福井秀夫「官の詭弁学−誰が規制を変えたくないのか」

きのうのエントリでご紹介した竹中平蔵経済財政・郵政民営化担当相の発言を引き続きとりあげてみたいと思います。今日はきのうと違う部分です。

「日本のシンクタンクではマーケットウオッチャーがたまたまアルバイトみたいに政策を論評しているだけで、本当の意味のポリシーウオッチャーがいないんですね。経済財政諮問会議も日銀の政策決定会合も議事要旨を公表しますが、政策を追っている人で全部読む人、ほとんどいないんじゃないですか」
「ポリシーウオッチャーは実際の政策情報を追いかけるわけですね。政策はどんなに頑張っても民主主義の政治プロセス以外では決められないんです。永田町や霞が関で仕事したことがない人はそこが分かっていない。政治プロセスの知識がないと政策を追うと言っても何も分からない。それじゃ政策論じゃないんです」
「一度政府に入った専門家が外に出て活躍すると大きな力になる可能性はあります」
(2月7日付日本経済新聞朝刊、引用は抜き書きです)

ここで竹中氏がいっている「議事要旨」(総合規制改革会議のものが中心ですが)をもとに書かれた本があります。

官の詭弁学―誰が規制を変えたくないのか

官の詭弁学―誰が規制を変えたくないのか

取り上げられている「官の詭弁」はまことにケッサク揃いで、私のような凡人には理解しがたいものですが、当然ながら官のサイドにも言い分はあるわけで、そのひとつがまさに竹中氏のいう「永田町や霞が関で仕事したことがない人はそこが分かっていない」という点にあるようです。
たとえば、この本について、Bewaad Institute@Kasumigaseki氏が「その挑戦、受けよう」と題してコメントしておられます(まだ完結していないようですが)。
http://bewaad.com/archives/themebased/2004/challenge.html#Dec0704
http://bewaad.com/archives/themebased/2004/challenge.html#Dec2204
氏は中央官庁にお勤めのキャリア官僚であるとの由。私も、道路公団藤井総裁事件の際には、氏のサイトで官僚の価値観やモノの考え方を勉強させていただきました。このコメントでも、労災保険に関する著者の誤解を指摘している部分などは勉強になります。

さて話を戻して、氏が竹中氏と近い見解を示しているのは、農林水産省構造改革特区での株式会社による農地所有に抵抗している場面に関する部分です。まず、「公開されている議事録」からその場面を引用しましょう。

○福井専門委員 それは所有規模の問題じゃないですか。
○佐藤課長 はい。
○福井専門委員 所有形態が株式会社であるか、あるいは個人農家であるかによって、後々の耕作放棄とか投機の度合いが変ってくるということを主張されたいんでしょう。規模なら規模で別の論点ですから、所有形態に伴う違いだけ教えてほしいんですけれども。
 要するに、おっしゃっているのは、でかいのが放棄されたら影響が大きいとおっしゃりたいように聞こえるんですけれども、それは関係ないんです。そうじゃなくて、株式会社の方が個人農家よりも耕作放棄や土地投機をやりやすいとおっしゃりたいんでしょう。だから、その端的な根拠を知りたいのですけれども。
○川村局長 それはもうまさに、株式会社の特質で、まさに株主の負託に応えて、資本効率を高めるという考え方を持っているわけですから。
○福井専門委員 そうすると、個人農家はその資本効率を高めるという動機を持ってないのですか。
○川村局長 勿論持っていますが、ただそれが頓挫したときに、どういう対応をするかということです。
○福井専門委員 頓挫したときに個人農家と株式会社の対応は、ロジカルにどう違うんですか。
○佐藤課長 論理的でない御回答になるのかもしれませんが。
○福井専門委員 いやいや、論理的な回答だけ聞きたいんですけれども。
  
アクションプラン実行WG 第4回議事概要 > 農林水産省との意見交換
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/03/wg/action/04/gaiyo1.html

