本田由紀『若者と仕事』

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて

若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて

学校新卒者の職業への移行は各国で困難な課題とされてきたわけですが、90年代以降の「超氷河期」において、我が国でも顕著な問題として意識されはじめたように思います。その原因としては企業業績の悪化、デフレによる人件費負担の増大、さらにバブル期の「採り過ぎ」の反動などが大きく、これらが改善されれば状況は大幅に改善されるでしょうが、いっぽうでこの「超氷河期」のなかで、我が国における「学校から職業への移行」の構造的な問題点もあきらかになったといわれます。この本は、「学校経由の就職」をめぐる諸問題を検証し、それにかわる移行のしくみを提案しています。


第1章から第4章までは、従来型「学校経由の就職」の歴史的経緯と現時点における問題点について述べています。第2章の60年代以降の職能給・職能資格制度の導入はさまざまな変化への対応策として行われたものであり、必ずしも高卒者の現業部門配置対策ばかりではなかったと思いますが、それも大きなニーズのひとつだったのではないか、との指摘には興味深いものがあります。また、第3章の「実績関係」についての従来調査と独自調査の比較における従来調査の結果の分析では、回答者の気持ちの動きを想定した議論に面白いものがあります。第4章のフリーターのインタビュー調査の分析も迫力があります。
これらに対し、第5章での分析は、著者自身も述べているように、データの限界からくる無理が大きいように感じます。もちろん、著者のいうとおり、データがないからやらない、というのでは進歩がありませんし、限られたデータであっても果敢に取り組んだ姿勢は立派ではあります。しかし、たとえば「職業的自律性」を「転職志向」と「成果主義」で測定することは、現実に職業の現場にいる立場からは、いかにも実態をかけはなれた感があります。著者は「組織からの独立」=「自律」としているようですが、これは日経新聞などがくり返し主張してきた(そして私が叩き続けて来た)シバキ的「自立」論に類したものになりかねません。
第6章、第7章の提言は、かなり大胆な内容を含んだ意欲的なものですが、より職業と関連づけられた教育を重視し、「学校経由の就職」から外部によるよりきめ細かく充実した就職支援へと転換すべきとの大筋については、相当程度同感できるものと感じました。ただ、やはり学校は就学中を通じて本人について多くの情報を持っているわけなので、学校の就職指導の役割はある程度必要なのではないかとの印象もあります。
また、残念ながら企業内における人材育成という観点がやや欠落している感があり、「仕事という社会的領域の側が、教育の提供するさまざまな知識やスキル等をより尊重するような体制に変革されることが必要不可欠である」という議論はかなり不可能に近いでしょう。もちろんすべてではありませんが、企業は特別の知識やスキルよりは「成長力のある人材」を相当程度求めているわけで、その人材育成力こそが企業の競争力であるという実態をみれば、それはおそらく変わることがないと思われるからです。
なお、本筋とは関係ないのですが、私はこの本の装丁はなかなかリリックで印象深く、いいのではないかと思うのですがどんなものなのでしょう。