最近の報道から

しかし、ホントこのごろネタが多いですねぇ。

割増率引き上げだけ分離提出?

 十七日、通常国会の段取りを話し合うため、与党幹部が集まった。出席者から「厚生労働省は一体ではないとダメだと言うが、そうじゃないだろ」と不満が出た。
 一定条件を満たす会社員を労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入は参院選に不利とみて、与党は先送りした。すると厚労省が与党の一部が実現させたい残業代割増率の先行引き上げに難色を示したのだ。
 残業代を増やせば企業の負担で有権者の歓心を買える。民主党が「格差是正」を迫る中、「景気拡大の恩恵を家計へ」と訴える首相の方針にも沿う。選挙イヤーの政策判断は目先の損得勘定に傾きがちだ。
(平成19年1月24日付日本経済新聞朝刊から)

 政府は二十四日、与党に反発の強い労働時間規制の緩和策である「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を切り離し、残業代の割増率引き上げだけを先行して労働基準法改正案に盛る検討に入った。二十五日召集の通常国会に法案を提出し成立を目指す。
 二十四日明らかになった安倍晋三首相の施政方針演説原案によると、首相は一定時間を超える残業に対する企業負担を引き上げる方針に言及する見通し。「ホワイトカラー・エグゼンプション制度と残業代制度はパッケージなので切り離せない」と主張していた厚生労働省も分離提出を受け入れる方向。自民党中川秀直幹事長は二十四日夜のテレビ朝日番組で「(党内で)やれるものから分離してもやっていこうという議論が多数のような気がする」と述べた。
(平成19年1月24日付日本経済新聞朝刊から)

これは是非もさることながら、どういう手続きを踏むのだろうかという問題もありそうです。
労働政策審議会ではすでに労基法改正は一体として建議がなされ、法律案要綱もそれに沿った内容で今日の審議会に諮問されるでしょう。建議に沿った内容であれば、追って妥当との答申もすぐに出されるでしょう。この場合、いったんは建議に沿ってホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を含む改正法案を提出し、国会で修正する(WEを削る)ことになるのでしょうか。しかし、閣議決定した法案を与党が修正するというのもおかしな話ですし、これだと、与党はWEを提出し、野党が削らせたという形になってしまうので、選挙対策としてはむしろ逆効果かもしれません。
それとも、「厚生労働省も分離提出を受け入れる方向」ということなので、割増率だけの法律案要綱を改めて作らせるつもりかもしれません。しかし、これだと建議とは大きく異なる内容の要綱になってしまうため、審議会としてはそうそう簡単には「妥当」の答申は出せないでしょう。これだけ審議を重ね、調整と妥協を積み上げてきただけに、ここに来ての方針転換には使用者代表は徹底抗戦でしょうし、労働者代表としても、話の中身は別として三者構成の枠組みがさらに弱体化するのは歓迎できる話ではないと思います。まあ、法的には答申が出なくても法改正はできるでしょうが、本当にそういう前例を作ってしまうつもりでしょうか。
あるいは、議員立法ということでしょうか。それなら審議会は素通りできるかもしれませんが、与党が法案提出しても野党は最低でも賛成して「われわれの力に与党が屈した」と宣伝できるでしょうし、「与党案では手ぬるい」として修正案や対抗案を出すなどのパフォーマンスも可能でしょう。
宮崎県知事選などの結果をみて与党が危機感を持つのはわかりますが、選挙目当ての人気取りが見え見えの態度では、かえって支持を失うのではないでしょうかねぇ。まあ、余計なお世話ですが。

求人の年齢制限禁止へ

 自民党は二十三日、雇用・生活調査会(川崎二郎会長)の幹部会を開き、企業が労働者を募集・採用する際の年齢制限を原則禁止する方向で調整に入った。現行の雇用対策法で年齢制限をしないよう企業に努力義務を課している規定を、禁止事項に切り替える。就職氷河期に希望の職に就けなかった三十歳前後のフリーターなどに就職の門戸を広げる狙いだ。
(平成19年1月24日付日本経済新聞朝刊から)