もうひとつ。

○渡辺次官 それは規制の強化ではなくて、運用の適正化でしょうね。もう一つ申し上げたいのは、転用の話を今されましたが、転用の前にまず耕作の放棄という問題があると思うんです。農地として使わなくなる。そのときの影響は今お考えになっているような株式会社による大規模な農地の利用権を持った状態での放棄はもっとこわいということでございます。
○八代委員 わかりましたが、ただ、大規模な放棄がこわいんであれば、大規模農家に集約するのも同じような問題があるんじゃないですか。大規模農家であって、要するに、株式会社以外の形態であれば、地域に根差しているから耕作放棄は起こり得ないということが、どういう根拠で言えるわけでしょうか。
○渡辺次官 起こり得ないのではなくて、起こる可能性がより少ない。相当に少ないということです。ですから、そこのところが先ほど来申し上げているように、経済学的な話だけをしているのではなくて、その土地で生きていく、その土地に住んでいる。そういう方々が目の前で自ら取得した利用権を野放図に放棄できましょうか。もし、そういうふうなケースにおいては、その利用権を他の方々に必ずや移すに違いないだろう。したがって、私どもは株式会社一般の参入の場合には、リース方式であればそれが容易に他の耕作をしたいという方々に移転をするのではないかということを申し上げて、リース方式が限度だということをお話ししているわけです。
○八代委員 そうしたお答えは信仰告白としか思えません。次官の信仰であればそれは結構でございますが、別に証拠なしに、そういう心情を吐露するだけで、農業政策が行われているというのは非常におそろしいことだと思います。
  
アクションプラン実行WG 第7回議事概要 > 農林水産省との意見交換
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/03/wg/action/07/gaiyo1.html

これに対するBewaad Institute@Kasumigaseki氏の見解はこうです。

「普通の大人であれば、ここで農林水産省の担当者が述べていることの背景には、最終的な政策決定の場−もちろんそれは役所ではない−において、論理的でもなければ経済学的でもない理由で意思判断がなされているという実態があることがわかるはずだ。 民主政(ママ)の枠内で合法な手続により決定される政策は、それが論理的でなく経済学的でなくても、行政はそれを遵守しなければならないし、また、その政策を覆すには、同様の手続により別の政策決定を行うことのみが必要十分条件であって、論理的・経済学的な説明はあくまでそれを達成するためのノウハウの一つに過ぎない。
 ここでの農林水産省は、少なくとも先の厚生労働省とは異なり、無理な理屈を闇雲に言い張るのではなく、なぜ受け入れられないかを率直にかいま見せている。 それを非論理的・非経済学的だと嘲ってみたところで、挑戦者の虚栄心は満足するかもしれないが、実態は何も変わりはしない。 挑戦者に税金から謝礼を払って規制改革の議論をさせているのは、個人的な満足をさせるためではないはずである。」

これが中央官僚の一般的な考え方なのかどうかは私にはわかりませんが、最初に引用した竹中氏の見解と非常によく似ていますね。まことにもっともな話だと思います。
ただ、ここで登場している福井秀夫氏も八代尚宏氏も、竹中氏のいう「永田町や霞が関で仕事したことがない人」ではなく、むしろ「一度政府に入った専門家が外に出て活躍」に該当するわけですから、それは十分にご承知のうえなのではないかと思います。総合規制改革会議というのは「内閣総理大臣の諮問に応じて経済社会の構造改革を推進する観点から、必要な規制の在り方に関する基本的事項を総合的に調査審議していく」ものですから、現行規制のなかに非論理的、非経済学的なものがあることを明らかにすることは有意義ではないでしょうか。とりわけ、構造改革特区というのはそうした非論理的、非経済学的な規制をトライアル的に緩和、撤廃してみることを可能にしたしくみでしょうから、その提案を非論理的・非経済的理由だけで退けることを正当化することは難しいように感じます。
ついでに、「公開の議事録」から、その他のケッサクを引用しておきます。本に載っていないもので、ほかに面白いのをご存知の方・発見された方、お知らせ戴ければ幸甚です。
まず、株式会社による医療機関経営を排除しようという主張です。

