子育てしながら働くことが普通にできる社会その2

一日中断しましたが、一昨日の続きです。今回で終わります(笑)まずは報告書要約版から。

(2)父親も子育てにかかわることができる働き方の実現

(労使協定による育児休業取得除外規定の見直し)
○専業主婦の方が子育てへの不安感を抱えていることが多いこと等も踏まえ、配偶者が専業主婦(夫)等であっても、夫(妻)が育児休業を取得できる中立的な制度にするべき。

(出産後8週間の父親の育休取得促進)
○出産後8週間の時期の父親の育児休業を「パパ休暇」として取得を促進し、この間に取得した場合には再度の育児休業の取得を認めるべき。

(父母ともに育児休業を取得した場合の育休期間の延長)
○父母がともに育児休業を取得する場合に、休業期間を現行よりも延長できるようなメリット(「パパ・ママ育休プラス(育休プラス)」)を設けるべき。(期間は、ドイツ、スウェーデンの例等を踏まえ、2か月程度)

この報告書は「父親の育児参加」にかなりこだわっています。第1子出産を機に退職した女性の多くが「仕事を続けたかったが仕事と子育ての両立の難しさで辞めた」ということで、「育児休業後に両立を続けられる見通しが立たない」のが問題であり、その大きな原因が「男性の育児へのかかわりが十分とはいえない」「男性の家事・育児分担の度合いが低いため、妻の子育て不安が大きい」ことにあるのだ、ということのようです。さらに「子育てが孤立化しており、専業主婦の方が子育てへの不安感を抱えている。父親の育児へのかかわりが十分でないことは、第二子以降の出産意欲にも影響を及ぼし、少子化の一因ともなっている」とも主張しています。そのうえで、「男性の子育てへのかかわりの第一歩となる男性の育児休業の取得を進めるために、諸外国での取組等を参考に、男性が育児休業を取ろうとする契機となるような制度が求められている」と、男性の育児休業をそのシンボリックな存在として位置づけ、その取得促進策が提案されています。
そこでまず、現行では配偶者が専業主婦(夫)など、常態として子を養育することができる場合には、労使協定によって育児休業を与えないことができるとされていますが、この規定をやめることがあげられています。
これはなかなか思い切った方向転換というか、パラダイムチェンジといえるかもしれません(ちと大げさか)。なにかというと、育児休業というのはもともと育児と仕事の両立、もっといえば「なんとか育児のために会社をやめずにすむようにしたい」というのが趣旨だったわけで、だからこそ「育児のために会社をやめざるを得ない」状況の人が対象となるということで、こうした除外規定が設けられていたわけです。したがって、育児休業制度の導入当初を知る古手の人事屋にしてみれば、「本人がわざわざ休まなくても育児はできる環境なのに、なぜ休ませなければならないのか?」という素朴な疑問を感じるのは当然といえましょう。
これはつまるところ、「専業主婦が子育てへの不安感を抱えて」いるから、配偶者が育児休業を取らなければ育児はできないのだ、不安感軽減のために休みを取ることが「家庭と仕事の両立」なのだ、ということなのでしょう。私個人はそういう考え方もありかな、とは思うのですが、それにしてもこれはかなり大胆な解釈の拡大で、容易に納得がいきにくいと感じる人もいそうです。というか、ここまで拡大解釈されると、さすがにこうしたケースまで雇用保険の財源で育児休業給付を行うのが適切かどうか、疑わしいといわざるを得ません。この施策はもはや純然たる少子化対策という感が強いですから、こうした育児休業に対する給付は一般財源から行うのが筋というものでしょう。
次の産後休暇については、これは現行法でも「常態として子を養育することができる場合」にはあたらず、したがって配偶者は問題なく育児休業を取得できるわけですが、たしかにそれが十分に周知されているかといえばそうでもないでしょう。それをもっと宣伝しましょうというのは一応けっこうな話です。あとは、この期間は配偶者は育児休業を取らなければならないとか、取らないのは悪いことだ、といった画一的なピーアールにならないことが大切でしょう。まあ、さすがに心配いらないだろうとは思いますが…。
次の「育休プラス」は、いわゆる「パパ・クオータ」にならったものということでしょう。実際には、スウェーデンのパパ・クオータで休業する「パパ」たちは、休業はするものの育児はたいしてしていないケースのほうが多いらしいという話を聞いたことがある(裏を取ったわけではないので自信なし)くらいで、これはもう育児をさせるというよりはとにかく男性に休ませること自体が目的になっている感じです。まあ、育児に外部経済があることは明らかなので、それを政策的に支援することはいいだろうとは思いますが、これまた従来の「仕事と家庭の両立」からは逸脱してきますので、雇用保険財源を投入することは不適切でしょう。まあ、「父親が育児参加することで意欲が高まり、視野が広がり、生産性が高まって企業業績も改善される」というフィクションなのかもしれませんが、ここまでくるとちょっと説得力が乏しい印象です。
それはそれとして、こうした施策ではたしてわが国で効果を発揮するかどうか。たしかに、育児休業給付付きで休めるわけですから、休んでいるのにおカネがもらえるけっこうなしくみではあるわけですが、それにしても休まずに働いた場合よりは収入は減るわけで、それに魅力を感じる人がどれほどいるかは少し疑問かもしれません。で、この制度はどうも夫婦がともに育児休業を取得することも念頭においているようで、これまた「育児のために仕事をやめざるをえない」といった状況とは異なっています。いずれにしても、欧州に学ぶのはおおいにけっこうですが、もっと他に見習うべきところがあるんじゃないかと思うんですがどんなもんなんでしょう。
次にいきましょう。