これはもともと、雇用失業情勢がきわめて厳しい時期に、中高年失業者が再就職できない理由として「求人の年齢制限」をあげる声が多かったことから、年齢で門前払いされないようにとの趣旨で努力義務化されました。実務実感としては(印象なので根拠なし)、当時は大勢として「35歳」がひとつの区切りになっていたように思います。であれば、むしろ「30歳前後のフリーター」には有利といえば有利なようにも思えます。
もっとも、近年では雇用情勢の回復を受けて新卒後3〜5年程度をターゲットにした「第2新卒」のマーケットが活性化していますので、今回の議論はここから30歳前後のフリーターがはじかれてしまっているのではないか、という問題意識かもしれません。長期育成を前提に未熟練者を採用する第2新卒市場では、どうしても長期間の投資・回収が期待できる若年者ほど有利になるのは致し方ないでしょうが、年齢だけで門前払いするのではなく人物本位で、というのは正論ではありましょう。実務的には年齢制限がなくなればその分応募は増えるでしょうから、事務的な手間は増えますが、現行努力義務の例外規定も維持されるようであり、それほど大きな混乱は招かないものと思われますので、賛成まではしないものの、強く反対する必要もなさそうです。
ただし、これも審議会の建議をもとに作成され、妥当との答申が出ている法律案要綱をかなり大きく踏み越えるものであり、内容の是非は別として、部会の委員としてこれに参画した私としては、選挙目当ての人気取りで安易に進められることにはやはり非常に違和感を覚えます。
実際問題としては、年齢制限を禁止しても選考結果として不採用になる可能性はやはり高いわけで、これがどれほど30歳前後の雇用の改善に資するかといえば、大きな期待はできないように思います。経済の拡大が継続し、人手不足が続けば、おのずと年齢上限も上がるでしょうし、30歳前後のフリーターにもチャンスが増えるわけで、こちらの取り組みをしっかり継続してほしいと思います。

労働契約法要綱

これは日経のトンデモネタです。きのうの朝刊で、けっこう大きく報道されていました。見出しは「労働条件、就業規則で変更 労働契約法案 厚労省が要綱 労使合意不要に」

 厚生労働省は二十三日、雇用の基本ルールを定める新法「労働契約法」の法案要綱を固めた。就業規則の役割を大幅に引き上げ、条件を満たせば就業規則の変更で労働条件を変更できるようにするのが最大の柱。

 労働契約法は、労働契約を労使が対等な立場で結ぶことなど雇用に関する基本的なルールを定める。労働契約は賃金などの労働条件を企業と従業員が結び、現在は契約を変える場合、労使交渉が必要となる。
 新法の目玉は就業規則を役割強化。就業規則労働基準法に基づき、休憩時間や休日、賃金の支払い方法などを定めた職場の基本ルール。労働契約法では就業規則で定めた内容を、企業と個々の社員が結んだ労働契約と見なす。就業規則に労働契約としての法的効力を持たせることで全従業員の労働契約をまとめて変更できるようになる。経営の機動性が増すため経済界が導入を求めていた。
(平成19年1月24日付日本経済新聞朝刊から)

この記事を普通に読めば、労働契約法が制定されることで新たに「就業規則の変更で労働条件を変更できる」ようになる、ということでしょう。しかし、これはなにも新しいことではなく、現行の労働基準法ですでにそうなっており、法定の手続は過半数代表者からの意見聴取だけです。実務的にも普通に行われていることです。「就業規則で定めた内容を、企業と個々の社員が結んだ労働契約と見なす」というのも判例法理として定着していますし、就業規則の変更で多数の従業員の労働条件を斉一的に変更するというのも、実務として普通に行われています。今回の法制定で「できるようになる」わけではありません。
また、これにより(よらずともですが)労働条件を労働者に不利益に変更する場合には、変更に合理性がなければ無効というのが判例法理として定着しており、労使協議などの労使間手続は合理性判断の要件となります。とはいえ、労働条件を有利に変更する場合まで労使協議が必要とされているわけではありませんので、「現在は契約を変える場合、労使交渉が必要となる」というのも、厳密にいえば間違いです。
どうやら、この記事を書いた記者は現状についての知識がほとんどないようで、労働契約法が新法だから内容も新しいものだろうと思い込んでしまったのかもしれません。それにしても、これだけ大きく書くなら多少は現状を勉強してから書いてほしいものです。なにも役所や学者に聞くまでもなく、自分の会社の人事部に持っていって、担当者に「これでいい?」と聞くだけでいいのです。普通に仕事をしている人事担当者なら「え、これはまずいよ」と教えてくれるはずですが…。