荒木尚志ほか『ケースブック労働法』

ケースブック労働法

ケースブック労働法

著者は荒木尚志島田陽一・土田道夫・中窪裕也水町勇一郎・村中孝史・森戸英幸の各氏です。
てっきり弘文堂から版を重ねてきた『ケースブック労働法』の新版だとばかり思っていたら、別物だったようです(版元も有斐閣ですし)。


法科大学院の教科書としてつくられたものということで、労働法のトピックごとに概説、代表的判例、そして基本問題・発展問題・関連問題が提示されています。参考判例の引用もふんだんにあり、また、参考判例や参考文献が随所で紹介されています。「労働法の新領域」についても一章を設けて充実した記載がなされており、新たにスタートした法科大学院制度におけるスタンダードたらんとの気概も感じられます。そのような充実した内容ではありますが、しかしやはり教科書、しかも大学院の教科書ということで、教員とのインタラクティブなプロセスを前提としてつくられているようで、たとえば各問題の「解答」は示されていません。したがって、(これまた通読したわけではなく、興味のある部分を拾い読みした限りでの印象に過ぎませんが)独習はちょっと無理そうなのが残念です。まあ、企業の人事担当者は通常はこのレベルの学習をする必要はないでしょうし、現実に問題が発生したら専門家に対価を払って相談するのが効率的だろうとも思います。というか、そうでなければ苦労して法科大学院で学んで法曹になっても意味がないという見方もできるわけで(笑)。冗談はともかく、法制度がこれだけ複雑化してくると、専門家養成の必要性は当然ながら高まってくるということでしょう。
なお余談ながら、本書には私自身も(当事者ではありませんが)若干の関与をなした事件の判例もひかれており、あらためて読んで、判例というものは出てしまうとこうして活字になって一人歩きをはじめるのだなあと、いささかの感慨を覚えました。いやまったくの余談ですが。