受験生に高まる「難関」志向

連休があったこともあって世の中から少し遅れ気味ですが、月曜日の日経新聞「教育」欄で、河合塾教育情報部部長の服部周憲氏が近年の受験生の動向を紹介していました。「解雇規制と学歴差別」にも少し関係のある内容だと思います。

河合塾では毎年受験を終えたばかりの高三と既卒の塾生にアンケートを実施している。
 この中で自分の「志望校」を決定する要因を見ると、96年までは「入試難易度」が第一位であった。しかし、受験人口がピークを越し受かりやすくなってきたこともあり、97年からは「設置されている学部・学科」が一位となる。そして昨年、この一位がまた入れ替わった。きん差ではあったが「大学の知名度」が第一位になったのだ。
 昨年、この結果が出たときは、正直言って若干の違和感を覚えた。しかし、それから一年が経過し、今年の結果を見てみると、受験生の志向は、より鮮明になってきた。それは明らかな「上昇志向」である。
 旧帝大をはじめとする難関国立大に受験生が集まり、地方の国立大より東京や近畿の難関私立大を選択する受験生も増えたと感じている。
 受験生が難関私立大にひきつけられる最大の要因はトータル的な「ブランド力」だろう。その知名度の高さから、卒業後の進路の有利さ、OB組織の強さを感じ取ることができる上、最近は他大学に率先した改革の取り組みなどが目立つ。その点では上昇志向は続くとみてよい。
(平成18年5月8日付日本経済新聞朝刊から)

服部氏は続けて、学部・学科については、医師、看護師、薬剤師(ただし今年は修学年限が6年に延びた影響で志望が激減)、保育士、教員などの就職に直結する資格を得られる学部・学科への志向が高まっていること、工学部への志望が減少し、代わって医療系や情報系への志向が高まっていることなどを指摘して、全体としては「就職に有利」を最優先の学校・学部・学科選びの傾向が強まっていると述べています。


さすがに、現場の意見、しかも学校のような「建前」の入り込む余地の少ない「予備校」の現場実感にもとづく意見だけに、まことにうなずかされるものがあります。近年の受験生は、物心ついたときからずっと「就職超氷河期」が続いていたという世代でしょうから、「就職に有利」を最優先するというのもよくわかる話です。
ただ、以前も書きましたが、企業が本当に大学名の「ブランド」をみて採用を決めているのかというと、それは必ずしもそうではないのではないかと思います。採用の現場では実際には大学名は参考情報のひとつとして考慮に入れるくらいのもの(まあ、その程度は企業により、あるいは担当者によっても異なるでしょうが)で、むしろ、面接など選考試験の成績順に採用を決めたところ、結果として「ブランド」大学が多くなっているというのが大方の実情のように思います。
だとすれば、難関大学をめざすことが受験生が思うほどに「就職に有利」かどうか、本当に合理的かどうかはわからないということになるかもしれません。とはいえ、その一方では、難関大学にチャレンジし、合格するためのプロセスは、職業人としての資質をトレーニングするという意味でも、案外効果的なのかもしれません。もちろん、知的能力のトレーニングという意味は大きいでしょうし、それに加えて、ちょっと変な考え方かもしれませんが、難関大学へのチャレンジはかなり中期的なプロジェクトの遂行という性格もありそうです。高い目標を定め、それに到達するための計画をつくり、それにしたがって行動し、努力し、中間段階で到達状況を確認しつつ、必要であれば計画(さらには目標)を修正しながら納期までに所定のパフォーマンスを達成するというのは、かなりビジネスのプロジェクト遂行に似ているとも言えます。まあ、実際にはプロセスづくりやその遂行支援はそれこそ学校の進路指導や、予備校などのビジネスが代行してくれますし、当然ながら保護者の指導の果たす役割も大きいわけですが、それにしても節目での判断は自分で責任を持って行うことが多いでしょう。現実には「着実な実行」の部分が大半かもしれませんが、それにしてもビジネス能力の向上にも資する体験であるには違いありません。まあ、その効果はいかほどかという気もしますが、大学受験は世間で言われるような弊害ばかりがあるわけではないという一つの見方ではあるような気もします。