経労委報告

経団連の『2006年版経営労働政策委員会報告』を読んでいたら、若年雇用についてこう書かれていました。

経営労働政策委員会報告〈2006年版〉

経営労働政策委員会報告〈2006年版〉

 若者は、次代の日本を担う貴重な人材である。彼らが自らを高め、成長し続けることができる環境を作ることは、社会全体の課題である。同時に、若者自身も、困難に挑戦し続けていく姿勢がないと、自らの可能性が開けないことを自覚してほしい。
 若年雇用の改善には、国、地方自治体、教育界、産業界の連携が必要である。国は、「若者自立・挑戦プラン」に基づいて取り組みを進めているが、最も重要なのは、適切な政策運営により経済を活性化させ、若年層の雇用機会の増大を図ることであろう。企業においては、意欲と能力のある若者に積極的に雇用機会を提供する努力が望まれる。
 現在、フリーターは200万人ともいわれるが、企業もできるだけ既卒者を含む若年者に対して、長期的な雇用と能力開発の機会の提供を拡大していくことが望まれる。企業は、「人材育成」と「成果主義」などのバランスを取りながら、若手社員には、短期的な成果や業績のみを求めるのではなく、長期的な視点から、本人の将来性や可能性を重視し、成長に結び付けていくという発想が必要である。
日本経済団体連合会経営労働政策委員会(2005)『2006年版経営労働政策委員会報告−経営者よ正しく強かれ』pp.35-36)

実際には企業のスタンスはさまざまでしょうが、一応最大公約数?としてまとめるとこうなるのでしょうか。なかなかどうして含みのある記述になっています。


全体としては企業としても若年の雇用・育成に前向きに取り組もうとの姿勢を示していますが、一応はじめに「若者自身も、困難に挑戦し続けていく姿勢がないと、自らの可能性が開けない」と注文をつけることも忘れられてはいません。ただ、日経新聞とかが言うような「起業しろ」「転職しろ」「ホリエモンになれ」(と4月1日の社説で本当に書いていた)といった無理難題というわけではなさそうで、まあお約束で一言訓示しただけのことでしょう。いわずもがなという感もありますが、経営者の話に訓示はつきものなので、我慢できなかったのかも(笑)。
その次のパラグラフは、「若者自立・挑戦プランもいいけれど、とにかく経済政策をしっかりやってくれよ!」という企業の本音がとても率直に表明されていて思わずニンマリという感じです。まあ、たしかに企業としてみては労働需要がないのに「これだけやったんだから、採れ」と言われても困るでしょう。要りもしないものを有り難がれといわれてもねぇ・・・。
続く一文は、企業の人材育成力に対する自信に裏付けられたものなのでしょうか。ただ、ここまで書いているのに、どうして「正社員」とはっきり書かないのか不思議です。まあ、「積極的に雇用機会を提供」というのは必ずしも正社員に限らず、多様な形態で少しでも多く・・・という趣旨だから、と善意に?解釈すればいいのでしょうか。あるいは、やはりまだ一部企業に「正社員」に対するアレルギーがあることに配慮したのか?とはいえ、「長期的な視点から」というならそれは常識的に考えて「正社員」でしょう。
もっとも、この報告書全体をみても、「正社員」ということばは出てこないようです。例の「自社型雇用ポートフォリオ」の部分でも出てきませんから、案外、「正社員という用語はその対語である非正社員という用語がネガティブな印象を与えるので使わない」といった考え方なのかもしれません。そういえば、経団連は以前、「正社員/非正社員」ではなく、「長期雇用/有期雇用」(だったっけ?)という言い方を考えてはどうか、というような提言も出していましたし…言葉をやめたところで、「正社員的な働き方」は重要だしなくなりもしないと思いますが。
なお、報告書では言及されていませんが、若手正社員採用の大きなメリットとして、育成すべき若手が職場にいることは、育てる立場にある管理監督者や先輩社員の意識を高め、職場を活性化する効果も大きいことがあげられます。仕事を教えることは、教えられる人だけではなく、教える人も成長させることは、人事担当者に限らず、組織で仕事をしたことのある人には実感できるものと思います。とりわけ、先輩役として仕事のてほどきをする入社2〜3年めくらいの若手社員にとってはその効果は大きく、若手新入社員の採用は若年社員の育成にもつながります。もちろん、派遣でもアルバイトでもインターンシップでも、一定の効果はあるでしょうが、しかし長期にわたる企業内育成が予定されている正社員が、いちばん効果が大きいでしょう。
もちろん、「若者自立・挑戦プラン」が不要だとまでは申しません。それはそれで意味のあることでしょう。しかしものごとには優先順位というものがあり、なにより優先すべきなのは経済活性化によって労働需要を高め、企業に内在する人材育成マシーンの稼働率を上げていくことでしょう。