パートの処遇改善に助成金?

本日の日経新聞朝刊で、厚生労働省がパートタイマーの待遇改善に助成金を支給するとの報道がありました。

…新たに始める支援事業は、(1)パートから正社員への転換制度(2)パートと正社員に共通の評価・資格制度(3)正社員と同じ教育訓練制度――などを設けて実際に対象者が出た企業に助成金を支払う仕組み。主に中小企業を対象に年間数十万円規模で助成する。処遇の改善を促し、パートの働きに報いるようにする。
 また厚労省は一律の時間給で設定されることが多いパートの賃金について、職務や成果などに応じて正社員と同等にもなる時間給の在り方を有識者らの研究会で検討する。一部でモデル導入して効果を検証し、正社員との格差是正に向けた取り組みを企業に促す。
 
(平成17年8月16日付日本経済新聞朝刊から)

うーん、なんともピント外れの施策・・・という印象を受けるのは私だけでしょうか。


まあ、これ自体はパートタイマーなど非典型雇用の比率が高まる中で、正社員とパートタイマーの処遇格差が大きいことに対する厚生労働省の問題意識の表れなのでしょう。実際、これらの施策はすでにパートタイム労働指針でも求められているところです。しかし、個別企業の具体的な人事制度、人事管理に行政があれこれ口出しすること自体がすでに余計なお世話であり、パート指針もそういう意味でもともと筋が悪いものだと思います。筋の悪いものにわずかばかりの(いかに中小企業対象とはいえ、年間数十万円ではいかにも小額でしょう)助成金をつけたところで、思うような効果は期待しにくいでしょう。
もちろん、企業はそれが生産性向上や利益の増加につながるのであれば、行政に指図されなくとも実施するわけです。実際にパートタイマーの正社員転換制度を持っている企業は多いですし、制度がなくとも貴重な戦力になっているパートを正社員として改めて雇用するということは現場では普通に行われてきています。パートを基幹戦力として活用している大手スーパーなどでは、指針への対応の意味もふくめて、共通の評価・資格制度を設計、適用する例も増えてきています。教育訓練にしても必要とあればパートにも正社員と同等のものを行っているでしょう。
いっぽうで、正社員を増やせないからパートで対応している企業に対して、年間数十万円助成してやるから正社員に転換しろ、と言ってもするわけがないことも明らかなように思われます。同様に、補助的な労働力として、市場価格で確保できればいいという労働力に対して、年間数十万円の助成で市場価格を乖離して正社員と同じ賃金制度を適用しろといってもする企業はほとんどないでしょう。教育訓練制度に関しては、いったいどうやって助成金を計算するのかも見当がつきません。要するに、経営の合理性の観点から判断して格差が発生しているのであれば、わずかばかりの助成金を目当てに経営の合理性を捨てるなどということは通常の企業経営ではあり得ないということではないでしょうか。厚労省の官僚がいかに優秀であっても、個別企業における経営の合理性について常に正しく判断できるとは到底思えません。経営の合理性については唯一経営者が責任を負うのであり、なにをもって合理的と判断するかも経営者が考えるものであって、無責任な外野が求められもしないのにあれこれ言うのはまったく無意味です(すなわち、ここでは余談になりますが、責任あるカウンターパートとして信頼関係にある労働組合が発言することは大いに有意義だということになります)。
したがって、「一律の時間給で設定されることが多いパートの賃金について、職務や成果などに応じて正社員と同等にもなる時間給の在り方を有識者らの研究会で検討する。」などというのは恐ろしくピントはずれもいいところで、正気を疑うような話です。これは記者の無知による誤報だと信じたい。企業の賃金制度というのはある意味経営理念そのものの反映であり、企業の競争力にも直結するものであって、それはパートの時間給についても同じです。市場価格の時間給という単細胞が経営理念か、という反論もあるかもしれませんが、市場価格で調達する、という考え方ほど資本主義社会、市場経済においてベーシックな考え方はないはずです。民間の私企業の賃金制度を国家が統制するというのは、人事担当者からみれば共産主義の悪夢以外のなにものでもありません。
もちろん、立場の弱い労働者には一定の保護は必要でしょうし、社会保障のように制度的に格差の存在するものについては是正が必要な部分もあるのかもしれないとは思います。しかし、企業の人事管理に手を突っ込むようなやり方はおよそ賢明なものとは思えません。行政の覚醒を切望するものです。