小島貴子『就職迷子の若者たち』

就職迷子の若者たち (集英社新書)

就職迷子の若者たち (集英社新書)

「キャリアデザインマガジン」のために書いた書評を転載します。なかなかの良書と思います。
 90年代後半以降、長期にわたる経済不振のなか、新卒就職戦線も厳しさをきわめ、世に「就職超氷河期」といわれた。このところは経済の回復を受け、新卒就職事情もかなり改善しているといわれる。しかし、この「超氷河期」の実態が、当事者である若者たちや進路指導の教員、および企業の限られた第一線の採用担当者を除けば、世間でどれだけ正しく理解されていたのか、はなはだあやしい。若者の両親や、若者とともに働く上司、同僚は、若者のおかれた状況を理解しているだろうか。「若年雇用対策」を立案し推進する政策関係者たちはどうだろうか。若者が厳しい状況におかれた最大の要因は企業からの求人(とりわけ正社員求人)の圧倒的な不足だっただろうが、これら周囲の人々の理解が必ずしも十分でなかったことが、若者たちを一段と厳しい状況におくことになったのではないか。
 この本は、「キャリアデザインマガジン」の読者であれば言わずと知れたカリスマキャリアカウンセラーの手になるものである。豊富な経験をもとに、こんにちの若者がおかれた就職戦線をつぶさに描き出している。なかなか見えにくい若年労働市場の実情、若者たち自身の実態、あるいは企業(採用担当者)の現状を、現場から見たほぼそのままに紹介している。メリットの多い本だが、その点にまずの第一のメリットがある。若者にせよ周囲の人々にせよ、現実を現実のとおりに認識しないことには、適切な対処などとりようがないからだ。もちろん、どの現場のどこに立つかによって見えるものも見え方も違ってはくることは頭に入れておく必要はあるだろうが。
 第二のメリットは、こうした現実を踏まえて、地に足のついた実践的なアドバイスが書かれていることだ。労働市場の厳しさの最大の原因は求人の少なさであるにせよ、その理不尽を訴えても現実的な解決にはならないし、政策提言は目の前の若者には役立たない。少ないならば少ないなりに対応するしかないのであり、そうした観点からは、著者は若者たちに対してかなり手厳しい。とはいえ、実際に示されるアドバイスの多くは、必ずしも難しいものではなく、ひとつひとつの「気づき」があれば、比較的取り組みやすいものになっている。これがこの本の第三のメリットといえるだろう。もちろん、なかには「我慢するのも大切」といった、なかなか困難なアドバイスもあるのだが。
 第四のメリットは、職を求める若者だけではなく、その親たちや、すでに働いている若者たち、近い将来就職活動に臨むことになる高校生(高校生でも十分読めるよう書かれていると思う)、あるいは若者を新入社員として迎え、一人前に育てていく職場の上司、先輩にとっても、大いに有益な内容を含んでいることだ。親の役割や「働き続けるのに必要なこと」にはそれぞれ1章があてられているし、企業に関する記述を読めば、それは逆にいえば若者を生かすために企業、職場、上司がどうあるべきかを示していることがわかる。
 もうひとつメリットを上げるとしたら、この本は単に就職やその後の定着、適職探しなどのアドバイスにとどまらず、人生全体に対するアドバイスにも満ちている、ということだろうか。さすがにここまで来ると、読む人の読み方によって感じ方はさまざまだろうし、相性の良し悪しもあるだろうが、当代一流の実務家の本だけあって、非常に示唆に富んでいる。そういう意味では、万人に一読をすすめられる本なのかもしれない。