(榮畑課長)株式会社における医療機関経営を認めれば過剰診療や収益性の高い医療分野への集中により医療費負担の増大や医療の質の低下を招くおそれがある。
(八代主査)今の医療法人は過剰診療や収益性の高い分野に集中していないのか。例えば、小児医療を切り捨てるなどしていないのか。
(榮畑課長)株式会社の本質は、利潤を追求することにある。
(八代主査)医療法人は利潤を追求していないのか。
(榮畑課長)利益の追求は、医療法人の本質ではない。
(八代主査)医療法人は個人の財産で病院を作っているものであり、内部留保して医療機械を購入したり新しい病院を作ったりしているのではないか。
(榮畑課長)医療機関に充当されているということであればいい。
(八代主査)であれば、株式会社も利益を医療機関の経営にあてればいいということになるのか。
(榮畑課長)そうはならない。医療法人は全て再投資に回るが、株式会社は利益の一部を配当に回す。
(八代主査)配当は資金調達のコストである。医療法人も銀行借り入れをすれば利子を払ってその分再投資できない。株式でも銀行借り入れでも、同じ医療外流出するのではないか。
(榮畑課長)株式会社は本質的に配当するものであり、その点銀行借り入れと株式は違う。
(鈴木委員)一昨年の医師会の資料でも、配当は社外流出であると言っていた。医療法人の場合に比べ、株式会社の場合は配当分だけコスト高になると言っているが、そういうことならば医療法人について利子は経費に参入するべきだ。そんなことも分かっていないのか。
(中略)
(福井専門委員)前のヒアリングの議論で、現在ある62の株式会社で営利法人であることで何の問題も発生していないという御答弁があったと思うが、今も変わりないか。
(榮畑課長)何の問題も発生していないといったつもりはないが、株式会社立病院で何か医療安全上の問題があったとは聞いていないと言ったと思う。
(福井専門委員)それでは、本日の資料に書いてある過剰診療や収益性の高い医療分野への集中といった現象は起こっているのか。
(榮畑課長)成り立ちの違うものを同じ土俵で議論するのはおかしいのではないか。
(福井専門委員)再度質問する。
(榮畑課長)現在それを判断する材料を持ち合わせていない。
(福井専門委員)調べてもいないのか。
(榮畑課長)新たに株式会社立病院を認めていこうというのは、病院で収益を得ようとするものを認めることであり、現在ある従業員の福利厚生を目的とし収益を目的としていない今ある株式会社立病院と比べても意味がない。
(福井専門委員)調べる意思があるのか。
(榮畑課長)調べる意思はない。
(福井専門委員)成り立ちが違うとどうして比べる必要がないのか。
(榮畑課長)現在ある病院は収益を目的としてやっている病院ではなく、親会社の福利厚生目的でやっているので、土俵が違う。
(福井専門委員)これらの病院は一般開放していないのか。
(榮畑課長)一般開放している。しかし、そういう目的でやっているので、親会社から出資、経費の補填等を受けて運営しているものであり、そもそも違う。
(福井専門委員)一般開放はどのぐらいの比率でやっているのか。
(榮畑課長)まちまちであるが、高い割合で行っているところもある。
(福井専門委員)高くやっているところは、企業の福祉病院的な意味合いとは違う機能を果たしているのではないか。
(榮畑課長)そういうところでも、親会社からの出資など、有形、無形の支援を受けている。
(福井専門委員)有形、無形の支援を受けていたらなぜ比べてはいけないのか。
  
第5回構造改革特区に関する意見交換会 議事概要
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/02/wg/tokku/gaiyo5.html

なんとなく、都合の悪い結果が出そうなことは調べない、という印象ですよね。

次は、カット専門、10分1,000円で急成長している「QBハウス」から出された、同一店舗で理容師と美容師を混在させてほしいという特区要望に対する厚生労働省の抵抗です。ちょっと長いです。

