非正規から正規への転換は難しい。それ故、非正規労働が行き止まりの仕事となってしまい、必然的に、労働市場の2極化が問題になってくる。
 しかし、非正規から正規への転換の可能性が高ければ、非正規労働でも労働市場における経験を高めステップアップの機会を提供する1つの働き方と見なされるようになる。
 …ヨーロッパ諸国について、98年に非正規労働であった者…(で)3年後に正規労働者となった者の割合は、オランダ、イギリス、デンマーク、ドイツでは、6〜7割とかなり高い。このことは、国によっては、非正規労働が必ずしも行き止まりの仕事というわけではないことを示唆している。
 日本では、非正規労働者が急増している。解雇規制のあり方や均等待遇導入の是非を検討するなかで、非正規から正規への転換の可能性を高めるための方策を考えることも重要ではないだろうか。

この文中にもあるように、「正規」「非正規」といってもその性格は国によってかなり違いがあるわけで、こうした分け方で国際比較をするのがどこまで妥当かというのは慎重に考える必要があるでしょう。とはいえ、日本の非正規雇用の6〜7割が3年後に正規雇用になっているともちょっと考えにくく、正規雇用非正規雇用の保護の程度が違うほど、その相互の行き来が少なくなるだろうというのは比較的わかりやすい理屈ではあります。非正規から正規への転換(だけ)がすべていいとは限らないわけではありますが、キャリア形成の可能性を広げていくことが重要だというのは大切な指摘ではないかと思います。それは単純な規制の強化や緩和ではなく、規制による保護の程度も含めた多様な働き方の機会を増やしていくことが望ましいのではないでしょうか(それはどちらかというと規制緩和を指向するでしょうが)。