2001年8月15日 清家篤「職業人生、60歳代半ばまで 雇用・年金改革

清家篤「職業人生、60歳代半ばまで 雇用・年金改革促す 市場通じた雇用保障急務」2001年8月15日


11月18日のエントリで予告しましたが、予告通り(?)21世紀初頭の日経新聞「経済教室」からご紹介しましょう。まずは2001年8月15日付日経新聞朝刊に掲載された清家篤先生の論考から。

 (1)団塊の世代は良い雇用環境を背景に恵まれた職業人生を送ってきた。しかし、高齢化への対応で年金支給開始年齢が引き上げとなり、六十歳代半ばまで現役の職業人生となる。
 (2)今後は経済成長率が鈍化し企業もリストラを強める。このため、雇用・年金制度の抜本的改革が必要になる。定年制度見直し、採用時の年齢制限禁止、失業保険制度の変更などが課題である。労働市場を通じた雇用保障体制の確立も欠かせない。
(平成13年8月15日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

論考はまず団塊世代の職業生活のレビューからはじまり、総じて幸福な職業人生を送ってきた世代であると結論づけたあと、近年のさまざまな環境変化を述べ、結論として以下のような政策提言をしています。

 第一の大きなポイントは、年齢にかかわらず活躍できる条件の整備である。このためには、それを阻むおそれのある雇用・年金制度の抜本的改革が必要だ。
 雇用制度では、まず定年退職制度が問題である。早くても六十歳代中盤まで働かなければならないときに、現在の六十歳定年では困るのは明らかだ。もうひとつは募集・採用時の年齢制限である。団塊の世代が企業を変わらざるを得なくなったとき、現在のように年齢で募集・採用を制限されていては、再就職の機会はきわめて限られてしまう。
 こうした問題を解決するには、雇用における年齢差別禁止のルールが必要である。もちろんそうなれば、定年や採用時の年齢制限を必要としている年功的な賃金・処遇体系を抜本的に変えなければならない。団塊の世代自身も、年功制度にこだわってはならない。

まあ、これはもっともな意見ですし、実際にその後の高齢法の改正(原則希望者全員の継続雇用を義務づけ)と雇対法の改正(求人時の年齢制限の原則禁止)とで実現してもいます。もっとも、いかに年齢制限を廃止したところで団塊世代の転職がそうも進むかというと首をひねらざるを得ませんが…。また「団塊の世代自身も、年功制度にこだわってはならない」については、とりあえず再雇用時の賃金の大幅ダウンという形では現実化しています。60歳以前の賃金水準まで含めて調整し、定年延長のうえ60歳で大幅なダウンもなくなるような形になるには(なるとしても)まだこの先かなりの時間はかかりそうですが、老齢厚生年金も65歳支給開始になる2023年までにはそこそこの形にはしていく必要があると思うのですが…。

 年金に関しては、厚生年金の給付にともなう収入制限が問題だ。年金の受給年齢になってもなお働き続けようとすると、働くことで得た勤労収入に応じて年金が減額されてしまう。つまり高齢者が働くことにペナルティーを科していることになるわけだ。
 米国では、こうした高齢者の就労抑制効果をなくすため、年金給付にともなう収入制限を今年一月から廃止している。日本でもこれは廃止すべきである。逆に年金給付への税の優遇は廃止し、高額所得高齢者には、年金と勤労所得を合算して所得課税することで所得の再分配を図ればよい。

これも、平成16年の年金改革で、在職老齢年金の一律2割支給停止が廃止されたことで部分的に実現をみたといえるのでしょうか。

 二つ目の大きなポイントは労働市場を通じた雇用保障体制の確立である。まず大切なのは雇用情報をもっとよく行き渡らせるようにすることだ。団塊の世代の持っている能力と、その能力を求めている企業をマッチングさせる機能である。そのためには、民間の職業紹介ビジネスの活動をさらに活性化するように、職業紹介になお残っている料金規制などを抜本的に見直す必要もある。
 中高年の場合、培った能力を活かせる職場を探したり能力の再開発に時間を要したりすることも多く、いったん失業した場合の失業期間も長くなりやすい。中高年の失業保険給付期間は延長する必要があるだろう。その代わり、給付額の水準はもう少し下げてよい。

労働市場を通じた雇用保障体制」は今でも一部で根強く主張されていますが、ということはなかなか実態は変わっていないということなのでしょう。まあ、好条件の転職、再就職がしやすいというのは結構なことには違いないのですが、どうしたって循環的要因に大きく左右されますから、どんな不況の中でも維持できる「労働市場を通じた雇用保障体制」なんて無理に決まってます。もちろん、民間需給調整の活性化は望ましいことですが、どこまで期待できるかというと限界はあるでしょう。労働市場を通じた雇用保障もいいですが、事業転換を通じた雇用保障というのももっと重視されてもいいのではないでしょうか。まあ、電機メーカーなどをみていると、事業転換が早すぎて請負などに依存せざるを得ないというのがこの後現れた現実でもあったわけですが…。
で、結論はこうなんですが、

 こうみると、団塊世代の職業人生はこれまでより厳しくなりそうである。しかし同時にこれから産業社会は肉体的負荷の大きい仕事の重要性が低下するなど、高齢のハンディも小さくなるはずだ。専門的な能力さえ身に付けておけば、高齢になっても働き続けやすい社会になりつつある。このようなときに高齢者となる団塊の世代は、やはり恵まれた人たちといえるのかもしれない。

いよいよ団塊世代の定年がはじまったこんにち、これを読んで団塊世代はどういう感想を持つのでしょうね。それなりに雇用延長も導入され、年金もどうにか確保されそうですから、外からみればやはり恵まれているようにも思えるわけですが。