○福井専門委員 さっき反発があると言われました。プロの方だから職人の文化を持っているから反発があるかもしれないので、軽々に変えていくことは難しいのではないか、こういうことがありましたけれども、これもちょっと意味がよくわかりませんでした。恐らく皆さんは誇りを持っておられるわけですね。それは事実だと思います。理容師さんなり美容師さんが技術なり文化に誇りを持っているとしても、例えばまさに理容所で理容師・美容師が混在していたとしても、混在のそれぞれの技術をもつ方が自分はどういう技術を提供するのだということが明らかになっていて、消費者がそれを自由に選択しているときに、何か文化がすたれるというような心配というのはあるのですか。
○芝田課長 文化というか、それぞれ理容と美容、この2年間にわたって教育をしているということがあるわけでして、それの違いがカットだったらそもそもが同じなのではないかとか、違いがないのではないかということに関しては誤解があるし、それは違うということを申し上げていたわけでございます。
○福井専門委員 カットだから同じなのではないかというよりは、美容師・理容師の身につけた知識なり、あるいは研修なり技能なりが違うのだとすれば、カットで大量生産の形のサービスのところだって、前提を気にする人がいるかもしれないというのがこの議論の出発点でしょう。だとしたら、そこはさっきから繰り返し申し上げているように、資格については明示させればいいだけのことです。その資格がまさに文化とか、あるいは職人芸なりの域に達するようなものであることを重視する方はそういう名札の方を、あるいはそういう資格の方を選べばいいだけじゃないですか。誤解さえ与えなければ、文化が滅びたり職人芸が廃れるということはならないと思うのですけれども。
○芝田課長 そういう表示ということでうまくいくのかどうかということは、これは検討を慎重にしなきゃいかんと……。
○福井専門委員 うまくいかない蓋然性というのは想像ができないので、今どういう場合にうまくいかないのか、具体例を教えていただけませんか。
○芝田課長 それがきちんと守られるかどうかというようなこととか、特にここに関して言えば、チェーン店でいろんな方が派遣されたり、出入りも激しいというようなこともございますし……。
○八代主査 それは今の理容師・美容師だって全く同じように通用するものですね。混在とは無関係に。
○福井専門委員 こういう要望の多いところだけは違反する蓋然性が強いと疑って決めつけておられるということですか。
○芝田課長 そういうことを言っているわけじゃなくて。
○福井専門委員 美容師・理容師がごまかすかもしれない、資格を偽るかもしれないというようなことは、およそ全国に何万もある理容店・美容店どこだって同じことじゃないですか。それを厳正に普段から監督官庁として管理されている建前ではないのですか。同じことをやればいいだけのことではないのでしょうか。
○芝田課長 それは、そういうことで監督はしておりますが。
○福井専門委員 だとしたら、この場合だけ監督が行き届かないという合理的な論拠はありますか。
○芝田課長 そこはどういう規制の実態にあるかとか、そういう表示のあり方とか、そこはまだ少し検討してみないといかんというふうに考えております。
○八代主査 それは、この特区提案の中の検討でやっていただくということですか。つまり、この特区提案というのは無条件で認める必要はないので、必ず代替措置というのがつく場合があるわけです。要するに特区を認めるに当たって。ですから、今、言った表示を明確化するというのは、まさに代替措置です。今、おっしゃったのは、表示の仕方について、もう少しどれぐらいの大きさにするとか、そういうことについて検討させてくれというのであれば、それは全く問題ないので、そういう条件付きでこの特区提案を前向きに、まさに期限内に特区室とやっていただくという意味の御検討ということで解釈していいわけですか。
○芝田課長 そこはちょっとまだ、教育のあり方とか表示のあり方とかいろいろ慎重に検討しなければいけないと思っております。
○福井専門委員 連呼されてもわからないのですが、教育のあり方にどう影響するのですか。資格を持っている方が特定の教育を受けているということは法令上前提とされているわけでしょう。
○芝田課長 はい。
○福井専門委員 だとしたら、それがわかるように消費者になっていて、それをわかった上で選択し、わかった上で提供しているという関係があるときに、教育のあり方をどういうふうに変えなければいけないのですか。
○芝田課長 繰り返しになるかもしれませんけれども、もともと特区の要望というのが、そういう効率性を重視して、技術面の違いがないというような御主張でありましたので、そこは教育のあり方にも関係するところではないかと思っています。
○福井専門委員 違いがないサービスかどうかはともかくとしても、一定のサービスに対して、もともとの前提の資格がわかっていて選ぶときに、何で教育を変えないといけないのかというのがさっぱりわからないのですけれども、どういうふうに変えるのですか。大量生産技術が効率的なところが専門に出てきたら、それ専門の資格をつくるべきだとおっしゃりたいのですか。
