マクドナルドも店長に残業代

なんと、日本マクドナルドが店長に残業代を支払うことにしたそうです。あれこれ報道されていますが、先日日刊ゲンダイを引用しましたので、きょうはこれまた勤労者にはおなじみの「夕刊フジ」から引用しましょう。

 日本マクドナルドは、直営店の店長ら約2000人の「名ばかり管理職」に対し、8月1日付で残業代を支給することを決めた。同時に役職手当に該当する「職務給」を廃止する。現職店長からは「会社の人件費は変わらず、むしろサービス残業が増えるだけ」と、さらなる労働環境の悪化を懸念する声が上がる。東京地裁は今年1月、店長1人に約750万円の支払いを命じたが、舞台を高裁に移した裁判は継続する方針で、強気の姿勢は何ら変わっていない。
 新たな制度では、残業代の支給対象を直営店長と地域の店舗管理責任者に拡大するが、社内における「店長」や「エリアマネジャー」の肩書や職務権限に変更はない。店長手当に該当する「職務給」を廃止し、成果に応じた報酬と残業代を組み合わせる新制度に改め、社外メンバーによる「労務監査室」を設置して労働時間の管理、残業時間短縮を強化するという。
(平成20年5月21日付夕刊フジから、以下同じ)

他の報道から補足すると、店長の平均残業時間は18.3時間で、残業の短い店長ほど業績もよい傾向が確認されたということで、今後は残業時間の抑制に会社をあげて取り組んでいくのだとか。目論見どおりいけば、会社は残業代を低減しつつ業績が上がり、店長も労働時間が短くなるとともに業績向上を通じて「成果に応じた報酬」がアップするという両勝ちになるわけで、基本的な方向性としては間違っていないと申せましょう。
もっとも、記事は懸念を表明しています。

 一見、「名ばかり店長」問題に歯止めをかけそうだが、現実は甘くない。ホテル従業員を統括するサービス連合傘下の書記長は「店長らは、今後法制上の『管理監督者』でなくなるため、特別勤務(=残業)は上司による事前の『残業命令』が前提。これは、少ないバイトで店を回しながら、終夜営業をこなす店長の勤務実態からすれば、到底現実的ではない」と警告。さらに、自身の人件費管理という“評価”が新たに加わることで、締め付けは一層強まるという。
 実際に同社と係争中の現職店長、高野廣志氏(46)も「今後は協定で、月45時間しか残業ができなくなります。これまで100時間近く残業していたが、残りの55時間分どうするつもりなのか、会社は何も考えていない。店長の仕事量が減るわけでもないし、システムや人事運用が変わるわけでもない。運用次第では、いまよりもっと、店長の労働環境が劣悪になる」と不満を口にする。
 外食産業は、ただでさえ消費低迷と原材料費高騰によるコスト増にあえいでいる。労働力不足の深刻化で要員確保が一層難しくなれば、賃上げ圧力が高まるのは確実で、店舗の賃料上昇などのコスト増も懸念される中、店長らの待遇が厚くなるとは考えにくい。「名ばかり店長」の「名ばかり残業代」が、長時間労働を強いられる直営店長たちを、さらなる窮地に追い込むことになりそうだ。

まあ、このへんはお互いに言い分があるところでしょう。労使で協力して生産性向上と労働時間短縮に努めるというのは成熟した労使関係の姿と申せましょうが、それは労使の信頼関係が成立していることが大前提で、さすがに高野氏のように係争中の労使にそれを求めるというのは無理な話です。
日本マクドナルド(の原田社長)にしてみれば、平均18.3時間で、しかも短いほど業績が高い傾向があるというのですから、月100時間も残業する店長は業績の低い店長だ、と言いたくなるでしょう。で、これまでは「だから時間割で残業代を計算することはしない」という違法状態だったわけですが、今回それは解消されたわけです。高野氏は堂々と45時間残業してその分の残業代を受けとり、それ以上は(時間外協定に特別条項がなければ)働かずに帰ればいいわけです。もちろん、45時間の残業で仕事がおさまるように知恵を使う必要は出てきますし、それをもって「労働環境が劣悪になる」ということも可能でしょう。上司に人員増を要請する必要も出てくるかもしれません。とはいえ、そのいっぽうで多くの店長は平均18.3時間でそれなりに業績を上げているわけですから、その方法を学ぶ、あるいは会社が主導して優れた店長のノウハウを他店に紹介するといった方法で生産性を上げていく取り組みこそが大切なのではないでしょうか。