6つの壁の5つの項目

「6つの壁」の5つの項目についてコメントしていますが、第2の項目は「多様な働き方の実現」で、働き方の「壁」の克服になるのだそうです。

多様な働き方の実現

2、多様な働き方の実現 →働き方の「壁」の克服
 ・「時間」に縛られない多様な働き方
 ・職種を選べる働き方
 ・子育てと両立する働き方
 ・障害者のニーズにあった働き方
 ・雇用形態に対する中立の観点からの税・年金等の改革
 ・テレワークの促進、等

働き方の壁というのは、こういう働き方をしたい、しかし諸般の事情でできない、それをなんとかしよう、ということなのでしょうか。まあ、拘束度のかなりきつい正社員と、拘束後は低いが不安定で労働条件もあまり高くない非正社員の間にもっと多様な働き方があればいいのだが、という問題意識はわからないではありません。ただ、6項目あげられていますが、時間、職種、育児、障害者、税・年金、場所と、切り口の異なる論点が整理されないままに羅列されている印象があり、ちょっと議論しにくい感じがします。
それはそれとして各論に移りますと、いきなり「時間」に縛られない多様な働き方、ときて、即座にホワイトカラー・エグゼンプションが連想されるわけですが、「時間に縛られる」というのもいろいろな意味があるでしょう。労働時間が長すぎる、始就業時刻が硬直的で融通がきかない、といったものもあるでしょうし、一方ではもっと仕事をしたいのに上司が許してくれない、といったものもあるでしょう。まとまった休みをとりたい、というのもあるかもしれません。障害となるものも、法制度的な規制もあるでしょうし、営業成績が上がらないとなんとなく帰りにくいから仕事もないのに居残ってしまうという職場の雰囲気の制約、人件費予算などの組織運営上の制約などなど、たくさんあるだろうと思います。
きのう書いたこととほとんど同じことですが、いずれにしても労働時間の長さや柔軟性も労働条件の一つですから、他の労働条件とのパッケージで考える必要があります。やりがいのある仕事、関心の深い仕事であればいくら働いても苦にならない、いくらでも働きたい、ということもあるだろうと思います。そのいっぽうで、労働時間は短くしてほしい、でも収入が減るのはいやだとか、もっと休みをとりたい、でも人事評価は高くしたいとか、あれもこれもと欲張る気持ちが最大の「壁」になっている人もいるかもしれません。これは結局、仕事以外の生活も含めた、人生全体についてどういう価値観で生きるのかという問題まで行き着くのでしょう。
職種を選べる働き方、というのはよくわからないのですが、職種別採用を拡大するとか、さらには企業横断的職種別賃金と職種別労働市場を形成したいとかいったことまで視野に入れているのかもしれません。日本企業では長期雇用のもとでの長期的な適正把握、人材育成、企業特殊的熟練の蓄積といった人材戦略で競争力を確保しているケースが多いといわれていますが、もちろんすべての人がそうでなければならないわけではありませんので、職種別採用も必要に応じて実施すればいいでしょうし、それが広がれば職種別賃金も職種別労働市場もできてくるかもしれません。ただ、現状の日本企業の人事戦略を考えると、高度な業務を担う人ほど企業特殊的な技能や知識が求められることから、ハイレベルな分野にまではなかなか広がりにくいかもしれません。もっとも、たとえば金融業などのように、企業独特のノウハウ等の比率が低い業界では、ハイレベル人材の移動の可能性も高いでしょうし、すでにかなり活発に移動しているのではないかと思いますが。このあたりは職種、業界による違いがありそうです。
いずれにしても、キャリアという面では、あまり早い段階から自分の職種を限定してしまうと、適性をしっかり把握することができず、結果として知らないうちに機会を失う可能性があることには注意が必要ではないでしょうか。また、職種別採用、職種別労働市場もあまり硬直的になると、その職種が衰退していくときに困ったことになるかもしれません。
次は子育てと両立できる働き方ということですが、これは時間的柔軟性や場所的柔軟性のほかに、就労継続や育児によるキャリア中断に対するサポートとかいうものが含まれてくるのでしょうか。「働き方」というのとはちょっと違うような気もするのですが…。あるいは、職種別労働市場ができれば育児一段落後の再就職が容易、という理屈もあるのかもしれません。
障害者のニーズにあった働き方、というのは、まあ障害者雇用の拡大が大切であることは間違いないわけで、いろいろなハンディキャップに配慮して働きやすくしていきましょう、ということでしょうか。これは労働時間や勤務場所もさることながら、職務設計の部分が重要になってきそうです。
雇用形態に中立な税・年金というのも以前から言われていますが、これは特に安倍首相が大いにやる気になっている短時間労働者への社会保障の拡張が念頭におかれているのでしょうか。第3号被保険者とか配偶者控除といったものも含まれてくるのかもしれません。なかなか、一筋縄ではいかないでしょうが…。
最後にくるのがテレワークで、これは場所的な自由度を高めていくということでしょうか。これにも拡大を阻害するさまざまな制約がありますが、労働時間把握や労働災害といった問題だけではなく、個人請負や業務委託といった多様な就労形態にまで踏み込んで検討していく必要があるかもしれません。
いずれにしても、「働き方」という幅広い概念の中からあれこれと持ち出してきて、あまり整理されていないなという印象で、もう少し具体的な話が出てこないと議論しにくい感があります。まあ、「多様な」なのである程度仕方ないことなのかもしれませんが…。