主流に背向ける男

一昨日の日経新聞から。

 来春入社に向けて「一般職」の採用を再開した会社で異変が起きた。
 九年ぶりに一般職採用を復活した丸紅。採用・人材開発課長の小山秀明(44)は応募者の名簿を見て目を丸くした。約千人の応募者の中に男子学生が数十人含まれていたからだ。最終的に内定を出した二十九人はすべて女性だったが、今後は「男性でも適性が合えば採用する」。十年ぶりに採用する朝日生命保険でも説明会に来た三百五十人の中に男性の姿が目立った。

 東広島市にある年商三百五十億円の精米機器会社サタケ。転勤はないが管理職になれないエリア職を導入したところ、男性の実に四割弱にあたる三百人が同職を選んだ。営業の原田慎吾(37)もその一人。課長になった同期もおり「気にならないと言ったらウソになる」が、高齢の母がいる広島での生活を優先させた。
 会社側は複雑な心境だ。多様な働き方には道を開くべきだが、予想以上の反応に「適材適所の配置ができない」と幹部から悲鳴が上がった。このまま「主流離脱」が続いたら誰が会社を引っ張っていくのか――。
(平成19年12月4日付日本経済新聞朝刊から)

これこそ、ワーク・ライフ・バランスであり、昨今各方面から大合唱の「働き方の見直し」でしょう。一般職ですから残業も少ないでしょうし、転勤は原則なしでしょう。夫婦ともに一般職で共働きすれば、合算してけっこうな年収が期待できるでしょうし、家事・育児に費やす時間も確保しやすいでしょう。「男性は仕事で成功して出世することが人生の勝利だ」というような価値観を転換すれば、丸紅の正社員、しかも事務職なのですから、男性にとっても一般職は相当魅力的なはずです。
もちろん、周囲にまだ出世重視の価値観が多い状況では「気にならないと言ったらウソになる」というのも致し方ないでしょうが、これが「気にならない」になってくれば働き方の見直しも本物ということになるのかもしれません。
幹部の嘆きはもっともですが、「仕事に打ち込んで栄達する」のも「栄達はしないが仕事と高齢の母との生活を両立させる」のもどちらもすばらしいキャリアであり、立派な人生であるという多様性を認める価値観が広がるのであれば、前者を目指す人も一定数は残るのではないでしょうか。ワーク・ライフ・バランス、働き方の見直しだから従来型の総合職は否定されるべきだ、といった画一的な価値観に陥らないことが大切なのだと思います。