○芝田課長 そういうことを言っているのではなくて。
○福井専門委員 では、どう変えるのですか、具体的に。
○芝田課長 変えるというか、向こうがカットであれば同じであるというような言い方は、教育のあり方を無視されているのではないかということを申し上げているわけです。
○福井専門委員 さっきも出てきましたけど、刈り上げ技術は理容のみとかおっしゃいましたね。じゃ、刈り上げはしませんという前提で、美容師の資格の方はそういう前提で、そういう技術について表示するのであれば、うそじゃないですよね。文化も守られますね。何の問題があるのですか。
○八代主査 要するに、理由はともあれ、こういうヘアカット専門の理容と美容の混合店を認めてほしいという要望であって、そういう美容師と理容師のヘアカットが同じであるというような不埒な言い方は撤回しますというふうに要望者が言えば、それでいいということですか。
○芝田課長 そういうことではなくて、やはり、これは教育のあり方なり顧客の安全性について、本当に表示のあり方だけで解決できるのかどうかということは、より慎重に検討しなきゃいかんと思っています。
○福井専門委員 どういう場合に危険が起きるのですか、安全性とおっしゃいましたけど。そもそも危険なような、理容師にせよ美容師にせよ、ヘアカットすると顧客に危険を与えるような、そういう資格なのですか。
○芝田課長 それは現にカットで事故が起きているということはございます。
○福井専門委員 それは事故を起こした方のまさに資格なり研修なり教育なり監督の問題ではないのですか。ここの論点は、理容師一般、美容師一般にも事故があるというような、途方もない一般論をしているのではなくて、理容所で美容師がいたり、美容所で理容師がいたりするということ自体に何か具体的な弊害があるのでしょうかということを議論しているのです。
○芝田課長 そういう意味で混在があることによって、先ほどの繰り返しになりますけれども、理容の技術、特に刈り込みの技術等に習熟していない方がやることによって、事故も起こりやすいのではないか。
○福井専門委員 今、美容師さんだけがいる美容所で、美容師さんは刈り込みをやることは法令で禁止されているのですか。
○芝田課長 禁止ということではありません。
○福井専門委員 だったら同じことじゃないですか。何で混合のところにいる美容師だけを目の敵にする必要があるのですか。だったら美容所の美容師さん全体に刈り込みをやるときには、それはおまえが学んでいない技術だから、よほどのことをしないと顧客を傷つけるという前提で指導監督されていないとつじつまが合わないじゃないですか。
○芝田課長 そういうことを言っているのではなくて、混在を認めることによって、そういう危険性がより増すのではないかということを申し上げているわけです。
○福井専門委員 どうして増すのですか。美容師が鋏を使って刈り込みをやるということ自体が危険だったら、混在のところでやろうが、混在してないところでやろうが同じリスクじゃないですか。
○芝田課長 そもそも美容所に行かれる場合に、それはわかりませんけれども、美容所に行かれる男の方というのは、そんなに刈り込みで行かれるということが多いのかどうかということはありますけれども、ここにおいてQBというのは、ある意味でむしろ床屋だと誤解されて行かれるところが多いわけですけれども、そういうところにおいて、美容師の混在ということを認めることはややいかがかということを申し上げているわけです。
○福井専門委員 それは、また根っこに戻るのですが、誤解を与えないようにするという資格の表示があれば、何の問題があるかということに結局戻るはずですよ。
○八代主査 どうも今までのお話だと、やはり新しい形態のこういう店が出てくること自体が望ましくない。伝統的なやり方でなければだめだと。業界の秩序を乱すというあくまでも業界よりの発想としか思えませんので、ぜひ消費者がいろんな形の理髪室、美容室、あるいは混在室というものが選べるように形の特区提案というのを前向きに受け止めていただけないかということで、それによって生じるおそれがあるリスクをきちんと列挙していただいて、それをクリアする手段を考えるというのが前向きなやり方で、ただ、検討するという形で、これを葬り去るということは特区の精神に反しますので、明確なリスクの根拠というのを速やかに期間中に示していただいて、それに基づいて、また再度議論させていただきたいと思いますが、それではよろしいですか。
○芝田課長 何度も申し上げていますけれども、過剰なものとか、こういうQBというものを別に否定しているものでもありませんし、その理容所・美容所という形でどんどん増えておられるわけです。それだからこそ、短期間のうちに200 店舗にまでなられているわけですけれども、別に業界寄りということではないのです。
  
