大竹文雄『経済学的思考のセンス』

あらためて書評を書きたいと思いますが、とりあえず「出たぞ!」ということでざっとした感想だけ以下に。


ノーベル賞経済学者のゲイリー・ベッカーに『ベッカー教授の経済学ではこう考える』というエッセイ集があります。ベッカーは移民、教育、犯罪、結婚などの社会現象を経済学の手法で分析した人ですが、この本の前半部分は『大竹教授の経済学ではこう考える』という印象です。雑誌のエッセイがもとになっているようで、生活やスポーツなどの身近な話題を経済学で面白く説明した読みやすい文章です。
で、楽しく読み進めていくうちに、だんだんとテーマが重くなり、記述もそれなりに難しくなってきて、最後のほうの社会保障や格差、再分配といったあたりは、むしろ小池和男先生の『仕事の経済学』のような、現実の経済社会に題材をとった教科書という感がただよってきます。なかなか巧妙な構成になっていると申せましょう。
ということは、意外にも?この本は労働経済学の入門書なのかもしれません。これに続けて、同じ著者の日経文庫『労働経済学入門』をセットで読めば、かっこうの「労働経済学への誘い」になりそうな気がします。

ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで

ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで

仕事の経済学

仕事の経済学

ときに、以下はこの本とは無関係な雑談ですが、なんでも、ベッカー以来(もっと前からかもしれませんが)、経済学者がミクロモデルと計量分析を武器に、いろいろな分野の調査研究に取り組んでいるのは、「シマを荒らされた」他分野の人たちの一部からは、「経済学帝国主義」と呼ばれて非難されているのだとか。そういう見方もありますかねぇ。もちろん万能ではないでしょうが、一定の有用性は認めざるを得ないと思うのですが・・・。もっとも、ミクロ経済学者のなかにも、その手法の限界を意識せよ、という意味で経済学帝国主義に批判的な人もいるようです。同じことの裏表でしょうが。
学者ではない私がこんなことを言うのもおかしな話ですが、脱線ついでに申し上げれば、大切なのは学際的な対話ではないかと思うのですが。さらに脱線すれば、労働分野には、法学者と経済学者の対話を通じて優れた成果が生まれた例もあります(もちろん、他の分野にもたくさんあるでしょう)。おお、これも大竹先生の本だ。