ホワイトカラー・エグゼンプションで生産性は向上するか

ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)FAQ、さらに続きます。

WEを導入すると生産性が向上すると言われていますが、本当でしょうか?

これは生産性の見方にもよるので、一言では言えませんが、人によってさまざまな可能性があるものと思われます。
とりあえず、生産性の分子の方、業務や成果の質や量については変わらないとして考えてみます。
分母のほうは、まず、生産性を人件費の単位コストあたりでみると、以前のエントリでも書いたように、制度導入時にはほぼ残業代と見合いのWE手当を設定することになるでしょうから、人件費総額は変わらず、したがって生産性も変わらない、ということになると思われます。むしろ、実務的には年収要件を最低保証するためにWE手当を若干高めに設定することが多くなるものと思われますので、その分は会社の持ち出しが発生することになります。この場合は、短期的は人件費総額が増加し、単位労働コスト当たりの生産性は低下しますが、中長期的には賃金水準で調整されていくと考えられます。
単位労働時間当たりの生産性という観点では、やはり分母に変わりはないとすれば、労働時間が短くても賃金は減らないからテキパキと働いて早く帰ろう、と考える人の生産性は高まるでしょうし、労働時間の制約がないならゆったりとマイペースで快適に働こう、と考える人の生産性は低下するでしょう。同じ人でも、日によって働き方が変わるかもしれません。これがトータルでどうなるかはわかりませんが、案外、ゆっくり働いても会社の出費が増えるわけじゃないんだから心地よいペースでやるか、というマイペース派のほうが多くなりそうな気もします(根拠なし)。ただ、興が乗ったときは夢中になって長時間働き、調子が出ない日はほどほどで切り上げる、といった自由度は高まりますので、結果として生産性の高い時間の割合が高まることは期待していいかもしれません。このあたり、なかなか予測は難しいところです。
なお、一般的に労働時間がある程度長くなってくると、疲労などによって生産性は低下することは間違いありませんので、生産性の観点からも行き過ぎた長時間労働が好ましくないことは言うまでもありません。
さて、生産性の分子のほう、業務や成果の質や量がどうなるかですが、基本的には労働時間の制約なしに、納得できる仕事の質をめざしたり、期待を上回る仕事を追求したり、関心の赴くままにさまざまな模索をしたりできるようになるわけですから、質も量も向上することが期待できるでしょう。もっとも、WEの対象となる人はすでに相当程度そうした指向の働き方をしているでしょうから、あまり大きな向上までは期待できないのかもしれません。
もうひとつ、意欲や志気の動向によっても業務や成果の質や量は左右されますが、WEが適用されるということは幹部候補生として認定されることであり、昇進昇格の期待が高まるということになるでしょうから、やはり基本的には意欲を高める方向ではないかと思います。ただ、人によっては、長時間残業して多額の残業代を受け取る機会を喪失することで意欲を失う人もいるかもしれませんので、これもトータルでどうなるかはわかりませんが、どちらかといえば意欲が高まる人のほうが多数ではないかという印象はあります。もっとも、WEで意欲高く働いたとしても、昇進昇格などで期待するような見返りが得られない状況が続けば、かえって意欲の低下を招くだろうことは目に見えていますので、見返りを与えられる範囲を超えてあまりにWE適用を拡大することには危険があります。いっぽうで、100%本人の期待するような見返りを確保することも当然無理なわけで、この部分は人事労務管理の上手な舵取りが必要でしょう。労使委員会決議や本人同意などの手続の中で、十分な説明・情報開示によって適正な運用がはかられることが期待されます。