第3回構造改革特区提案および規制改革全国要望に関する意見交換会 議事概要
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/03/wg/tokku/ex03/gaiyo.html

業界寄りではないというのですが、だったらどうしてここまで抵抗するのでしょうか。

次は薬局への薬剤師の必置規制を死守せんとする攻防です。

○福井専門委員 幾つか質問ですが、外国で対面販売ではなく一般小売店で薬を売っている国を調べておられますか。
○田坂総務課長 数字的なものはありませんが、大体一般薬の取り扱いというのは3形態あり、非常におおざっぱな言い方をしますと、例えばアメリカのように一般薬全体を小売店で売ることを認めているところ。逆にフランスのように・・・。
○福井専門委員 アメリカの例でいいですが、アメリカでその場合に具体的な消費者の被害や弊害というのは発生しているのですか。
○田坂総務課長 私ども正確にはとらえておりませんが、説明を続けさせていただきたいのですが。
○福井専門委員 この質問に答えていただければいいです。
○田坂総務課長 初めの質問にお答えしたいのですが。
○福井専門委員 初めの質問はそのためですから、それだけで結構です。
○田坂総務課長 フランスの場合、逆に一般薬を全て・・・。
○福井専門委員 アメリカの例をお答えください。質問はそれです。アメリカで弊害があるかどうかを端的に答えてください。
○田坂総務課長 勿論、副作用の報告はあると思います。
○福井専門委員 違います。薬剤師が説明しないで売ったために発生している弊害はあるのですか。
○田坂総務課長 薬剤師さんがおらないで売られて、副作用が生じているということですから、そういうことじゃないでしょうか。
○福井専門委員 それが薬剤師の不在によるものだという実態はあるのですか。
○鶴田審議官 アメリカの場合、全部がコンビニで売っているかというと、そうではないです。ドラッグ・ストアで売っている場合もあるわけです。私が聞いている感じでは、ドラッグ・ストアなど薬剤師がいるところで売られているのが多いのではないかという話を聞いています。
○福井専門委員 薬剤師は規制で必ず設けることになっているのですか。
○鶴田審議官 日本ではそうなっています。
○福井専門委員 違います。薬を売るお店では薬剤師を置かないといけないという法令にアメリカはなっているのですか。
○鶴田審議官 売っているところについては。
○福井専門委員 そうじゃないです。規制があるのかどうかを聞いているのです。
○鶴田審議官 アメリカでは規制はないです。規制がないから、薬局でもドラッグ・ストアでも売れるわけです。薬剤師がいるところでも、薬剤師を置いていないコンビニでも売れるわけです。だけれども、薬剤師のいるドラッグ・ストアなどで売られているケースが多いのではないかと言われています。
どの程度コンビニとドラッグ・ストアとに売り方の差があるのかどうかについては、アメリカ政府に聞かないと詳しい情報はわからないと思います。
○福井専門委員 海外でそういう例があるのであれば、ちゃんと実態調査をされて、アメリカで具体的にどういう被害があるのかとか、インターネットならすごく近い国ですから、もう少し実態を調べられて、そちらでの弊害、こちらでの弊害など、比較法的な検討を全然されていないように思うのですけれども、もうちょっとちゃんと比較いただいた方がいいんじゃないでしょうか。
○鶴田審議官 当然、一般薬も医薬品ですから、効くということは一方に副作用があります。
○福井専門委員 実態はともかく、まず規制がないのは今お認めになられたとおりなのですから、規制がなくて、その規制がないがために発生している弊害が、もしさように重要なことであればアメリカでも発生していないとおかしいと思いますが、その実態をお調べになった方がよろしいのではないですかということです。
 次の質問ですが、販売実態のお話、先ほどからの議論でも出ていた、薬剤師の不在が2割ないし3割あるというお話ですが、その場合に、説明できないわけですね。不在の間に売った薬はどのくらいあって、その薬を買った人がどのくらい副作用や過服用で弊害を受けているかという調査をされていますか。
○田坂総務課長 しておりません。
○福井専門委員 販売実態として、これも先ほど来の八代委員始めの議論にありましたけれども、現実に薬を買いに行って説明を受けた人はほとんどいないというのは、むしろ国民の常識だと思うのです。説明を受けないで買った薬で何か被害を被った人がいるのかどうか、その被害の中身は何だったのかという実態調査はされていますか。
○田坂総務課長 私どもそれはございませんが、ただ、逆に言いますと、一般薬についていろいろな副作用報告、被害の報告がありますので、それが果たして説明を受けた場合か、受けない場合かということだろうと思いますけれども。
○福井専門委員 その中で重大な副作用報告があったものが説明を受けていないために発生したのであれば関係があるかもしれない。それを調べていないのに薬剤師を置くことが副作用を防ぐための重要な手段、政策手法だということをどうして断言できるのですか。
  
第1回アクションプラン実行WG 議事概要
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/02/wg/action/01/gaiyo.html

まあ、要するにやる気がないわけですね。どうせ結論を変えるつもりはないから根拠も不要だということのようです。

ひとつくらいは本に載ってないのを紹介しないといけないでしょうから(笑)、公立の小中学校で教科書の選択を校長の権限にしようという規制緩和への抵抗ぶりをごらんください。

