金融経済の専門家、日本共産党を語る…の続き

きのうの続きです。なにかと面白い論点もあるのですが、二日目ということもあり少し飛ばしていきましょう。まずは外資系投信投資顧問会社企画・営業部門勤務、金井伸郎氏です。設問の「いわゆる派遣切りが相次ぎ」のほうに反応している感じで、日本共産党の政策よりは雇用問題一般に近いところが述べられています。

…ここで雇用問題を議論する上では、2つ重要な点を確認しておく必要があります。
 第一に、これまでの労働条件の規制緩和の導入の経緯からは、少なくとも規制緩和が労働者の利益に寄与したとの積極的な証拠はない、という点です。
 まず、非正規雇用は新たな雇用機会を拡大するよりも、正規雇用を代替する形で導入されてきた経緯があります。…
 加えて、好景気にもかかわらず、給与総額が伸び悩んだことがさまざまな調査や統計などによって示されています。非正規雇用の増加によって低賃金で働く労働者の割合が拡大する一方、それに見合った雇用の拡大は実現せず、総体としての労働者の利益はほとんど増えなかったことを示しているといえます。
 第二に、これまでの労働条件の規制緩和の導入が、企業と労働者間でのアンフェアな取引実態を助長する結果となっているという点です。
 本来、同様な業務に従事するのであれば、雇用の保証条件が低い分だけ非正規雇用者の給与は高いのが経済合理的といえます。(非正規雇用者の雇用契約解消の際のコスト負担が低いため、雇用者はいわばプットオプションの分だけ高い給与を払っても十分合理的。)しかし、実際には、非正規雇用者は、正規雇用者よりも低い給与水準に甘んじています。

「雇用の保証条件が低い分だけ非正規雇用者の給与は高いのが経済合理的」というのはまったくそのとおりなのですが、給与はなにも雇用の保証条件だけで決まるわけではないことは言うまでもありません。ところが、金井氏は雇用の保証条件以外の要素をあっさりと捨象して「しかし、実際には、非正規雇用者は、正規雇用者よりも低い給与水準に甘んじています」と述べています。現実には、正規・非正規の給与水準には雇用の保証条件以外の要素を相当含んでいるだろうことには、程度の相違はかなりありますが、一応の合意はできているはずで、これを無視するのはあまり科学的な態度とは申せないのではないでしょうか。これは日本共産党とは直接関係ありませんが…。
そのほかにも、金井氏は

1月9日に行なわれた笠井議員による代表質問の中継録画を見てみましたが、自民党、特に麻生首相の真摯で誠意のある受け答えが印象的でした。特に、「企業の経済合理的な行動の結果とはいえ、必要以上の雇用調整により景気悪化がより深刻化するなどの影響をもたらしている」との笠井議員の指摘に対しては、麻生首相は「合成の誤謬」(…)の意味を解説しつつ、賛同を示していました。
 また、「大手企業は潤沢な内部留保を活用して雇用を維持すべきではないか」との指摘に対しても、麻生首相は、企業が株式市場の評価やキャッシュ・フローへの影響を通じた資金繰り悪化を過度に懸念している状況を指摘しながらも、金融面での対応も示唆しつつ企業への申し入れを行なっていく意向であるなど、やはり賛同を示していました。
 こうした麻生首相による共産党への丁寧な対応の背景には、派遣労働者の支持を受けた共産党の現在の威光と同時に、選挙を控えた思惑がありそうです。共産党は次回の衆議院選挙では、財政難のため全小選挙区での候補擁立の断念を表明しており、結果として共産党支持票が民主党に流れることを自民党は危惧しているようです。そのため、与党には、供託金制度の緩和によって共産党の候補擁立を促そうとの思惑が指摘されています。

などと書いています。思わず引用が長くなってしまいましたが、それほど味わい深い(笑)書きぶりと申せましょう。「こうした麻生首相による共産党への丁寧な対応の背景には、派遣労働者の支持を受けた共産党の現在の威光と同時に、選挙を控えた思惑がありそうです」「共産党支持票が民主党に流れることを自民党は危惧しているようです」と、ここでは金井氏の論調は政治的背景を意識したものとなっています。残念ながらいずれも日本共産党をまともに(現実的な政権の担い手という意味で)扱ってはいないわけで、やはりイロモノ扱いなのか…という印象です。
次は 経済評論家の津田信氏です。氏は政治の機能不全に現状の責任を帰する立場に立っています。有力なポジションと申せましょう。

