育児休業で降格

読売新聞ニュース(YOMIURI ON LINE)から。

 ゲームソフト制作会社「コナミデジタルエンタテインメント」(東京)の社員関口陽子さん(36)が、「育児休業から復帰したら、不当に降格・減給された」として、同社を相手取り、育休前の処遇が受けられる地位にあることの確認などを求める訴訟を16日、東京地裁に起こした。
 訴状によると、関口さんは育休取得直前の2007年〜08年、海外企業を相手に、ゲームソフトの制作に必要なライセンスを取得する業務に携わり、海外出張なども数多くこなした。しかし、復帰後は、国内での事務を命じられ、月収は約20万円減ったという。
 関口さん側によると、同社側は提訴前の交渉で、「降格ではなく、役割の変更。本人の健康や育児環境に配慮した」と説明したという。関口さんは「育児のためにキャリアを削らなければならないのは女性差別だ」と訴えている。
 コナミデジタルエンタテインメント広報室の話「訴状を受け取っていないのでコメントは控えたい」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090616-OYT1T01034.htm

asahi.comにはこんな追加的情報もあります。

 提訴後に東京・霞が関で記者会見した女性は「子どもか仕事か、どちらかしか選べない仕組みはおかしい」と訴えた。女性の代理人弁護士によると、会社側は「復帰後まもなく健康や育児への配慮が必要で、降格ではなく業務内容の変更だ」と説明。女性側は「元の仕事に戻るためにベビーシッターを雇うなど万全の準備をした。降格は子を持つがゆえに差別するもので、不利益な取り扱いを禁じた育児休業法などに反する」と主張した。
http://www.asahi.com/national/update/0617/TKY200906160364.html

育児休業法では、育児休業の申出または取得を理由とする不利益取扱いを禁じており、降格、減給、不利益な配置変更はいずれも禁止される不利益変更に該当するとされています。この訴訟がどういう立論になっているのかはこれだけではわかりませんが、これが育休取得を理由としているのであれば明らかに違法と申せましょう。ただ、育児休業法は有子を理由とする差別までは禁止していませんから、記事にある女性側の「降格は子を持つがゆえに差別するもので、不利益な取り扱いを禁じた育児休業法などに反する」という主張は少し変です。弁護士がこんなことを言うとも思えませんので、記者がいい加減に書いたのでしょうか。また、「育児のためにキャリアを削らなければならないのは女性差別」というのもちょっと変で、むしろ男女を問わず育児に一定の時間やお金を費やそうとするのであれば、やはりその分キャリアを削ることも必要になるわけで、だからこそ「ベビーシッターを雇うなど万全の準備をした」(本当に万全かどうかはわかりませんが)のでしょう。このあたりはマスコミ側にも責任がありそうですが、あまり感情的な議論にしないほうがいいように思われます。
さて、記事を読む限りにおいては、本人と会社との話し合いは持たれていたようです。会社側の言い分は「復帰後まもなく健康や育児への配慮が必要で、降格ではなく業務内容の変更だ」というわけですが、いずれにしても月収が20万円も下がっていて、労働条件の不利益変更には違いないわけで、会社がこれを一方的に行うのであればそれなりの必要性、合理性がなければなりません。もちろん、健康や育児への配慮それ自体は好ましい(もっとも、育児休業明けですから出産からかなりの日時は経過しているはずで、それほど大きな健康問題は想定しにくいようには思われますが)わけですが、業務内容変更を行うのであれば、従前業務にどの程度の支障が想定されるのか、変更するにしてもここまで大幅な変更が本当に必要なのか、といった点が検証される必要があるでしょう。常識的な人事管理としては、とりあえず元職に復帰させてみて、実際にどれだけやれるかを確認し、そのうえで業務内容の変更が必要なら必要な範囲で実施するというのが手順ではないでしょうか。その場合には、合理的な減給をともなう可能性も確かにあり、それこそ残業が減ったり出張が減ったりすることに手当の減少などは起こるでしょうが、いわゆる基本給部分についてはなるべく減額とならないように配慮することも大切でしょう(実際、「育休前の処遇が受けられる地位にあることの確認」、つまり賃金を同じようによこせ、という訴訟で、職務内容にはあまりこだわりはなさそうですし。)。今回のコナミの対応は記事をみる限りではかなり粗雑で、かなりの非を問われても致し方ないように思われます。