維新の会の不審な公約

日本維新の会の公約の原案が明らかになったそうで本日の読売新聞朝刊が短く伝えていましたが、もうどこからどのように突っ込めばいいものやら

 新党「日本維新の会」(代表・橋下徹大阪市長)が次期衆院選で掲げる公約の原案が25日、判明した。
 基本政策「維新八策」を具体化したもので、高齢者の医療費増大を抑制するため、成人の医療費の自己負担割合を一律にすることなどが柱だ。…医療費の自己負担は現在、20歳以上が3割、75歳以上は1割だ。70〜74歳は特別措置で1割となっている。原案では具体的負担割合を明記していないが、「年齢による差別をなくす」とし、高齢者と現役世代の負担を一律にするとした。…
 行財政改革に関しては、政府のいわゆるキャリア官僚に40歳定年制を導入する。40歳になれば期限付きの政治任用スタッフとなるか、民間企業に再就職するか選択を求めるとした。
平成24年10月26日付読売新聞朝刊から)

医療費の自己負担について「年齢による差別をなくす」と言った端から「40歳定年」を持ち出すのってはどうなんでしょう。もちろん定年制は年齢差別ではないという理論武装ができているのならいいのですが(私自身もこのブログで時折書いているように定年制は年齢差別ではないという立場ですし)、なんかあまりそんな気配はしません。「年齢による差別をなくす」と簡単に言いますが年齢によって異なる取り扱いをしている制度はたくさんあって、たとえば特定就職困難者なんかも年齢で切っているわけですがこれも年齢による差別なのかとか、言い出したら大変な問題になるわけですが、わかって言ってるのかなあ。そもそもここで年齢差別を持ち出しますかという感もあり、なにもリキんで年齢差別とかいうまでもなく、医療費抑制だけ言っておけばいい話なのですが(高額医療費制度を残したままでどれほどの効果が期待できるかという問題は別途ありますが)。まあ医療費抑制という理屈だけだと高齢者の反発を受ける恐れがあるので、それを緩和しつつ若年層の支持も得られるんじゃないかと安易に考えたのでしょうか。
「40歳になれば期限付きの政治任用スタッフとなるか、民間企業に再就職するか選択を求める」というのも妙な話で、政治が任用するか否かを決めるから政治任用なのであって、選択を求めるようなものではないでしょう。本人が「私は政治任用スタッフを選択します」と言ったら任用するのかしらん。
もちろん現時点ではこの断片的な報道しか情報しかないのでなんとも言えないわけではありますが、しかしなんとなく考えてるなという印象は禁じ得ません。本気でやってるのかねえ。

なでしこ銘柄

本日の日経新聞朝刊から。

 経済産業省東京証券取引所グループは女性が活躍する上場企業10〜20社を選び、来年2月をメドに「なでしこ銘柄」(仮称)として公表する。選んだ銘柄などで構成する株式指数をつくることも検討。個人投資家らの資金を呼び込み、市場を通して女性の社会進出を後押しする。
 経産省東証は、社内での女性の活躍状況を判断する基準を策定。東証1部に上場する約1700社からまず100社程度を選ぶ。この中から東証自己資本利益率(ROE)など財務指標が優れた企業を十数社選んで社名を公表する。
 銘柄の選定では(1)女性の働きを後押ししているか(2)仕事と家庭の両立を支援しているか――などを重視する。具体的には管理職に占める女性の比率が高い企業、育児支援制度があって利用者も多い企業、有給休暇の消化率が高い企業などが選ばれる見通し。

 東証は「なでしこ候補」として選んだ約100銘柄について、過去数年間の株価の動きを指数にし、その指数を公表する。市場平均との比較を明らかにして投資判断に役立ててもらう。将来は日々の株価の動きを指数化し公表することも検討する。指数に連動した投資信託などを開発するのに使うことを想定している。
平成24年10月26日付日本経済新聞朝刊から)

