企業だけの問題なのか

引っ張って申し訳ないのですが(笑)、昨日の日経新聞夕刊の神谷隆之氏の記事についてもう少し書きます。神谷氏は「新たな視点として」ということで、夫婦の働き方の組み合わせを示しています。「短時間勤務の利用も女性に限る必要はない。夫婦が勤務時間をうまく組み合わせ、子育てに最適な時間配分を行うことも必要ではないか。現在、企業にはこうした視点が欠けている」のだそうです。
うーん、たしかに欠けているかもしれません。少なくとも、十分かといわれれば不十分ではあるでしょう。しかし、短時間勤務の利用を女性に限っている企業はほとんどないはずです。もちろん、現実として短時間勤務の利用が圧倒的に女性に多いことは事実です。とはいえ、それは「企業にはこうした視点が欠けている」ですませる問題なのでしょうか。


これは本質的には企業の問題ではなく、働く人の意識の問題、とりわけ男性の意識の問題のはずです。たしかに、男性が短時間勤務をしようとしたとき、企業(や上司や職場)の向ける視線は暖かいものではないことが多いかもしれません。しかし、だからといってそれで解雇されるとか、賃金が大幅カットされるとかいうわけでもない。事実そうなのか、本人がそう思っているだけなのかは別として、短時間勤務にともなって評価が下がったり、昇進昇格を逃したりすることはあるかもしれませんが、せいぜいそのくらいのことでしょう。もし、「育児から得られる喜びに較べれば、評価や昇進なんてものの数ではない」と思う男性がいれば、どんどん短時間勤務をすればいいわけですし、企業はそれを止めるわけにはいきません。もちろん、育児もすれば評価も昇進も取りたいという人はいるでしょうし、それを実現してしまう強者もそれなりにいるでしょう。しかし、そういう人でなければ短時間勤務をしてはいけないというわけではありませんし、企業もそんなことは言っていません。結局のところ、多くの男性は「短時間勤務してまでも育児をしたいとは思っていない」のであり、そこに問題の本質があるはずです。
なぜそう思うのか、については企業の要因もあるでしょう。しかし、いかに育児と仕事の両立がすばらしいことだからといって、企業に対して短時間勤務者が100%心地よくなれるようにすることを求めるのは間違いでしょう。
キャリアデザインにおいて、何かを選択するということは、それを選択しなかった場合に得られたかもしれない何かを失うということです。短時間勤務をすれば、ほとんどの場合はそのかわりに仕事の上でなんらかのものを失うでしょう。もちろん、失うものをなるべく小さくする配慮は必要だろうと思います。しかし、現状でも、それはたとえば解雇のような甚大なものではありません。企業に対して「視点が欠けている」というよりは、まずは働く人がそういう人生、そういう生き方に目を向けて、現実にそういう働き方をしていく、そういう人が増えてくることで、企業の考え方もまたそれに応じたものに変わっていくというのが筋道ではないでしょうか。