自律的労働時間制度を導入すれば過労死が激増するってさ

「自律的労働時間制度を導入すれば過労死が激増する」という記事が、今朝の毎日新聞の1面トップを麗々しく飾りました。いやはや。

 東京労働局管内の労働基準監督署が05年に過労死・過労自殺で労災認定された48人について調査した結果、11人が自ら労働時間を管理・監督する管理職だったことが分かった。他の一般労働者19人も上司の管理が及びにくい状況にあり、計6割以上が労働時間を自己管理する側だった。厚生労働省は一定条件下で労働時間の法規制を外し、自ら管理する「自律的労働時間制度」の導入を検討しているが、被害実態が明らかになったのは初めて。労働専門家は「制度を導入すれば過労死が激増する」と警告している。
 同労働局によると、死亡した11人は工場長、店長、本社の部長など勤務時間を自己管理する立場。一般労働者でも、営業職(10人)やシステムエンジニア(5人)、現場施工管理者(4人)で、上司よりも自分が労働時間を管理する側だった。
 同労働局は「時間管理を任されたり、上司の目の届かない所で納期に追われるなどの形で長時間労働を重ねるケースが目立つ」と分析する。
…過労死に取り組む日本労働弁護団の弁護士、棗一郎事務局次長は「制度導入で時間管理を外される労働者が増えれば、過労死も激増するという事態を調査の数字は示している」と話している。
(平成18年7月28日付毎日新聞朝刊から)

「制度を導入すれば過労死が激増する」?「激増」という感情的な表現はともかくとしても、うーん、そんなもんでしょうかね?
この、お亡くなりになられた方々は、時間管理されていて割増賃金が支払われていれば過労死しなかったのでしょうか?就労実態が同じであれば、給料が高くても低くても同じことではないかと思うのですが。
もちろん、上司が労働時間を管理していれば、長時間労働になったときに上司がブレーキを踏んで事なきにいたる、ということは当然あるでしょう。割増賃金を支払っていれば、支払額が高くなりすぎないように上司が長時間労働を止めるだろう、という理屈もありうるかもしれません。ただ、それについては「自律的労働時間制度」でも「実効ある健康確保措置」がしっかり織り込まれているわけです。「自律的労働時間制度」はつまるところ時間外労働について時間割で割増賃金を支払うことはしない、という制度であって、際限なく長時間労働できるという制度ではないはずです。考えようによっては、自律的労働時間制度を適用することで実効ある健康確保措置が法的に義務付けられ、かえって健康被害が減るという見方だってありうるでしょう。
また、そもそも仕事の性格からして、管理職のほうが非管理職よりは仕事が高度で責任も重く、プレッシャーもきついでしょうし、神経も使うでしょうから、「過労死」するリスクも当然高いわけです。責任も軽くプレッシャーもなく、神経もさほど使わない仕事の人に「自律的労働時間制度」を適用したところで、その人が過労死するリスクが高まるとも思えません。仕事の性格や中身を無視して時間管理の違いだけで議論するのは無意味でしょう。
まあ、「自律的労働時間制度」に反対な人がいるのはわかりますが、過労死が増えるから反対、という理屈は変なのでは。毎日の記者さんは「自律的労働時間制度」がよほどお嫌いなようですが、なぜなんでしょう?ご自身もかなり長時間労働しているのだろうと推測しますが、過労死の危険を自ら感じておられるのでしょうかね?