足りないくらいがちょうどよい

日経新聞の経営者ひとことインタビューコラム「回転いす」、本日は明電舎社長・日本電機工業会会長の片岡啓治氏が登場しています。

 ▽…「足りないからこそ工夫が生まれる」。仕事量が増え、現場からは増員要請が尽きないが、なかなか首を縦には振らないでいる。「自動化の推進など必要なことにはお金は出すが、従業員は簡単には増やせない」と言い切る。
 ▽…増員に慎重なのは公共事業の減少や電力大手の設備投資抑制で仕事量が落ち込み、業績が悪化した苦い経験があるからだ。「従業員は一度増やしてしまうと減らせない。足りないぐらいがちょうどよい」と、周囲に言い聞かせている。
(平成18年7月27日付日本経済新聞朝刊から)

「不足しているから改善のニーズが生まれる」というのはまことにそのとおりでありましょう。まあ、実際には有期雇用の契約社員や派遣労働など、いわゆる非典型雇用ををうまく活用すれば、仕事量が落ち込んだときに従業員数を減らすことは不可能というわけではありません。とはいえ、どういう形であれ、削減される人にとってはもちろん、社内全体の士気という面でも、人員削減は望ましくないというのももっともでしょうし、非典型雇用も一定比率を超えれば組織効率がダウンしたり、人材育成に支障をきたしたりするでしょう。公共事業を主要な顧客としているとなると、先行きこの部分で仕事が増えることは期待しにくいですから、増員に慎重にならざるを得ないのはやむを得ないことなのかもしれません。
「人を増やしにくいのは減らしにくいからだ」というのはそのとおりなのでしょうが、その理由は「法的に厳しく規制されているから」だけではありません。経営の観点からは社内の士気の低下、世間の批判、長期的な熟練形成という人材戦略への悪影響などが簡単に人を減らせない理由であり、それが結果的に法規制に反映されたのが解雇規制であると考えるのが自然だろうと思います。そう考えれば、解雇規制の緩和が雇用増に結びつく効果には疑問があります。むしろ、働く人に動揺を与え、熟練形成のインセンティブを損ねる悪影響のほうが大きいのだろうと思います。