雇用・失業対策に近道はない

今朝の毎日新聞の社説が、きのう発表された有効求人倍率完全失業率労働経済白書派遣村の解散といったものを材料に、雇用問題を取り上げていますので感想を少しばかり。

 雇用・失業情勢の悪化が依然として止まらない。5月の雇用統計は「過去最悪」のオンパレードだ。
 有効求人倍率は0・44倍となり、63年1月に調査を開始して以来、過去最低となった。完全失業者数は前年同月に比べ77万人増え、これも過去最大の増加幅だ。完全失業率は5・2%に上昇、過去最悪の5・5%を突破する可能性が強まっている。
 厚生労働省は「雇用・失業情勢は、さらに厳しさを増している」と、判断を下方修正した。生産は持ち直しつつあるが、雇用・失業情勢は予断を許さない。景気が回復しても、失業率が改善するまでには半年〜1年かかるといわれる。雇用悪化の状況はまだ続くとみておかねばならず、持続的な取り組みが必要だ。
(平成21年7月1日付毎日新聞朝刊「社説」から、以下同じ)

景気動向は底を打ったとも言われるわけですが、きょう発表された6月の日銀短観をみても企業はまだ相当の人員過剰感を持っているようです。しばらくはジョブレス・リカバリーが続き、雇用情勢が上向くまでにはまだ時間がかかると考えるのが妥当なのでしょう。ちなみに今朝の日経新聞では、日本総研の山田久主任研究員が「年度末には5%台後半から6%」との見通しを示しておられましたが、この見立ては「9.5%」とは違って(笑)かなり可能性がありそうです。

 公表された09年版「労働経済の分析」(労働白書)は、昨年秋以降の不況下と90年代後半以降の2回の景気後退期とでは、異なる雇用調整が行われたと分析する。90年代後半では、正社員のリストラを実施したが、今回は解雇を抑制し、残業短縮などで対応、一方で派遣労働者など非正規雇用労働者の雇い止めなどを集中的に実施したと指摘する。
 非正規労働は経営者にとって使い勝手のいい労働力と言われてきたが、今回の不況では、まさに調整弁として使われたわけだ。非正規労働者の処遇改善を今後の雇用・失業対策の柱として位置づけるべきだ。

たしかに、前回の雇用調整局面ではまだ非正規労働比率も現状より低く、多くの企業が今後さらに一段の雇用調整に迫られる場面を想定し、非正規雇用ももちろん削減されたものの、一定割合を残したままで希望退職などによる正規雇用の削減に向かったと思われますし、新規採用を行う場合でも正規雇用ではなく非正規雇用で採用しようという傾向があったと思われます。その結果、雇用減少は非正規より正規でより多く見られました。
その反省をふまえ、企業は雇い止めなどで調整が比較的容易な非正規雇用の比率を高め、今回の雇用調整局面では想定どおり非正規雇用がまず調整されたということになるでしょう。
そういう意味では、「今回の不況では、まさに調整弁として使われた」ことに違いはないとしても、これまでの不況期でも非正規が調整弁となってきたことに変わりはないわけで、とりたてて今回だけというわけではありません。また、「経営者にとって使い勝手のいい労働力」ということですが、それは雇用量の調整という意味においてであって、それでは残業ができるかとか転勤が可能かとかいった面では必ずしも「経営者にとって使い勝手のいい労働力」かどうかは不明です。
非正規労働者の処遇改善はたしかに取り組みが必要な課題でしょう。大切なのはその取り組み方です。

 労働組合市民グループが昨年末、東京・日比谷公園に開設した「年越し派遣村」が30日、解散した。派遣切りの実態を明らかにし、非正規雇用の問題点を市民に広く訴えた意味は重く、政治と行政が対応に乗り出さざるを得なくなる状況を作り出した。派遣村は解散したが、決して非正規雇用の問題が解決したわけではない。派遣村が投げかけた問題提起を重く受け止め、これからの雇用・失業問題の改善を図っていかなければならない。
 非正規雇用問題では、同一労働・同一賃金原則の確立、処遇改善や雇用確保など、課題は多い。今回、社会問題化した非正規切りに対する歯止め策も検討課題だ。

派遣村が問題点を訴えたから政治と行政が対応に乗り出さざるを得なくなった、と言われては、政治も行政も不本意でしょう。昨年8月に打ち出された経済対策(安心実現のための緊急総合対策)ではすでに非正規雇用問題が対策の柱のひとつとなっていますし、その後も昨年中に2次の経済対策(生活対策・生活防衛のための緊急対策)が打ち出され、非正規雇用対策が強化されています。もちろん、社説がいうように世間の耳目を集めたことの意義はあると思いますが。
そこで具体策はといえば、またしてもいきなり「同一労働・同一賃金原則の確立」が出てきて力が抜けます(笑)。何度も書いてきましたので繰り返しませんが、これに囚われているかぎり改善はみえにくいでしょう。成果主義と同じで、理念が正論であるだけになかなかそこから離れられないというのがありそうです。しかし、非正規雇用問題に対しては、スキルの向上、キャリアの形成の道筋をつけ、より高付加価値な仕事に従事することで処遇改善、雇用安定をはかっていくのが本筋だろうと思います。なお、契約期間途中でそれを一方的に打ち切る「非正規切り」は雇い止めとは異なり明らかに問題ですし、これは現行法にもとづいてきちんと是正、救済されるべきものでしょう。また、是正・救済がされやすくなるような環境整備も必要かもしれません。

 雇用・失業対策を短期と中長期に分けて挙げてみたい。短期では、失業者を増やさない対策を打つ。雇用調整助成金の活用などもその一つだ。失業者には職業訓練で能力をつけさせて就職につなげる。中長期では、非正規雇用から正規雇用への切り替えを進める。失業率が高い若い人の職業教育や能力開発を充実させる。さらには環境など新しい分野での雇用を創出することだ。
 雇用・失業対策に近道はない。足元の現実に目配りし、同時に長期展望をもって取り組むことが必要だ。

まあそうなんでしょうが、やはり最重要なのは雇用、それも良好な雇用を増やすことで、それには「環境など新しい分野」だけではなく、まずは既存産業・企業において技術革新や生産性向上などを進めること、加えて政府などが適切な経済政策・金融政策をとることが第一に必要でしょう。「中長期では、非正規雇用から正規雇用への切り替えを進める」というのもそのとおりですが、その方法は先述したようにスキルの向上、キャリアの開発を通じてのものであるべきでしょう。
「雇用・失業対策に近道はない」というのは全く同感です。派遣や請負、有期雇用などを規制したり、「同一労働同一賃金」を法制化するなどの短絡的な方法は必ず失敗に終わるでしょう。