(3)労働者の子育て・介護の状況に応じた両立支援制度の整備

(再度の育休取得要件等の見直し)
○子どもが病気や怪我のため一定期間の療養を要する場合等に、再度の育児休業の取得を認めるべき。

(介護のための短期の休暇制度)
○現行の介護休業(「長期の休業」)に加え、一日単位・時間単位などで取得できる「短期の休暇」制度を設けるべき。

(期間雇用者の休業の普及促進)
育児休業可能な期間雇用者が、より一層休業を取得しやすくするために、休業取得要件をわかりやすく示し、周知を徹底。

(4)両立支援制度の実効性の確保

(不利益取扱い)
○短時間勤務等の申出等を理由とする不利益取扱いについて、基準を明確化することを検討するべき。

(苦情・紛争の解決の仕組みの創設)
育児休業の申出等に係る不利益取扱い等について「調停制度」等による紛争解決援助の仕組みを検討するべき。

(広報、周知・指導等)
○制度の周知徹底を図るとともに、父親の子育て参加、育児休業取得に関し、社会的なムーブメントを起こしていくような広報活動等について検討するべき。

(3)は制度の使い勝手をよくするための微修正といった感じでしょうか。やりすぎると「微」ですまなくなるかもしれませんが…。調停制度もけっこうですが、わざわざこのために新たな制度を作るのではなく、均等法の調停など既存のものを使って効率的にやってもらいたいものです。
問題は「不利益取扱いについて、基準を明確化することを検討する」というところで、ここであまり硬直的な基準をつくってしまうと、企業の人事管理が成り立たなくなってしまいかねません。さすがに報告書は「なお、短時間勤務を行う労働者に対する人事考課や賃金の設定に当たっては、仕事の量に着目して評価している企業もあれば、仕事の質に着目して評価している企業もあり、また、配置についても、本人の意向と企業の雇用管理との兼ね合いなど複雑な事情を有するケースがある。短時間勤務を選ぶ労働者の賃金、配置等については、いかなる取扱いを不利益取扱いとして判断するかについて考慮すべき点が多いことから、基準の明確化に当たっては、慎重に検討を行う必要がある」と、そこには理解を示しています。まあ、解雇はいけないでしょうし、いわゆる正社員を有期契約にするというのもまずいでしょう。賃金については、「仕事の質に着目して評価」というのは下げるなということをいいたいのでしょうが、まあ時間単価にしてあまり大きく下げるのはやはり問題でしょう。いっぽう、人件費には必ず固定費の部分があるわけなので、それを考慮すれば、必ずしも正確に時間割ではなく、ある程度下回ることはあってもいいのではないでしょうか。配置については、短時間勤務となる以上は従前と同じ仕事はできなくなることが多いでしょうから、やはり必要に応じての配置の変更はあってしかるべきところでしょう。あまりにも従前の仕事とかけ離れているとか、遠隔地に異動させるといった、配慮を欠くケースは問題でしょうが。
全体をみると、一部にはたとえば男性を休ませよう、休めば多少は育児もするだろう、といったような、従来に較べれば踏み込んだ(その分、これまでの理屈から外れてはきていますが)提案もありますが、総じて現行制度の拡張・調整という感があり、はたしてこれが仕事と家庭の両立、あるいは直接的意図ではないでしょうが少子化対策にどれほど効くのかな、という印象は禁じ得ません。まあ、繰り返しますがこれは育介法の研究会なので、おのずと限界はあるのかもしれませんが。