すっかり忘れてましたが、先々週月曜発行のキャリアデザインマガジンに載せるための書評を書きました。
- 作者: 梅崎修
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/03
- メディア: 新書
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「日本マンガ学会」という団体がある。マンガ好きが集まってシャレで「学会」を名乗っているのではない。れっきとした学術研究団体である。2001年7月設立となっているから、日本キャリアデザイン学会よりだいぶ歴史がある。 この本は、労働経済学者であり、日本キャリアデザイン学会研究組織委員であり、日本マンガ学会のアクティブメンバーでもある著者が、マンガを題材に仕事とキャリアを語ったエッセイ40本を集めた異色の新書だ。オリジナルは「月刊総務」に連載されたものだということで、それぞれのエッセイはまず仕事やキャリアの一段面をとらえた前振りがあり、続いて「〜というマンガがある」と、取り上げられるマンガが紹介され、それを題材にあれこれと所感が綴られていくという同一の構成をとっている。文章も平明で読みやすく、親しみの持てるものだ。
したがって、この本は『マンガに教わる仕事学』という書名にはなっているが、仕事に関するノウハウを学ぶというたぐいの本ではない。言うまでもなくマンガは虚構であり、その相当部分は娯楽のためのものだ(もちろん、単なる娯楽を超えた優れたメッセージを持つ作品も多いだろうが)。非現実を描いているからこそ読まれるのであって、そこから現実世界で有用な、一般的なノウハウを引き出すのは、常識的に考えて無理というものだろう。「怪傑!!トド課長」や「人事課長鬼塚」のように振る舞っても、部下の反応がマンガと同じになるという保証はまったくないのではないか(というか、おそらくは全然異なったものになるだろう)。まあ、マンガに出てくる嫌われ者の上司と同じように振る舞えば、現実世界でも確実に嫌われ者になるだろうが……。
だから著者は、取り上げたマンガを作品として深耕することまではあまりしていない。雑誌の連載という限られた紙幅の要請もあってか、多くの場合は、その回のテーマに沿ったエピソードや人物造形などを紹介している。私はとりあげられた作品のどれひとつ読んでいないので、作品そのものやその選択についての論評はできないが、紹介されたものの多くはたいへん印象的なものであり、前後の論旨もスムーズにつながっている。考えてみれば、仕事やキャリアについて考えるきっかけや材料はあちこちにある。仕事の世界を描いたビジネスマンガであれば、それは豊富に含まれているはずだ。著者はその中から魅力的な題材をすくい上げて、「こんな考え方もできますよ」と語りかけているのだろう。
もちろん、若手の範疇に入る著者の本だから、特に年長者には物足りない部分もあるかもしれない。そういう意味ではこの本は、取り上げられたビジネスマンガにシンパシーのある年代のビジネスパースンに、「教わる」とか「仕事学」とかいった堅苦しいものとしてではなく、リラックスして読み進める本として推薦するのがいいのかもしれない。そうすればいずれ、キャリアの歩みを進めるなかで、ふと立ち止まって考え込むときに、40のエッセイの中のいくつかが、きっと頭をよぎることだろう。