勤労者短観

連合総研から、「勤労者短観」と大書された冊子が送られてきました。一瞬なにかと思いましたが、「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」第10回の結果でした。そういえば、たしかにこの調査は開始時から「日銀短観」のような「勤労者短観」たらんという意図があったわけですが、いよいよ10回を数えたということで「勤労者短観」を前面に打ち出したのでしょうか。貴重な調査だと思いますし、回数を重ねるほどに値打ちが上がると思いますので、ぜひ継続してほしいものだと思います。
さて、今回のトピックスは、「賃金不払い残業」と「衆議院選挙での投票行動」という、どちらも興味深いものです。今日は「不払い残業」を見てみます。


これによると、「賃金不払い残業あり」が43.2%で、「なし」が44.9%になっています。これをどうみるかは難しいところですが、1年前の同じ調査では「あり」39.2%、「なし」が47.8%でしたから、この数字だけみれば、行政の精力的な監督や労組の意欲的な取り組みにもかかわらず、事態は悪化しているということになってしまいます。
いっぽうで、「残業手当支給時間の決定方法」をみると、「自己申告どおり」が38.4%から41.8%に増加、「タイムカードどおり」が22.8%から25.8%に増加していて、「上司が調整」は16.0%から13.6%に減少しています。「定額の手当」「上限時間」も減少しています。これをみると、それなりに「タイムカードどおりに払え」という行政の方針に沿った方向に進んでいるように思われます。
このクロス集計の結果も記載されていて、それをみると「タイムカードどおり」と「定額の手当」で不払い残業比率が大きく上昇しています。「タイムカードどおり」で増えたのは、持ち帰り残業が増えたのか、タイムカードを打刻してからさらに働く人が増えたのか、まあいろいろと考えられます。
いっぽう、「定額の手当」は不払い残業比率が50.0%から78.6%と大きく上昇したのに対し、事実上ほぼ同じ意味のはずの「上限時間」は75.0%から63.6%と、こちらはかなり減少しており、ちょっと解釈に苦しむ結果になっています。
さらに、「決定方法」と「不払い残業のある理由」とのクロス集計をみてみると、「定額の手当」で決まっていて、それが不払いの理由だとしている人は、複数回答にもかかわらず36.0%にとどまっています。3分の2近い人は、「定額の手当で決められているが、それが理由ではない」と考えていることになります。
「上限時間」で決まっていて、それが不払いの理由だとしている人は75.0%とかなり多くなっていますが、それでも25%の人は「上限時間で決められているが、それが理由ではない」と考えていることになります。
この結果をみると、不払い残業の本当の理由は別のところにあるのではないかという気がするのですが、どうでしょうか。比較的回答の少ない「自分が納得する成果を出したい」(これは、低いながらも1年前の15.9%から19.9%に増えています)や「マイペースで仕事をしたい」、あるいは「査定に響く」というのが、実は「そうとは言いにくいけれど実は本当の理由」だという人がけっこう多いのではないか、という印象を私は受けるのですが(もちろんあくまで印象であり、私の想像に過ぎません)。
そして、この1年間における不払い残業削減の進み度合いについては、「進んだ」が18.4%、「進んでいない」が32.7%、「わからない」が23.2%となっています。「わからない」はここでは「進んでいない」に近いと考えたほうがいいでしょうから、行政や労組の努力にもかかわらず、なかなか削減は難しいということがいえそうです。私にはこれは、「そもそもホワイトカラーの労働時間は把握すること自体が困難」といった要因が大きいことの結果のように思えます(もちろん、思うだけのことです)。もっとも、この調査はホワイトカラーに限られているわけではありませんので、ホワイトカラーに限ればどうなのか、というデータをみてみたいものです。
さて、連合総研も、当然ながら論調は異なりますが、結論としては「労働時間の管理・把握を行うことの難しさ」やタイムカードなどの限界を述べています。意外にも?結論は私と一致しているのでありました。
そこで対策はなにか、といえば、連合総研は「実労働時間の短縮」が「王道」だとしています。たしかに、一人1日7時間しか働かない世界になれば、不払い残業は劇的に減少するでありましょう。しかし私としては、それではなく、「ホワイトカラー・エグゼンプション制の導入」(もちろん、一定の年収要件や本人同意、休日確保など行き過ぎた長時間労働抑止策をともなう)を提案したいところです。
はてさて、組合員はどちらを望むのか、意見は大いに分かれるのではないでしょうか。