女性活用と企業業績の関係は実証の問題で、現に相関があるという結果も過去多数出ていますし、因果関係を抜きにすれば(女性活用→好業績という因果関係を示す研究も出てきていますが)女性活用している企業は業績もよろしかろうというのは直観的にも納得できるところでしょう。しかも「財務指標が優れた企業を十数社」選ぶということなので、まあ相当に手堅い銘柄が選ばれることになりそうです。まあ選んだはいいが株価は下がりましたということでは目もあてられないので十分に慎重を期したほうがいいと思います。
そこで株価というのは業績も女性活用もさることながらみんなが上がるだろうと思えば上がるわけであり、さてなでしこ銘柄の人気はどうなりましょうか。女性活用に積極的で財務体質がいいと言われるとあの企業この企業と名前がいくつか浮かんでくるわけで、来年2月の公表前にその株を買っておけば次第によっては大儲けもあるかもしれません。いや株価というのは株式分割しただけで何割も上がったりするわけなので(その後その株価がどうなったかは知りませんが)。
むしろ興味深いのは財務指標でスクリーンされる前の100銘柄で構成する株式指数がそう動くかで、これが日経平均とか、あるいは(省略しましたが)記事にある「環境」や「特許」の指数とかと較べて勝てるものかどうか。まあ勝てるだろうと思いますが勝てなかったらシャレにならないとも思います。
それはそれとして、さてこれで本当に女性活用が進んだ会社はそうでない会社に較べて株価が上がりやすいということがわかったとして、それではわが社もと考える経営者はどれほどいるものか。それに対してアナリストがどう評価するのか、考え始めるとあれこれ面白いことが起きそうで楽しみです。

国家公務員希望者全員再雇用「定員の枠内で」

もう一つ本日の日経新聞朝刊から。

 政府が臨時国会に提出する国家公務員法改正案の概要が25日、分かった。希望する定年退職者は原則再任用するが、国家公務員全体の定員の枠内に収める。財政状況が厳しいため、定員を増やすのは難しいとみられ、再任用の希望者が多ければ新規採用の一層の抑制を迫られる可能性もある。
 国家公務員の退職共済年金は2013年度から報酬比例部分の支給を段階的に引き上げ、25年度には65歳となる。13年度以降は60歳で退職すると当初は年金を受け取れなくなる。このため、政府は定年退職する公務員のうち、希望者は原則全員を再任用する基本方針を3月に決定した。
 適正ではないと判断した希望者は再任用する義務がないとしたが、フルタイム(常時)勤務で再任用する場合は定員の範囲内にとどめる方針を盛り込む。「退職者の再任用による定員増は国民の理解が得にくい」(総務省)ため、再任用者数は現行の定員の枠内にする方向で検討する。
 国家公務員の13年度の新規採用者は、民主党政権が発足した09年度に比べ約6割減の3780人。政府内には、若手の採用を抑えて定年退職者の再任用を増やすことを危惧する声もある。
平成24年10月26日付日本経済新聞朝刊から)

個別の使用者レベルで考えれば、退職するはずだった高年齢者を継続雇用すればどこかでその分の人件費を減らさなければならないわけで、いまのわが国の労働市場においてはそれは若年、とりわけ新卒者の採用において減らされることになるであろうということは、官民問わず問わず明らかだということでしょう。
さて2点ほど興味深い点がありまして、まず「適正ではないと判断した希望者は再任用する義務がないとした」というところです。いや先日取り上げたように民間においても心身の故障のため業務に堪えられないまたは勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ない等合理性相当性のある場合は再雇用を要しないという指針の案が示されているわけなので、国家公務員においても同様だということでしょうが、しかしこれは民間に較べて甘く運営しても辛く運営しても文句が出そうだな。ちょっと行政当局が気の毒な感はありますがおそらくは率先垂範して(?)再雇用者に甘い運営になりそうな気がします。となると若年にとってはますます狭き門になりそうです…になりそうなのですが、そこでもう1点、「フルタイム(常時)勤務で再任用する場合は定員の範囲内にとどめる」の出番になるわけです。いやフルタイムなら定員の範囲内ということはパートタイムであれば定員の範囲外ということでしょうから、定年到達者はパートタイムで再雇用して定員外とし、そこで定員をあけて新卒はじめ若年を採用しようという図式なのでしょう。おおっと、これは「高年齢者の雇用と若年の雇用は質的に違うし労働市場全体では雇用が増えるのだから問題ない」というお役所の説明そのままではありませんか。なかなか味なことをお考えになるものだと感心することしきり。
ということで「退職者の再任用による定員増は国民の理解が得にくい」と悪しざまに言われているわからずやの国民のみなさんは、パートタイムで再雇用された国家公務員の処遇に目を光らせることが必要になりそうです。私個人としては、処遇に見合った仕事をしてくれるなら若年のチャンスが失われるよりはずっとマシだとは思います。でもヤッパ公務員は収益とか関係ないから楽だよね。