連合が朝日新聞に抗議

さて大会も終わり期間中の積み残しもほぼ片付いたということでこの間のできごとについて書きたいと思います。本日はまず、御意見照会を頂戴していることもあり、連合が朝日新聞に激おこの件を取り上げます。私としてはかなり珍しいことに(笑)これに関しては連合に相当に同情的なので、なぜ同情的なのか少々書きたいと思います。途中毒を吐きますのでムカつく方もおられると思いますがあらかじめお詫び申し上げておきます。
さて連合のお怒りの筋はこれですね。

連合見解
2018年07月23日

7/21(土) 朝日新聞朝刊9面掲載『「働き方」国会・余録 下』と題する記事について

 7/21(土)朝日新聞朝刊9面掲載の『「働き方」国会・余録 下』と題する記事は、働き方改革関連法案に対する連合の対応に関する内容が記載されているが、その内容は、朝日新聞社が当会へ取材を行ったにもかかわらず、事実と異なる内容が含まれている。
 連合は事実を歪曲した記事に対して、強く抗議する。
https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/article_detail.php?id=993

連合によれば、連合見解は「連合の名前で発表する、連合から社会に向けた最も重要な意志表明」とのことで、実際過去毎年経団連の経労委報告に対する見解が発表されていますがそれだけしかない年もあるくらいの重い位置づけが与えられているようです。ということで今回は相当に強い抗議の意思を示したということでしょう。
問題の記事はこちらです。少し長いのですが全文を引用しましょう。

 「ダメだダメだ!」。6月28日、参院厚生労働委員会。高収入の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度高プロ)を含んだ働き方改革関連法案が採決を迎えると、高プロを「過労死を助長する」と批判して反対してきた石橋通宏氏ら立憲民主党の議員は、声を荒らげた。
 法案は、与党などの賛成多数で可決。続いて乱用対策などを求める付帯決議案を、いま立憲と一緒に法案に反対したばかりの国民民主党小林正夫氏が読み上げ始めた。自民、公明と野党の国民などが採決に備えて事前に調整していたもので、立憲は土壇場で提案者から外されていた。
 石橋、小林両氏とも、労働組合の中央組織・連合の組織内議員だ。本来なら労働政策の審議には一枚岩で対応するはずが、審議の最終局面であらわになったのは「徹底反対の立憲」と、付帯決議に主張を反映させにかかった「現実路線の国民」との亀裂だった。間を取り持つはずの連合が無力だったのは、高プロをめぐり、連合自身が大きく揺れた経緯があったからだ。
 昨年5月下旬、逢見直人事務局長(当時)の呼びかけで千葉県成田市のホテルに幹部十数人が集まり、泊まりがけの役員会が開かれた。用意された議題を終えると、労働法制担当の村上陽子総合労働局長が切り出した。「高プロで、政府と修正協議をしています」
 これまで連合が「過労死を増やす」と反対してきた高プロをめぐる唐突な報告に、「組合員に説明がつかない」と会場は騒然となった。「国会に出されたら修正できない。少しでもましな制度にするためだ」との説明にも、「賛成したと受け取られる」などと反発が続いた。議論は1時間超に及んだが、明確な結論は出ずじまいだった。
 それでも、逢見氏らは水面下で政府と修正協議を続けた。昨年7月13日には神津里季生会長が安倍晋三首相と会談し、高プロ適用者の働き過ぎを防ぐ健康確保措置を手厚くする修正を要求。政府は受け入れる姿勢を示したが、今度は連合の組織内からだけではなく外からも「高プロ容認だ」と批判が噴出した。
 神津会長は「高プロ反対は変わらない」と理解を求めたが反発は収まらず、連合傘下でない労組の関係者や市民らが連合本部を取り囲んでデモをする事態まで起き、反発を受けた連合は翻意。合意は見送られた。
 ところが、右往左往する連合を横目に、政府は試合巧者だった。連合の要求をそのまま採り入れ、高プロを修正。安倍首相や加藤勝信厚労相は国会審議で、幾度となく連合の要求を反映した点を強調し、高プロが連合のお墨付きを得たかのような答弁を繰り返した。自らがブレた連合は、支援する国民民主と立憲民主が袂を分かっても関係を修復できず、野党が高プロ撤回で一枚岩になる環境を生み出せなかった。
 そして、連合がとった「現実路線」は、働き手のことを本気で考えたものだったのか。たとえば高プロの健康確保措置では、連合が修正協議をしたにもかかわらず「臨時の健康診断」という企業の負担が軽い選択肢が残り、「抜け穴」として批判を浴び続けた。修正協議を主導した逢見氏は当時、ある議員に「高めの球は投げず、合意(の落としどころ)を読んで進めた」などと説明したという。
 法成立後、神津会長は朝日新聞のインタビューに応じ、高プロを含む法案への対応をこう振り返った。「いまの一強の政治構造の中、最善は尽くしてきた」
(平成30年7月21日付朝日新聞朝刊から)

