21世紀政策研究所報告書

経団連シンクタンク21世紀政策研究所様から、研究報告書「持続可能な医療・介護システムの再構築」「格差問題を超えて」をお送りいただきました。ありがとうございます。以下で全文がお読みいただけます。
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/130329_02.pdf
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/130329_01.pdf
「格差問題を超えて」は鶴光太郎先生を研究主査に、川口大司先生、篠崎武久先生などが参加されたプロジェクトの報告です。格差問題もさすがに下火になってきた感がありますが、現時点での冷静な分析として参考になります。
第1章は佐藤一磨先生による先行研究の紹介と現状の確認で、関心が格差から貧困に移行していることも紹介されています。第2章では鶴先生が格差問題の捉え方と政策含意を述べておられます。第3章は「格差感」に関する篠崎先生の分析、第4章は川口先生による格差と教育・学歴の分析にあてられ、第5章は玉田桂子先生による生活保護水準の検証になっています。
いずれも興味深い内容で非常に充実した報告書と思いますが、簡単に感想を書きますと、第2章にある「格差と「格差感」は別物であり、格差感を緩和する政策が重要」「高所得者の増加による格差拡大は必ずしも悪いばかりでない」といった指摘はきわめて重要であると思います。第3章の「国際比較上、日本の格差感は実はそれほど大きいというわけではない」、第5章の「日本の生活保護は消費水準からみて低いとはいえない」といった知見も新鮮でした。いっぽう、第2章で(まあこれは大方の経済学者がそう言うのでかなり確実視されているのかもしれませんが)「属性をある程度コントロールしても」という程度で有期の賃金が無期に較べて不合理に低いと断定されていることには違和感を覚えます。また、第4章で、わが国では大卒者の増加が賃金格差の拡大を抑制したとの指摘がありますが、たしかにこれまではそうだったとしてもこれからもそうだろうかというと違うんじゃないかとも思いました(これは第4章まとめで川口先生も少し触れられていますが)。