賃金「職種別」広がる?

6月22日の日本経済新聞朝刊の1面に掲載されたようです。

 同じ社内でも職種によって賃金制度が異なる「職種別賃金」を採用する企業が増えている。サントリーは全社一律を見直し、七月から製造部門だけの新賃金体系を導入する。キヤノン販売は四月、一般社員を対象に営業職や事務職などで三つの異なる制度を設けた。各社は少子化による将来の人材不足をにらみ、柔軟な仕組みで必要な人材の確保を目指している。
 新制度導入によって、サントリーは製造部門と事務・営業など他の部門の二つの賃金体系ができる。製造部門とその他の部門では人事評価の仕組みも変える。製造部門は技能習熟度合いに応じて六段階の資格を設け、技能のレベルが上がるごとに資格も賃金も上がる。その他の部門は従来通り三段階の資格に分ける。会社の人事評価をきめ細かく示し、製造現場での士気を高める狙い。
キヤノン販売は営業職を企業など顧客に直接販売する社員と、大手量販店などに卸売りする社員に分類した。総務など事務職も営業職と分け、社内に三つの賃金体系ができた。直販の営業職は個人の成果が分かりやすいため、年収に占める賞与の比率を高める。仕事の性格によって評価や賃金配分を変える。
 富士電機ホールディングスは幹部候補生の企画職と、技能・実務職で賃金体系を別にした。
(平成17年6月22日付日本経済新聞朝刊から)

これが1面で大きく載せるほどのことなのかなぁ・・・というのが正直な感想なのですが。


なにを珍しがっているかというと、こういうことのようです。

 日本企業は企業内労働組合の力が強く、職種に関係なく同じ仕組みで運用するのが一般的だ。職種別賃金を導入する企業が増えれば、職種ごとの「市場価格」が形成されやすくなり、人材流動化が進む可能性もある。
(前と同じ)

 企業や個人の業績を賃金と連動させる成果主義の賃金制度を取り入れたものの、運用方法で問題を抱える企業は多い。全社一律の賃金体系を残したまま、職種の違う社員を同じ基準で評価して賃金に差を付けることに、社員の不満が出ていた。これを改善する方法として、職種別賃金を導入する例が増えている。
(前と同じ)

あるいは、違う面の「きょうのことば」というコラムでもこんなことを書いています。

日本では企業内労働組合の賃金水準の統一運動により、職種別に賃金格差が開きにくい。そのため、職種によって、実際の賃金相場と大きく乖離(かいり)することがある。社会経済生産性本部が2004年に実施した調査によると、事務企画関連以外の職種では企業規模が大きいほど賃金水準も高くなる傾向がある。
(前と同じ)

うーむ。この下記ぶりを見たところ、日経としては、サントリーキヤノン販売のような「職種別賃金」が普及すれば、「職種別に賃金格差が開き」、「職種ごとの「市場価格」が形成され」、「人材流動化が進む」と思っているのでしょうか。
しかし、おそらくそうはならないでしょう。たしかに、わが国では賃金制度などの人事制度においていわゆる「職工一体」になっている例が多いことは事実だろうと思います。しかし、それがすなわち、たとえばサントリーの例でいえば製造部門と事務・営業などの部門との現実の賃金などまで同じになる、というわけではありません。実際には、たとえば職能資格制度は全社一本でも、事務部門や技術部門などでは高い資格に上がる割合が高く、製造現場では低い資格にとどまることが多い、といった運用がされているケースがほとんどでしょう(役員や部長クラスなどの割合を見てみれば明らかと思います)。また、成績がはっきり現れる営業職などでは、基本給や職能資格は低めに抑える一方、出来高払いの割合を高めることで成績次第で高給を得られるようにする、といった例も今回のキヤノン販売に限らず広く見られるはずです。ましてや、賃金制度が一律だからといって、「職種の違う社員を同じ基準で評価」などということはおよそありえないでしょう。
要するに、これはこうしたことを制度的にも「はっきりさせた」ということにほかならないのではないかと思います。ということは、現実も多少は「はっきりする」かもしれませんが、実態が大きく変わるとはちょっと思えません。ましてや、このように「はっきりさせた」各社が、人材の流動化やら格差拡大を本気で意図しているとは考えにくいように思われます。
まあ、人事屋としては面白い動きではありますが、しかしこれほど大仰に書き立てるほどのことではないでしょう。