そんなにいるわけない

パート労働法の改正が国会で審議されています。柳沢厚労相は、改正法で差別が禁止される「正社員並みパート」について「全体の4〜5%」という見解を示したのだとか。

 改正案は正社員とパート労働者との平等な処遇を大前提に、パート労働者の待遇を改善する努力義務を企業に課すものです。特に正社員と雇用期間や職務などが同じ「正社員並みパート」については、正社員との賃金などでの差別的取り扱いを禁止。その他の「一般パート」は、正社員と賃金などでバランス良く処遇する「均衡処遇」の努力義務を課します。
 さらに企業には、パート労働者に正社員の募集を知らせ、昇給や退職金の有無などの労働条件を文書にして手渡す義務を課すほか、一般パートにも職業訓練の機会を与える努力義務を課します。
 ただ、正社員並みパートの人数に関して、柳沢伯夫厚労相は国会審議で「パート全体の四―五%」と述べました。全体の九割以上を占める一般パートについて、正社員との均衡処遇はあくまで努力義務にとどまるため、法改正で本当に処遇が改善されるのか疑問視する見方も出ています。
(平成19年2月25日付日本経済新聞朝刊から)

うーん。しかし、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/01/dl/s0122-2a.pdfにある要綱をみると、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」(職務同一短時間労働者)とは、こういうものとされています。

 業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度からみてその職務の内容が当該事業所における通常の労働者と同一の短時間労働者(以下「職務同一短時間労働者」という。)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの間において当該通常の労働者と同様の態様及び頻度での職務の変更が見込まれる者

まあ、割り切った言い方をしてしまえば(したがってかなり粗雑です)、ある一段面をスタティックにみれば、ある短時間労働者のある仕事と同一内容の職務についている「通常の労働者」は探せば見つかるでしょうから、これはおそらくさほどの意味はないでしょう。それではなにが意味があるかといえば、それは「キャリア」ということになりはしませんか。で、このブログでも再三再四申し上げておりますが、「キャリア」まで(ほぼ)同一なのか否かは、結局のところ使用者にしか判断はできないはずです。この要綱は、なんとかそれを裁判所も判断できる、ということにすべく「当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの間において当該通常の労働者と同様の態様及び頻度での職務の変更が見込まれる者」という回りくどい言い方をしているのではなかろうかと思います(もっとも、依然としてこれも使用者以外に判断できるとは思えませんが)。いずれにしても、このややこしい表現、まさに「キャリア」です。そう考えると、本当に(とりわけ管理監督者候補であることが念頭におかれている)正社員と同じキャリアの短時間労働者というものが、はたしてどれだけいるものか?少なくとも、柳沢大臣のいう「4〜5%」ということはないでしょう。所定労働時間の長短を除けば、あとはフルタイム正社員とまったく同様のキャリアが想定されている短時間労働者、またしても粗雑にいえばいずれ課長となり部長となり、運と実力次第では役員になるだろうと考えられている短時間労働者が、本当に20人に1人、25人に1人いるでしょうか?もちろん、いることは間違いありません、現実に役員になった「パートタイマー」(現実には役員になるときにはフルタイムに転換していることが多いでしょうが)もいるのですから。しかし、それは20人に一人どころか、1000人、10000人に何人かではないでしょうか?
まあ、政府ができれば法改正の対象となる人数を大きく見せたいと考えるのはわからないではありません。しかし、柳沢大臣のこの発言は、失礼だのなんだのといった情緒的な批判以前に、明らかな「間違い」ではないかと思います。野党もこちらのほうを論難したほうが筋がいいのではないかと私は思うのですが、まあ余計なお世話でしょうが…。