「金融経済の専門家」労組を語る

ベストセラー作家村上龍主催の著名なメールマガジン「JMM」で、「金融経済の専門家」たちが労働組合についてコメントしていました。お題は「日本の労働組合に未来はあるか?」で、設問は「春闘ですが、完全に死語になった気がします。日本の労働組合に未来はあるのでしょうか。」
春闘」が「完全に死語になった」かどうかは定義によるでしょうが、この設問自体、労働運動の現状をまったくわかってない人のものという感じがしますね。まあ、よほど左翼的・階級的労働運動のイデオロギーに染まった人ならともかく・・・。
さて、これに対する回答は、「金融経済の専門家」たちが労働組合をどう見ているのか、ということが伺われて興味深いものでした。
 
とはいっても、基本的には判で押したように「労働市場が変化する中で、企業別労組は行き詰まり、新たな横断的連帯が必要となっている」という、世間で蔓延している言説を敷衍したものにとどまっています。実際、連合も同じようなことを言っているわけで(彼らも「連合評価委員会」の報告くらいは読んでいるのかもしれません)、それはそれで一理あるわけですが、連合が社会的連帯を叫ぶのは組織の原理からして当然であり、企業別労組が連合のこの方針に無条件に合意しているわけではなく、ましてや企業別労組自身の役割を否定しているわけではありません。
「金融経済の専門家」たちは、電機各社の労組が希望退職を呑んだときに、高額の割増退職金を支払わせるために奮闘したこととか、産別労組である西欧の製造労組が、実は各企業の支部単位で、工場の存続のために、雇用確保と引き換えに労働条件の切り下げに踏み切っていることとか、おそらく全然ご存知ないのでしょう。
そもそも、労使関係とか人事管理とかいったものは、雇用されて働いた経験のある人なら、自分の経験をもとにしてそれなりの意見が言える分野です。それだけに議論が拡散して混乱しがちになるわけですが、「金融経済の専門家」にもその域を出ていない人がいます。

 主に企業別の日本の労働組合には、発展という意味での未来はないでしょう。働く人々にとっても、その方がいいと思います。
 個別のケースによって差があるのでしょうが、私が勤めた会社(過去に12社)及び見聞きしたケース(金融や商社などに偏りがありますが)では、企業内の組合は、従業員の権利を保護するというよりは、企業が従業員を丸め込むための窓口として機能していました。
 多くの会社で、組合の幹部(専従職員)は、若い頃から経営層と顔見知りになり話し合う機会を持てる企業内のエリート・コースであり、組合が従業員の保護のために会社と徹底的に戦うというようなことは例外的です。組合費は、組合員の親睦イベント(何のために?)の費用であったり、組合幹部の飲食代であったりする、はっきり言えば無駄金です。全従業員加入の原則はむしろ従業員に不利に働いているといっていいでしょう。

まあ、この人の経験をもとにした感想ということでしょうが、それにしてもこれを一般化するのは大間違いになる可能性が高いということをわかったうえで云ってるんでしょうか。このメールマガジンはかなりの読者がいるはずで、よくも恥ずかしくないもんだと思います(もちろん、「金融経済の専門家」のコメントを読むのも金融経済の専門家が多いでしょうから、彼らの閉ざされた世界では「そのとおり!」という雷同を得るのかもしれませんが)。
さらに面白いのは、資本主義の申し子であるはずの「金融経済の専門家」たちが、ことこの問題に関しては共産党系の全労連全国一般や、共産党系の新日本出版社の本を持ち出してくることです。まあ、彼らのイメージする古典的な労働運動には共産党系がよくマッチしているのかもしれませんが。
というわけで、「金融経済の専門家」はなんにもわかっちゃいない、ということが良くわかって興味深かった、という感じです。