男性の育児休業たった0.5%

平成17年度女性雇用管理基本調査の結果が発表されたようで、各紙で報じられています。それによると、女性の育児休業取得は取得率・取得期間ともに伸びているようですが、男性のほうは依然として低調なようです。

 厚生労働省が9日発表した調査によると、2005年度の男性の育児休業取得率はわずか0.5%にとどまった。しかも、04年度の前回調査より0.06ポイント低下している。「職場に迷惑がかかる」「出世に響く」などを取得しにくいとする理由に挙げる例が多く、政府が目標とする「男性の取得率10%」にはほど遠い状況だ。
…男性の育休取得率は調査開始の1996年度の0.12%と比べると少しずつ上向いているとはいえ、1%未満の低水準であることに変わりはない。業種別では不動産業の17.2%が最も高く、教育・学習支援業や製造業などが続く。逆に卸売業や小売業は0.01%程度と低く、企業規模別では従業員500人以上(0.13%)の大企業が最も低い。
(平成18年8月10日付日本経済新聞朝刊から)

厚労省のホームページにはまだ掲載されていないようなので、詳細はわからないのですが、不動産業の17.2%というのは驚異的な数字です。日経の紙面を何度見ても17.2となっていますが…(東京13版)。
それを除くと、これだけではなんともいえないのですが、「職場に迷惑がかかる」「出世に響く」などを取得しにくいとする理由に挙げる例が多いというのは、まあそうかな、という感じはします。「職場に迷惑」というのも、文字通り周囲の人に負担をかけるという意味のほかに、迷惑をかけたことが人事評価などに影響することを心配するという部分もあるでしょう。


大企業ほど取得率が低いというのも、やはりキャリアをめぐる競争環境の厳しさの影響があるのではないでしょうか。全員の顔が見えるような小規模な企業であれば、キャリアも比較的見えやすく、競争もゆるやかでしょうが、何十人、何百人の同期入社者が昇進を競い合う大企業となると、呑気に育休を取っていては取り残される、という不安感を持つのもうなずけます。もちろん、これだけが男性の育児休業が拡大しない理由だということはないでしょうし、最大の理由でもないかもしれませんが、しかし一つのハードルであることは間違いないのではないでしょうか。
中小企業庁富士通総研に委託して昨年末に実施した「中小企業における人材活用及び育児環境に対する実態調査」の結果が2006年版中小企業白書に掲載されていますが、「一定期間の休業を取得しても、昇進・昇格等に長期的な影響がない企業の割合」は従業員数0〜20人で50.5%、21〜50人で45.3%、51〜100人で40.8%、101〜300人で37.0、301人以上で30.4%と、きれいな右肩下がりになっています。
さらに、具体的な運用については、「休業していた期間は人事評価の空白期間となり、昇進昇格が遅れる」企業の割合は0〜20人で13.1%、21〜50人で15.9%、51〜100人で19.4%、101〜300人で26.1%、301人以上で28.8%と、こちらはきれいな右肩上がり、「育児休業中に能力が落ちるわけではないから、特に休業が昇進・昇格に影響しない」企業の割合は0〜20人で50.5%、21〜50人で45.3%、51〜100人で40.8%、101〜300人で37.0%、301人以上で30.4%と、これまたきれいな右肩下がりです。中小企業庁の調査なので301人以上は一括りで、大企業はおそらくそれほど含まれていないでしょう。中小企業でもこうした実態なのですから、大企業は推して知るべしです。
なお、「影響しない」のほうの選択肢にはわざわざ「育児休業中に能力が落ちるわけではないから」という理由がついているのは、中小企業庁の「そうであってほしい」との意図が感じられてほほえましいのですが、これはさすがに勘違いというものでしょう。仮に休業中に能力が維持されているとしても(これも実はあやしいのですが)、競争相手である他の人たちはその間に能力を伸ばしているわけですから、相対的にみて昇進・昇格に影響が出てくるのがむしろ正論でしょう(もちろん、個人レベルではまた別の違いは当然あるわけですが)。だからこそ「遅れる」のほうが「影響しない」より多くなっているのだろうと思います。であれば、競争環境のより厳しい大企業のほど「遅れる」という運用にしないと大方の納得は得られにくいのかもしれません。
そう考えると、やはりある程度は「遅れてもいい」という考えでなければ、育児休業の取得は難しいということになりそうです。つまり、男性の育児休業取得を促進するには、キャリアに関する意識を社会的に変えていく必要があるように思います(もちろん、意識改革はキャリア以外についても必要でしょうが)。現状では、男性については職業キャリアの成功と人生キャリアの成功とがあまりにオーバーラップしていて、職業キャリアが伸びない人は「万年係長」などと蔑まれがちで、職業以外の分野でよほど成功しない限りは人生キャリアの成功者とはみなされない傾向があるのではないでしょうか。とりわけ、社会的知名度や職業威信の高い大企業ほどそうなのではないかという気がします。逆にいえば、女性については出産や育児が人生キャリアの一部として認知されており、それなりの役割評価を得ている一方、職業キャリアでの成功が男性ほどには人生キャリアのうえで重視されないという意識が社会的にあることが、女性の育児休業取得を容易にしているといえるかもしれません。
男性についても、仕事で成功するのもたしかにすばらしいキャリアではあるが、仕事もそこそこ、家庭もしっかりと、という両立キャリアも同じくらいに立派で幸福で尊敬されるすばらしいキャリアだ、という意識が広がっていけば、男性の育児休業取得のハードルが多少なりとも低くなるのではないかと思うのですが、どんなものなのでしょうか。