ホワイトカラー・エグゼンプションは成果主義か

ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)FAQ、続いて行きます。

WEは労働時間の長さではなく成果で賃金を支払うしくみだと言われているようですが、成果を正しく評価することができるのでしょうか?

経団連の岡村副会長(東芝会長)は、WEについて「ホワイトカラーの仕事は時間で測定しにくいので、いま払っている残業代を時間ではなく仕事の成果に応じて新たに配分する仕組みだ」と述べたそうです(平成19年1月17日付日本経済新聞朝刊)。これに限らず、WEについては「時間ではなく成果」という言われ方がされることが非常に多く、企業の実務家にもそういう認識が広がっているようですが、これは必ずしも正確ではないと思われます。
WEは、賃金を時間割で支払わなくてもいいという制度ではありますが、時間ではなく成果だ、という制度では必ずしもありません。柳沢大臣がWEの要件として「職務記述書」を持ち出したことがありましたが、たとえば「時間ではなく職務」という制度にすることもできるはずです。もちろん、「時間ではなく能力」も可能でしょう。
さて、成果に限らず、職務でも能力でも「正確に評価」することは多くの場合難しく、とりわけWEの対象となるようなホワイトカラーにおいては困難でしょう。同じように、評価について100%の納得を得るということも不可能というほかありません。
いっぽうで、労働時間なら正確に評価(測定)できるかといえば、決してそんなことはありません。WEの対象となるような人の仕事であれば、組織として本当に必要とされている仕事をしている「労働時間」と、自分自身の興味や満足のためにやっている、必ずしも組織は必要としていない仕事をしている、いわゆる「趣味でやっている」時間との境界は、実は限りなくグレーです。
こうしたことをふまえて、「労働時間の長さ」で賃金を支払うよりも、成果でも職務でも能力でもなんでも(多くの場合はそれらの複合になるのでしょうが)、労働時間以外のなにかで賃金を支払ったほうが適当だ、ということであれば、WEは有効だということになるでしょう。

ワーク・ライフ・バランスや少子化対策のためにWEが役立つといわれているようですが、本当でしょうか?

今一度経団連の岡村副会長(東芝会長)にご登場いただきます。氏はWEについて「仕事と生活の調和を目指す上で、多様な働き方の一つの姿を示すものなので、今後も導入を求めたい。新しい働き方をどうやって築き上げていくのか、労使間で大いに議論してほしい。少子化対策にもつながる」と述べたそうです(平成19年1月24日付毎日新聞朝刊)。規制改革会議などでも同種の議論がみられます。
ワーク・ライフ・バランスについては、WEの対象者は幹部候補生ですから、ワークに重点をおいたワーク・ライフ・バランスを望んでいる人が多いものと思われます。WEは時間の制約にあまりとらわれずに働ける制度ですから、そういう意味では彼ら・彼女らの望むワーク・ライフ・バランスに資する制度といえるでしょう。
また、ワーク・ライフ・バランスを「ライフに多くの時間を費やせる」というように狭く捉えた場合でも、WEは労働時間の自由度を高めますので、たとえば育児のために遅めの出勤や早めの退勤をするといったことも可能になります。そういう面では、WEがワーク・ライフ・バランスや少子化対策に役立つ可能性はあります。ただし、繰り返しになりますがWEの対象者はワーク重視の人が多いでしょうから、以前も書いたようにWEによって労働時間は長くなる傾向があるものと思われますので、そういう面ではライフに費やす時間は増えない可能性が高いですし、少子化対策にも役立たないでしょう。
いずれにしても、ワーク・ライフ・バランスは、WEか否かという労働時間制度の問題というよりは、本人の意識の問題という部分が大きいのではないでしょうか。