えーとウェブで探してみたら有料記事であり(笑)、さすがにカネ払ってまで読む気にもならないので、意見を求めるのであればせめて全文を添付してくれないものかと>ご質問いただいた方。まあ今回は会社の広報部で探して読みましたが、しかし有料部分は手入力したので少々面倒だった(タイポがありましたらご容赦)。
さて私の感想ですが朝日さんがこういう記事を書かれるのは(朝日としてみれば取材に基づいて事実とその論評を述べているということでしょうから)ご自由だと思いますがそりゃ連合は怒るでしょうというのが第一感です。まあ連合も「事実と異なる」「事実を歪曲」というならどこが事実と異なる・事実を歪曲しているのか示してほしいと感じるわけですが、しかしこういう怒り方しかできないかなというのもわかるような気がします。
なぜかというと、もちろん極めてあからさまに連合に対する憎悪と敵意をむきだしにした記事なので怒れば普通の神経ですが、まあその程度のことは連合だって慣れているでしょう。連合がここまで激怒しているのは、この記事に連合組織の分裂という意図を読み取っているからではないかと私は推測します。まあ書き出しから一読して明白ですが立憲民主党に一方的に肩入れする立場で書かれており、その立場から「亀裂」を強調して、高プロ修正協議の話を蒸し返して「間を取り持つはずの連合が無力」「連合は、支援する国民民主と立憲民主が袂を分かっても関係を修復できず」と書き、さらに「連合がとった「現実路線」は、働き手のことを本気で考えたものだったのか」(=連合は国民民主党の立場を取ったがそれは誤り)とまで書かれれば、これはもう当事者にとっては路線転換を求めるというよりは分裂を煽っているように読めるのも無理ないところと思います。
そもそも周知のように連合そのものが「労働戦線統一」とという悲願を実現するために政治的主張が相当に異なる総評と同盟が歩み寄って成立したものなので結成以来内部に路線対立はあり、民主党にまとまっているように見えていた時期でも党内には同様の路線対立があり、かつ社民党を支持している傘下の産別・単組というのもあったわけです。極論すれば放っておけばいつでも空中分解しかねない状態で存続してきているわけで、その運営にあたる歴代執行部の苦心は並々ならないものがあったはずです。今般の経緯についても、記事はどうやら「連合は国民民主党を取って立憲民主党を捨てた」と言いたいようですが(ようですが、なので違うというのであれば朝日の人は怒っていいです。いや実際わら人形を叩いている可能性については自覚しているので)、連合にしてみれば当然ながらそれは違う、という見解だろうと思います(おそらくはここのところが一番連合として事実と異なると主張したいところではなかろうかと推測)。連合の組織内議員の間で路線が対立する(「一枚岩」でない)のはこれまでもいくらでもあったことであり、連合としてはその都度ばらばらにならないようにやってきたのであって今回もそうだ、というところではないでしょうか。記事はこうした「労働戦線が統一されている」ということの価値をまったく無視して内部対立を面白おかしく煽っているようにも読めるわけで(記者に面白おかしくする意図があると言っているわけではない)、それは労働運動のかなり本質的な部分に触れるものであって連合が怒るのも当然だろうと私は思います。繰り返しになりますが連合が怒ろうが怒るまいが朝日がそう書くのは(事実と異なる云々を除けば)ご自由ですが。
したがって以下は余分な話になりますが、しかし朝日の記者さんの思考なのかデスクの趣味なのか知りませんが、連合が分裂することが「働き手のことを本気で考え」ていいことだと思っているのでしょうか。まああれかな、そこまでは考えずに「全部立憲民主党になればいいのだ」という路線転換を望んでおられるのかもしれませんが、まあそれはそれで悪いたあ言いませんが非常に画一的な組織ができることになり自由と多様性が好きな私は好きになれませんというか正直気持ち悪い。そういうのが好きな人には別の労組とか政党とかあるよねえとか。まあこのあたりは余計な話になりますが。
ということでとりあえず連合見解で怒りを表明しておくことは必要だっただろうなとも思います。朝日さんにはだいぶ辛辣なことを書きましたしここまで書くとかなり怒られるのではないかという気もしますし、新聞が取材にもとづいてその政治的見解を踏まえて記事を書くことは当然であって悪いというつもりもないわけですが、こと本件については私は珍しく(笑)連合に同情的であり、どうして同情的かということをつらつらと書きました。あーあと最後に為念もう一点念をおしておきますがこれは高プロ自体への賛否とは全く関係ない話だからな。どうも高プロ裁量労働界隈ではそれへの賛否がすべてになってしまってそれ以上議論にならない人というのがいるのでねえ(安藤至大先生を使用者委員と同じ穴のムジナ扱いする人とかね)。