山本直治『人材コンサルタントに騙されるな』

人材コンサルタントに騙されるな! (PHP新書)

人材コンサルタントに騙されるな! (PHP新書)

キャリアデザインマガジン第66号のために書いた書評です。まあ、毒にも薬にもならない本ですが、たまにはこんなのもいいでしょう。以下転載。
 著者は文部科学省のキャリア官僚から人材ビジネスに転じた異色の経歴の持ち主で、公務員を対象とした転職支援サイト「役人廃業.com」の主宰者としても知られている。書名はいささか下世話な感があるが、実際の内容は民間職業紹介ビジネスの基本的な知識と業界の概況、そこで働くコンサルタントの仕事の実態、くわえて同ビジネスを利用するにあたってのアドバイス、といったもので、いたって堅実な解説書といった趣がある(ちなみに、本書では「職業紹介ビジネス」という一般的な呼び方ではなく、一貫して「人材紹介ビジネス」との用語が使われている。手数料を支払ってくれるクライアント企業の視点を重視しているということだろうか)。実際、「キャリアデザインマガジン」の読者であれば職業紹介ビジネスのあらましはご承知だろうが、ふだん転職などを意識しない人の多くにとっては、職業紹介ビジネスは縁遠い存在だろう。となると、多くの人にとってはいざ転職が現実味のあるものとなってきたときに「人材派遣会社に登録するのと、職業紹介会社に登録するのとなにが違うのだろう?」ということになりかねない。また、一口に職業紹介業者と言っても数は多いし、大手には大手の強みがあり、中小にもそれぞれに得意分野があるだろう。求職者は原則として手数料を徴収されないとはいえ、効率的に転職活動を進めるには職業紹介業者もうまく利用したいだろう。そのためには業界のビジネスモデルはそれなりに承知しておく必要があるだろうし、さらに職業紹介は結局は人対人のプロセスなのだから、そこで働く人の仕事の実情も知っていたほうがお互いになにかとやりやすいに違いない。そう考えると、この本はなかなか役立つ本といえるかもしれない(逆に、書名から業界の裏話的な内容を期待する向きにはおすすめできない本でもある)。
 ただ、著者はまだ人材ビジネスに身を投じて2年の経験しかないということなので、そこは割り引いて考える必要があるかもしれない(これは著者自身も率直に認めているところである)。業界の概要や動向などについての記述はそれなりにそつがないようだが、事例や経験談などは取材によるものが多いせいか、いささか通り一遍な印象を受ける。そういう意味ではやはり解説書の域は出ていないともいえそうだ。
 なお、キャリアデザインという観点からまことに興味深いことに、この本は人材コンサルタント自身のキャリアプランについても言及している。キャリアを扱う仕事、しかも専門職である上、独立開業という選択肢も常にありうる職業だから、当然ながら自分のキャリア形成にも関心が高いだろうと思うのだが、必ずしもそうでもないらしいところが面白い。そして、積極的に経験を積み、情報を収集し、あるいは仕事の幅を広げ、知識や人脈を蓄積していくことが大切らしいということは、どうやらほかの多くの職業と同様なようだ。当然といえば当然のことなのかもしれないが。