国家公務員の大卒採用一本化

今朝の日経新聞に掲載されていました。

 佐藤壮郎人事院総裁日本経済新聞社のインタビューに応じ、1種、2種、3種に分かれている国家公務員の人事区分を改め、大卒程度採用の1、2種を統合する構想を明らかにした。職員の士気向上と業務の効率化につなげる狙いで、政府・与党が近く再開する公務員制度改革論議の中で提案する考え。
…1985年度から実施している現在の制度は1種(2004年度採用653人)、2種(同3226人)、3種(高卒程度、同1428人)に分かれる。「キャリア」と呼ばれる1種採用者は入省当初から幹部候補生。1種採用者ならほぼ無条件で幹部クラスに昇進する一方、2種公務員は昇進が限られる仕組みになっている。
(平成17年9月27日付日本経済新聞朝刊から)

中央官庁の「キャリア制度」は、アタマはいいかもしれないが経験もなく現場も知らず人情もわからない若造が偉そうにしていてロクなことができるわけがないとか、身分差別だとか、ノンキャリの不遇さが不祥事の遠因となる(本当か?)とか、なにかと不評ばかりが目につきますが、それでは1種と2種をなくしてしまうのがいいのか、といえば必ずしもそうではないのではないか、という気がします。


中央官庁の幹部や中枢メンバーは、やはり相当に優れた人材であることが望ましいわけで、キャリア制度というのはきわめて計画的かつ集中的に高度な人材を育てるには好適なしくみであることは間違いありません。実際、「20代の税務署長」などがよく批判の対象になりますが、しかし若いうちから責任ある立場に立って働くことが人材育成にきわめて有益なことも事実です(ただ担がれているだけでは効果は薄いですから、本人次第の部分は多々ありますが)。これに限らず、早い昇進により重要な、OJTとして有益な仕事を多く経験したり、あるいは海外の大学院への留学など、集中的な人材投資を行うにはキャリア制度は非常に効果的です。20年間一貫してヒラ社員を続けている私からみると、同年輩のキャリア官僚の優秀さは桁違いという感じです(まあ、スタートライン時点ですでに向こうがはるかに優秀なわけなので、モトが5倍上、それが育成でさらに数倍に拡大して桁違いになったというところでしょうか(笑))。
もし、1種と2種を統合してしまうと、全員を1種のように育成するわけにはいかないでしょうから、どうしても人材投資の集中度は低下せざるを得ないでしょう。さらに、こうした人材投資や、若くして重要な仕事を経験できるといった1種の魅力も失われるわけで、育成・採用の両面で、これまでのように優れた人材が確保できるのかどうか、心配ではあります。もちろん、それはこれまでの2種の部分で優れた人材が採用され、活躍すれば大丈夫だ、ということかもしれませんが。
ちょっと異なる観点では、女性の登用が停滞することも心配です。現在は、1種の女性比率を適切にコントロールすれば、高級官僚に女性が一定割合確保され、集中的な人材投資が行われます。これを2種と統合すると、1種+2種で男女の競争が展開され、女性に不利になるのではないかという心配があります。また、現行の2種は地域ブロック採用ですが、1種と統合されると当然全国採用になるでしょう。これも、実態として地域的な移動性が比較的低くなっている女性にとって、2種公務員という優良な就職機会の喪失につながらないでしょうか。
もちろん、私も現行のキャリア制度に問題がないというつもりはありません。とはいえ、それは1種と2種の格差の縮小(さすがに今は極端すぎるでしょう)と、相互乗り入れ、とくに2種から1種へのコースチェンジの機会の拡大などによって対処されるのが、少なくとも当面は適当ではないかと思います。「幹部職員らの反発もあり長期の課題」と記事にはありますが、それは単なる感情的な反発ではなく、十分理由のある合理的な反論ではないかと思います。