○奥谷主査 今の八代委員からの意見と同じで、まとめ買いするとコストが安くなるということ、これもやはりおっしゃっているとおり、教科書ですので、その地域、地域によって、例えば自然がすごく豊かなところであれば、もっと自然に関するものを教える方がもっと実務に即した教育ができるとか、やはり、校長が選択できるという権限があるのであれば、すべて全部各学校の独自性に任せて教科書を選定するというような方向になぜ持っていかないのかなというのが1つ、それが疑問です。
○片山課長 私立につきましては、建学の精神という私立独自の考え方がございますので、市町村が設置義務に基づいて、小・中学校を設置するというのとは考え方が違う部分がありますので…
○八代主査 公立学校には、建学の精神がなくていいのですか。
○片山課長 それぞれの学校の特色というものを出した教育活動を行うということは、勿論、それはございますけれども。
○八代主査 その中に教科書採択がなぜ入らないのかということなのです。
○片山課長 教科書採択につきましては、先ほども申し上げましたけれども、やはり十分な調査研究をする必要があるわけでございまして、校長とか、校長といっても特定の教科の専門しかない、教育の内容としてはその部分しかないわけでございますので、実際には教科の担当の教員が決めるということになろうかと思いますけれども、数名の教員だけでですね…
○八代主査 そういう極端な例を言うのではなくて、教員の能力が十分あるところならできるのではないですかということを聞いているわけです。
○片山課長 そのたくさんの教員になるには、郡単位というのが従来からそれぐらいのレベルでもって調査・研究をすればいいということで、そういう実態を踏まえて、この採択地区の法律もできておりますので、その点、郡単位のレベルが適当であろうというふうに考えているところでございます。
○八代主査 繰り返しになりますが、大勢でやればよくなると、数人ならだめだということですけれども、では私立学校がどうやってやっているのか、それから国立学校だって状況は同じで、数人でやっておられるわけですね。なぜ、私立や国立ではできて、公立ではできないのですか。
○片山課長 私立につきましては、例えば中学校につきましては、中・高一貫というような形で、中学校だけではなくて高校の先生もいる場合がほとんどでございますので、そのような先生方が、中・高の先生方が一緒になって教科書を調査・研究することが可能ということがございますので、そこは町村の中学校とは違う部分があるのではないかと思います。
○福井専門委員 中学校までしかないものはどうですか。
○片山課長 中学校しかない私立というのは、私はちょっと聞いたことがないのですけれども。
○八代主査 絶対にないということを言っておられるのですか…
○片山課長 いや、統計を見てはいないですけれども。
○八代主査 そんなことは答えにならないわけで、個人の感触ではなくて、専門家ですから、ちゃんと統計を見た上でお話しいただきたいと思いますが。
○福井専門委員 制度的に、中学校だけの私立学校というのは禁止されていないわけですから、あるかどうかは後で正確なことをお調べいただくとして、そういう中学校だけの私立学校があるときに、高校の専門科目担当教員がいないという場合でも、私立学校の校長は教科書を選べるわけですか。
○片山課長 クラスが少ない場合ということですか。
○福井専門委員 違います、高校がない私立中学の場合でも、私立中学の校長が教科書を選べるのですか。
○片山課長 それは、制度的にはそういうふうになっております。
○福井専門委員 それが許されていて、なぜ公立中学校がだめなのかというのが、さっきからの議論の趣旨です。
○片山課長 それは、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、私立は私立の考え方でもって学校をつくっておるわけでございますので、それで設置義務に基づいてつくられた公立学校とは違うわけですので、私立のそういう学校に保護者というか、生徒が希望して行くということであれば、それはそれでそういう私立学校に…
○福井専門委員 それはわかりました。だから、それを論拠にされるのであれば、さっきおっしゃった調査・研究体制や能力が備わっているかどうかというのは関係がないということになるのではないですか。
○片山課長 それは、私立の学校の実態というものを見れば、たしか1学年200 〜300 人ぐらいはいるのは多いと思いますし…
○福井専門委員 では、公立小学校、中学校で規模が大きくて、いろんな科目の先生がそろっている場合はいい、ということですか。
○片山課長 そのようなレベルの学校は、例えば市の中学校とか、市単位で教員の数がそろうであろうということでございますので、そういう実態を見て市ということとか、郡単位ということで採択地区を設定しているわけでございまして、町村単位で…
○福井専門委員 私立中学校で少ない数の生徒しかいない、先生しかいないという場合は禁止しなければいけないのではないですか。
○片山課長 それは特に…
○福井専門委員 なぜそっちがよくて、公立小学校、中学校にだけ規模や、調査・研究能力を要求するのかという、つじつまの合った論理的なお答えをいただきたいのです。
○伊藤補佐 先生が御質問の点でございますけれども、私どもも私立中学校が規模が小さければ、調査・研究は非常に大変だろうなというふうに制度的に考えているところはございますけれども、さはさりながら、私立中学校、それぞれの学校、設置目的等に照らせば、周辺の町村の公立の学校と同じものを採択しろというような制度は、むしろ合理的ではないということで、この制度を構築したところでございますので、十分な調査・研究ができるよう、それぞれのところで努めていただきたいとは思っておりますけれども、制度としてはこういう制度を構築しているところでございます。
○福井専門委員 だったら、小・中学校で調査・研究の体制が整っていない場合にだけ、なぜ強制的に校長の選択を禁じなければいけないのか。
○伊藤補佐 勿論、私立であってもしっかりとした体制を整えていただきたいというのが前提でございますけれども、この制度を構築するに当たって、義務教育の教科書を無償で国が給与するに当たって、しっかりとした採択をできる限り体制として取っていただきたいということで、この現行制度ができているところでございまして…
○福井専門委員 私立小・中学校も同じ基準でないと一貫していないではないですか。
  
