第1セッション「企業競争と賃金」

久保報告

最初の久保克行早稲田大学商学部助教授の発表では、合併前後の賃金水準を比較するとむしろ上昇しており、「合併で割を食うのではないか」というよくある心配は現実にはそれほどない、というもの。久保氏はこれについて、合併前後では合理化効果を出すため新卒採用が抑制されることから、平均年齢が上がるためではないかという解釈と、合併前後では評価の低い人が多く退職する傾向がある(これは久保氏らの別の研究で明らかにされている)ためではないかという解釈を示しておられました。
私としては、これは単に合併を円滑に進めるために、労働条件を「高きにあわせた」結果ではないかと思います。おそらく、合併前の賃金が高いほうの会社と、合併後の合併会社との賃金を比較すれば、たぶんほぼ上がっていないのではないかと思うのですが。その比較でもそれなりに上がっていれば、たしかに久保氏のいうようなメカニズムが働いているのかもしれませんが。

梅崎報告

次の梅崎修法政大学キャリアデザイン学部専任講師の報告は、高度成長期の鉄鋼産業において、産別組織の運動によって各社の賃金カーブが近づき、格差が縮小したという歴史を明らかにしたもので、今日の報告のなかでは一番興味深いものでした。今も昔も、その時々の事情に応じて、労使であれこれと取り組んでいるのですね。

井上報告

井上裕介内閣府政策統轄官室(経済財政分析担当)付参事官(総括担当付)付政策企画専門職(うわ、長い肩書きだな)の報告は、90年代以降の賃金水準の低下とその要因を検証したものでした。ただ、私たちの一般的な認識としては、この時期は比較的賃金の高くない非典型雇用が増加したことでマクロ的には平均で賃金水準が低下したということではないかと思うのですが、この分析では労務費や就労者数について正規・非正規の違いをどうやら考慮していないらしく、だとするとこの結果にどういう意味があるのか?おおいに疑問府がつきます。こういう分析で政策が決まっているとしたら恐ろしいと思うのですが。