キャリア辞典「労働ビッグバン」(3)

キャリアデザインマガジン第61号に書いたエッセイを転載します。「労働ビッグバン」の3回めです。
ワークライフバランス憲章」なるものは、正社員については「完全週休二日制の100%実施、年次有給休暇の100%取得、残業時間の半減、フルタイム労働者の年間実労働時間を1割短縮」することをめざすのだそうです。まあ、それはたいへん立派な取り組みだろうとは思います。とはいえ、「残業時間の半減」というのは、当然ながら残業代も半減するということだろうと思うのですが、本音ベースでそれでいいんですかね?政権与党である公明党の太田代表によれば「残業代が生活に組み込まれている実態がある」のだそうですが…。マスコミ各社は「残業代半減憲章」と批判しなくていいんでしょうかね?こちらは大ウソの「残業代ゼロ法案」とは違って、かけねなしホントだろうと思うのですが。
以下は転載です。


 労働ビッグバン(3)
 「労働ビッグバン」の具体的な内容と進め方を検討している「労働市場改革専門調査会」は、この4月に『「働き方を変える、日本を変える」−《ワークライフバランス憲章》の策定−』と題する第1次報告をとりまとめた。その内容は非常に多岐にわたり、それぞれに多くの論点を含んでいる。
 報告書はまず第1章で民間議員ペーパーが提示した「6つの壁」について述べ、現状の問題点を列挙している。そのあとに第2章として「目指すべき労働市場の姿−多様で公正な働き方を保障−」が続いている。その目指すところは、(1)生涯を通じて多様な働き方が選択可能になること、(2)外部労働市場が整備され、合理的根拠のない賃金差が解消されること、(3)多様な働き方に対して横断的に適用される共通原則が確立すること、(4)税制・社会保障制度が働き方に中立的になっていること、(5)職業紹介・職業訓練が充実していること、(6)セーフティーネットが就労機会促進型になっていること、(7)労働条件が高い透明性を有していること、(8)国と地方の間に連携がとれていること、という8項目に整理されている。「働き手が、多様で公正な働き方の選択肢から、ライフスタイル、ライフサイクルにあわせて選択できるようになることが鍵」なのだという。
 そして、続く第3章が「《ワークライフバランス憲章−働き方を変える、日本を変える−》の策定」となっている。ここでは、「若年者、女性、高齢者の就業率を向上させるために、それぞれに明確な数値目標を掲げて、これに取り組む」「フルタイム労働者の年間実労働時間を短縮するため、完全週休二日制の100%実施、年次有給休暇の100%取得、残業時間の半減に取り組む」「《ワークライフバランス憲章−働き方を変える、日本を変える−》を策定する」の3つが提言されている。
 とりわけここで「目玉」として意識されているらしいのが「明確な数値目標を掲げ」たことのようだ。具体的には、10年後の数値目標として「15〜34歳の既卒男性の就業率を89%から93%に4%引上げ、15〜34歳の既卒未婚女性の就業率を85%から88%に3%引上げ」「25〜44歳の既婚女性の就業率を57%から71%に14%引上げ」「60〜64歳の高齢者の就業率を53%から66%に13%引上げ、65〜69歳の高齢者の就業率を35%から47%に12%引上げ」「完全週休二日制の100%実施、年次有給休暇の100%取得、残業時間の半減、フルタイム労働者の年間実労働時間を1割短縮」が掲げられた。
 こうした景気循環の影響を大きく受ける指標を労働政策の目標とすることにいかほどの意味があるのか疑念は大きいが(経済政策全体の目標としてはあるいはふさわしいかもしれないが)、こうした形で意気込みを示すことには意味があるということなのだろう。また、この目標の根拠はそれぞれ若年者、女性、高齢者の「就業希望者が就業できるようにする」ことであるらしい。もちろん、国民の希望を実現することは政府の大切な役目だろうから、それを政策の目標とするのはもっともな話かもしれない。しかし、いうまでもなく重要なのは、どのような政策がどのような効果を発揮することでその目標を達成できるのか、という政策の整合性だろう。
 残念ながら、第1次報告は個別政策の羅列にとどまっており、誇張した表現をすれば「思いつきを並べただけ」という感も否めない。「第1次」報告というからには「第2次」以降もあるのだろうから、おそらくはこれから議論が深められていくのだろう。今後の展開が注目される。