第2回構造改革特区提案および規制改革全国要望に関する意見交換会 議事概要
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/03/wg/tokku/ex02/gaiyo.html

こりゃもはや、しどろもどろという感じですな。

せっかくですから本に載ってないもので労働関係もひとつ。というか、実は労働関係ってあまりないんですよね。これは派遣期間の上限についてのやりとりです。

(福井)派遣されるかどうかは当事者の合意で決まるか。
(宮川)そのとおり。
(福井)派遣期間については当事者が合意していれば良い訳で、そもそも何故それを法令で規制しなければいけないかが分らない。
(宮川)派遣先の受け入れに関する規制であり、派遣労働者に関する規制ではない。
(福井)派遣先がもっと働いて欲しいといっても禁止しているのか。
(宮川)そういうこと。その場合には直接雇用することが考えられる。
(福井)派遣先の企業がもっと派遣のまま働いて欲しい、派遣労働者も働きたいと合意していてもだめなのか。
(宮川)派遣先と派遣労働者の間では合意ということはないので、それはできない。
(福井)実質的に望み望まれという関係があれば、他の人がとやかく言うことではないのではないか。
(宮川)その際には何故派遣という形をとる必要があるのか。その人の労働力に着目するのであれば直接雇用という道を活用すべき。
(福井)コストが違う。直接雇用のコストを払う程ではないが派遣であれば、その人の才能を評価するということもあり得る。
(宮川)コストで判断されるべき問題ではないと考えている。
(福井)派遣先の企業からすれば、直接雇用ならばずっと雇えると言われてもそれにはコストがかかる訳なので、企業が判断するのは事実である。
(宮川)我々の基本的な考え方は、労働力を使用したいのであれば、雇用が原則であるということ。雇用以外の方法として派遣というシステムを認めているのは、派遣で働きたいという人と派遣を受け入れたいという企業の需給調整をとる意味で、全体として直接雇用以外の働き方も認められ得るのではないかという観点で、その範囲内で認めているものである。
(福井)原則が例外かは当人達で決めることであって、役所は旗を振って決めることではないのではないか。
(八代)一言で言えば、これはやはり派遣労働は悪い働き方であって直節雇用が良い働き方であるという価値判断に基づいて出来ている法律である。派遣労働者のための法律ではないということで宜しいか。
(宮川)これはあくまでも派遣という働き方を一定のルールの下で認める法律であって、派遣が良い悪いという考え方ではない。
(八代)でも一年を超える派遣は禁止しているのは、悪い働き方だから禁止しているのではないか。
(宮川)働き方そのものではなくて、働かせ方が悪いということ。
(福井)関係者達が良いというのなら認めてあげればよいのであって、「お前、止めておけ」という必要はない。全国でやればよいが、せめて特区で「お前、止めておけ」ということを止めることで何か支障があるか、実験してみることに誰も被害者はいないと思う。
  
意見交換会 第3回議事概要 > 厚生労働省
http://www8.cao.go.jp/kisei/giji/02/wg/tokku/gaiyo3-4.html

実は、福井氏には派遣労働のしくみについて誤解があり、Bewaad Institute@Kasumigaseki氏なら手厳しくやっつけて「挑戦者の負け!」と断じそうですが、それはそれとして、なんで当人がいいというのに介入するのか、派遣労働者のための規制じゃないじゃないか、特区でやれるじゃないか、という疑問はもっともですよね。
それにしても、竹中氏は簡単にいいますが、こういうのに全部目を通すってかなり大変というか、民間人にはそんなヒマな人は居ないんじゃないかなぁ・・・。