ますます迷走する労基法改正

いやはや。もう何だかメチャクチャになってきましたね。

 今国会の争点の一つである雇用ルール改革を巡り、政府・与党が迷走している。政府は一定条件の会社員を労働時間規制から外す新制度の導入を見送る一方、残業代の割増率の引き上げだけを先行して労働基準法改正案に盛る検討に入ったが、今度は与党が中小企業経営者への配慮を打ち出した。七月の参院選を意識した選挙対策の側面が強く、改革の理念は見えにくくなっている。

与党は目先の選挙に不利との理由から「残業代ゼロ制度」のレッテルをはられた除外制度の導入を早々と断念。シナリオは大きく狂い、本来の政策目的もゆがみ始めた。
 公明党では、残業代引き上げだけを盛った労基法改正案の提出を求める声が大勢を占め、同党幹部も「残業代引き上げを切り離してやる」と明言する。
 自民党では商工族を中心に残業代引き上げの先行論に反対が強かったものの、若者ら無党派層対策を重視する意見が勢いを増しつつある。中川秀直幹事長も「やれるものから分離してやっていこうという議論が多数のような気がする」としている。
 問題は、自民党ばかりでなく公明党の支持者にも中小・零細企業の経営者が多い点だ。与党はこうした支持層にも配慮し、残業代引き上げを先行する場合には、中小企業向けの激変緩和措置が不可欠との判断に傾いた。
 とはいえ、会社数で国内の九九%、労働者数で六―七割を占め、残業も多いとされる中小企業への配慮を強めれば、長時間労働の是正を狙った見直しの実効性は大きく薄れるとの見方も多い。
(平成19年1月26日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、口あんぐり、とでもいいますか(笑)。
理屈は一切抜き、なりふりかまわぬ選挙対策で、それほどまでに与党は追い詰められているのでしょうか。ここまであからさまにやったのでは、どう考えても逆効果のような気がします。
というか、迷走ぶりの悪影響はひとまずないとしても、これは本当に選挙対策になってるんでしょうか。ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を見送ったのは労働者へのサービスで、経営者には逆サービス。割増率の引き上げも同じ。で、中小・零細への特例は、中小・零細の経営者にはサービスで、中小・零細の労働者には逆サービス。これを足し算すると、サービスされたのは大企業の労働者と中小・零細の経営者で、逆サービスは大企業の経営者と中小企業の労働者ということになります。中小・零細の労働者は野党支持が多いでしょうが、連合=民主党でがっちり組織されている大企業組合員に較べればまだしも与党が望みを持てるのではないでしょうか。大企業の経営者は、まあ数も少ないし(影響力はありそうですが)、どっちにしても野党には入れないだろうは言えそうですが。
実際には、今回のWEは事実上ほぼ大企業でしか使えないようなものになっているわけですから、そこをはっきりさせた上でWEを入れてしまったほうが、経営者全部を味方につけられた分、得策だったんじゃないでしょうかねぇ。まあ、それほど大きな差ではないかもしれませんが…。
それはそれとして、一連の動きをみていると、与党の認識は「労働者の大半は長時間労働の是正なんてどうでもよくて、それよりはたくさん残業をつけてお金をたくさんもらいたいと考えている」というものだということがよくわかります。本当にそれが実態なのでしょうかねぇ。まあ、連合などは「労働時間は短く、お金はいっぱい」と考えているフシもありますが(そりゃ、それが一番いいでしょう)。今から思うと、80年代後半以降の時短運動のときに、「残業代がなくなって減収になってもいいから、労働時間を短縮するのだ」と割り切った鷲尾悦也さん(元連合会長、当時連合時短委員長)は偉かったのだなぁ。それとも、ピエロだったのか…。