野川忍ほか『職場のトラブル解決の手引き改訂版』

正しくは野川忍監修・労働政策研究・研修機構編です。
これも判例を中心とした労働法のテキストで、2003年3月に初版、今回2005年3月に改訂版というのは前述の菅野『労働法』第六版・第七版とほとんど同じ足取りになっています。もともと働く人や人事担当者を幅広く念頭におき、さらに各労働局での個別紛争処理担当官のマニュアルとしてつくられたものということですが、この間の労働審判法の成立をうけて、今回改訂では労働審判制度における参考書としての活用も念頭におかれたということです。


したがって、内容は個別労働関係紛争に係るものに限られています。募集・採用から労働条件、人事、解雇・退職に到るまで、おおむね企業の実務にそった流れで編集されており、また、トピックも100を超えて細分化されています。各トピックのポイント・裁判例・解説を4ページでコンパクトにまとめた編集も読みやすいもので、実務家が疑問に感じた点について参考とするにはたいへん使いやすく、有用なものになっているように思われます(例によってこれも拾い読みで、全体を通読したわけではありませんので、印象ではありますが)。
印象ついでにもうひとつ書くと、この本は実務家、特に人事労務管理の経験の浅い実務家には、通読して勉強するのも有益な本ではないかと思います。世間には、これは○でこれは×、こうしたいならこうしなさい、といったハウツー本的な人事管理のマニュアル本もたくさん出回っていますが、この本は判例とその解説を中心としているため、労働法の理念や基本的な考え方がおのずと理解され、応用性の高い知識が身につくように感じられるからです。そういう意味では、要所要所に法の理念や考え方についての解説がほしかったような気がします。まあ、個別紛争処理や労働審判といった行政・司法実務の参考書という位置づけからは、ないものねだりなのかもしれませんが。
ないものねだりついでに(ついでが多いな)もうひとつ愚痴を書くと、人事労務管理の担当者が本当に迷う、困るのは、こうした解説書にそのものずばりの解決が掲載されていないようなケースを想定した場合でしょう。そういう想定事案には裁判例も存在しないことがあり、とりわけ新しい立法についてその傾向がありそうです。それにしても判例から推測していくしかないわけでしょうから、この本は大いに参考にはなるわけではありますが。結局、「その先」については「やってみなければわからない」という世界で、どうしようもないのだということはわかってはいるのですが。