 日本共産党が伸びている最大の理由は、日本の政治が機能劣化し、不全状態にあるからだといえます。すなわち、今起きている金融・経済危機において、自民党公明党の与党は、国民の声や期待に応えられなくなってきています。また、民主党社民党などの野党にしても、与党に反対するのみで、国民の声を完全に汲み取れていません。

もっとも、現実の政策にはきわめて批判的です。

…しかし、日本共産党は、現状を批判する政党としては他の野党よりも攻撃的ですが、政策的な面では具体性に欠け、それを実現するための財源も見えないなかで、現状を否定すればうまくいくかのように主張しています。それは、実際に国を統治し、責任政党として政策を立案実施する中国共産党のように現実的な対応とは異なります。そもそも、政治は国民が払う税金をどう配分するかを決める場だと思います。その際公平性や公正性をできるだけ確保すべきですが、そのためにはコストがかかります。その時のコストをどうやって負担し合うかという問題もあります。そういった視点が、日本共産党には薄いように感じます。

さらに、金井氏中長期的なビジョンの不在についても批判しており、日本共産党の政策そのものについてはあまり肯定的ではないようです。結論的に提示された「…過去と同じように批判ばかりして、一時しのぎでかつ長期的な展望がないような政策を示しているだけであれば、いずれ国民の声に応えられず、国民の支持を失うことになりましょう。」との文章は、金井氏の日本共産党に対する評価とスタンスをよく示していると申せましょう。もちろん、それが正しいかどうかはまったく別問題で、これはある程度の長期スパンで評価していくしかなさそうです。
以降も「金融経済の専門家」たちの意見にはそれほど大きな違いは見当たりません。一応注目すべき点として、メリルリンチストラテジストの菊池正俊氏が「大企業といえども赤字が続けば、倒産リスクが高まりますので、雇用のセーフティネットの提供は、企業ではなく政府の役目だと思います」という正論や、慶應義塾大学経済学部准教授の土居丈郎氏の「今般の日本共産党への関心の高まりが、以前に比べてより個人主義的になったと思われる若年労働者が、集団的なものでなく、個々の関心に基づいた動きであったとすれば、それは一過性のブームに終わり、(いずれ訪れるであろう)雇用環境の改善とともに退潮するかもしれません。」といった冷静な指摘が目につきます。まあ、さすがにこのあたりは「金融経済の専門家」であれば当然の考え方なのだろうと思います。
全体を通してみると、きのうのエントリでも書きましたが、「金融経済の専門家」にとっては、普通に考えれば日本共産党はとりあえず最大の論敵であろうと思われるのですが、今回の設問に対する回答は思いのほか紳士的なものです。これが「日本共産党取るに足らず」との(古くからありがちな)発想に立つものなのか、あるいは「日本共産党もそれなりに現実的な路線に舵を切っており、紳士的に対応するに足る」という発想によるものなのか、これはよくわかりません。おそらく複合しているのでしょう。地方自治体レベルでは、かつての対決的な「革新市政」のようなものではなく、日本共産党が現実の政策実現を求めて「相乗り候補」と政策協定を結んで与党入りするといった事例も(多くはなさそうですが)出てきてはいるようです。日本共産党の内部はなかなか見えにくいので、これからどのような方向を指向するのかはわかりにくく、またイデオロギーとその時々の情勢(時に「日和見」などと批判されることもある、らしい?)によってどこまで個別的な対応がとられるのかわかりにくいものがありますが、まあいろいろな向きあい方もあるのでしょう。政策は総合的パッケージとして効果を表すことも多く、なにがどうしてどうなったのか、という検証は難しいのですが、それにしても日本共産党、視野の一角には常に入れておかなければならない存在としてその存在感を示していくことになるのかもしれません。まあ、なかなか読みにくいところではありますが…。
かなり支離滅裂になってきましたが、一応JMMネタはこれで終わりたいと思います。失礼しました。