吾妻橋氏の諮問会議復活論

先週金曜日の日経「大機小機」に「吾妻橋」氏が登場しておられましたので例によって備忘的に転記しておきます。お題は「首相の政治主導実現のために」となっています。

 民主党が政権を取ってから3人目の野田佳彦首相が誕生した。…個性が強いだけで機能しなかった前任者たちと異なり、地道に対応する実務家としての能力が期待される。
 過去の首相は、密室で決めた重要な政策を唐突に打ち出し、反対論が出ると引っ込めるという、信頼性を損なう行動を繰り返した。この逆のやり方での政策決定はとくに難しいわけではない。
 まず、何よりも関係者の間で議論を尽くすことである。党内の支持基盤が弱い首相にとっては、その舞台は官邸しかない。前任者の残した数多くの首相諮問機関を整理し、経済問題に関する単一の会議に集約する。そこに少数の関係閣僚と労働界・財界代表を含む少数の民間委員を置き、重要政策について賛成・反対の議論を大いに戦わせる。
 この関係資料や討議内容は数日以内に公開する。重要課題に関するオープンな議論を踏まえ、最後に首相が決断した内容については、たとえ党内に反対があっても最後までやり通す。首相は何が道理ある結論かを理解できるだけでよく、とくに強いリーダーシップが必要なわけではない。
 もっとも、会議での議論が首相の思いと正反対の方向に行かないようにするには、会議の議事を仕切る経済財政相と、民間委員の人選が重要である。国会議員でなく民間人が必要な理由は、次の選挙での当落を気にせずに、現首相のためだけに働く一代限りのポストとするためである。
…以上の条件に見合った会議は、新たに法律を作るまでもなく、すでに存在している。現首相と同様に、党内の政治基盤が弱かった小泉純一郎元首相が大いに活用した経済財政諮問会議である。この名称を国家戦略会議などに改め、財界人の1人を連合会長に置き換えれば、欧州のような社会連帯形成の場が誕生する。
 自民党時代に社会保障費を減らそうとした因縁のある会議だから廃止し、法律の裏付けなき、格下の会議に置き換えというのは、あまりにも子供じみた議論である。これを民主党初のノーマルな首相の政治主導を発揮するための場として、大いに活用すべきである。(吾妻橋
平成23年9月30日付日本経済新聞朝刊から)

いや民主党初のノーマルな首相ってこれまではアブノーマルだったということですか(笑)。厳しいなあ。
さてそれも含めて(笑)いつもながら非常にもっともな、頷かされる議論だと思います。とりわけ、経財担当相・民間委員の人選と情報公開が特に重要だというのはそのとおりと思います。小泉内閣経済財政諮問会議が有効に機能したのは、経財担当相が政治家ではなく民間人(その後政治家になりましたが)であり、民間議員の学者も現実的な自由主義で、議論のたたき台としていわゆる「民間議員ペーパー」を活用したことと、これに対して誰が何を言ったかをすべて公開することで、各界の利益のために国益を犠牲にするような発言がかなり抑制されたことによる部分は大きいものと思われます。また、ここでは触れられていませんが、(名称はいろいろ変わりましたが)総合規制改革会議と連携してアイデア交換が行われていたことも重要だったのではないかと思います。
連合会長を入れるというのもいいと思いますが、できれば現職の会長ではない、適切な労働界の代表者にしたほうがより好ましいとも思います。なにかというと現在の日本政治の最大の問題点はポピュリズムの蔓延だと思うわけで、いや連合がポピュリズムだというつもりはありませんが、しかし現状で経済財政諮問会議のようなものを作るのであればその最大の役割は脱ポピュリズムの政策決定を推進することだろうと思うわけです。それを思うと、これまでの例からみて多様な構成組織すべての利益を代表して発言しなければならないと思しき現職の連合会長よりは、ヨリ自由に発言できる例えば元連合会長のような立場の人がいいのではないかと思います。ただ笹森氏は逝去されてしまいましたし、芦田氏はあまりふさわしい感じがしません(失礼)。鷲尾氏はややご高齢ですがお元気なようですので適任かなあという気がしますが、もう旭日大綬章も受けられていて功成り名遂げて引退モードかなあ。同じ意味で、学者も増税規制緩和など不人気な政策を進められる人である必要があるわけですが、しょせん無理かなあそもそも民主党マニフェストポピュリズムのかたまりみたいなもんだしなあと悲観的にならなくもありません。党内で見直しの議論もあるようですし、野田首相増税路線だそうですのでかすかに期待できるかとも思っているのですが。
それにしても、政治家に政策を作らせるとろくなことにならないから民間人が必要だというのがまともな民主政国家の政策決定なのかと思うわけですが、まあ民主政というのはそういうものなのでしょう。
なお過去の「吾妻橋」氏関連のエントリはこちらです。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100730#p1
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100531#p3
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20091207#p1
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090819
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090119#p1