原子力技術者不足

 原子力発電を支える技術者不足が深刻だ。一九八〇年代から続いた原子力の停滞と団塊世代の大量退職が主な原因。十二日まで青森市で開催された日本原子力産業協会年次大会でも人材難を不安視する声が相次いだ。
 「技術を若い世代に継承するには今しかない。ラストチャンス」――。東芝の庭野征夫副社長はこう力説する。
 東芝では原子炉の建設が相次いだ最盛期二千人の技術者がいたが、現在は千人を切る。石油価格の高騰と温暖化対策を背景に原子力回帰の波に乗って世界市場での受注を目指しており「単純に千人足りないでは済まない」(庭野副社長)。新卒採用を二〇〇六年の五十人から三百人に増やす予定だ。
 人材への不安は電力会社も事情は同じ。関西電力の森本浩志副社長は「ベテラン技術者がやめていき、経験が蓄積できなくなる」と話す。
 国内の原発建設は一九八〇年代にピークが過ぎ、その後、事故やトラブルが相次いだ。原油価格の低迷もあり原子力産業は「冬の時代」が続いた。原子力工学専攻をもつ多くの大学から「原子力」の三文字が消えた。原子力工学の卒業学生数は、この十年で約四割減になった。
 国は二〇〇七年度から人材育成プログラムをスタート、大学や研究機関での教育に助成する。ただ、人はすぐに育たない。原子力工学が専門のある教授は「国の政策も右往左往し、学生は原子力産業へ進むのをためらう」と打ち明ける。
 世界各地で今後二十五年間で約二百基の原発新設が計画されている。約七万人の技術者が不足しているとの見方もある。
 仏原子力大手アレバ社は昨年七千人の技術者を新規雇用、今年も同規模の採用を予定する。年次大会の講演でアンヌ・ローベルジョン最高経営責任者は「原子力が魅力ある産業であれば人材は集まる」と強調した。
 原発を巡るトラブル隠しやデータ改ざんが次々と明らかになった日本の原子力関係者には耳の痛いコメントだった。
(平成19年4月16日付日本経済新聞朝刊から)

 いかにまじめに働き、いっしょうけんめい頑張っても、人間である以上過失はつきもの。結果として事故が一つ起きてしまっただけで全否定されるような仕事を誰が選ぶでしょうか。
 医療過誤なども同じことで、結果論での責任追及が過ぎると医師のなり手がなくなりますよ。
 隠すのは決してよくないことですが、一切の釈明が許されないかのような雰囲気の中では隠したくなるのも人情でしょう。それにマスコミが怒るのもまた人情ですが。