バスケットボール新リーグ・3

さて昨日の続きでJリーグ年俸制度をみてみましょう。よく知られている話ですがおさらいしますとJリーグの選手にはA・B・Cの3つの契約があり、Aが一般的な契約で年俸に上限も下限もありませんがJ1のクラブで15人以上25人以下と制限されています。これはJ1に参加する以上はそれなりのクオリティの選手を15人は確保してください(したがってJ2なら5人で可とされている)、とはいえ25人を超えて有力選手を囲い込むのはやめてくださいという戦力均衡上の要請と、もうひとつは選手数の増加によるクラブの経営負担増回避という要請とによるものでしょう。それを超えて選手を抱えたいなら最高年俸480万円で下限なしのB契約でお願いしますというわけです。ただJ1でもクラブの標準的なサイズは選手数30そこそこでしょうから、現実には大半はAとCで占められているのではないかと想像されます。J1のチームでB契約が余儀ない選手はJ2のクラブなどにチャンスを求めて転出するのではないでしょうか。
加えて新人から4年めまでの若手を対象とした上限がやはり480万円で下限なしのC契約があり、初めてプロ契約を結ぶ選手は全員これでなければならないとされています。その後出場時間が所定数を超える(か5年めに入る)とA契約を結べるようになるわけですが、1年めについてはA契約に移行しても上限が700万円と決められています。これは要するに各種目共通かつ最大の課題の一つである新人の年俸・契約金の高騰を防ぐことで戦力均衡化とクラブ経営の安定をはかろうという趣旨でしょう。
ということで興業と経営に配慮してよく考えられたしくみだなあとは思うわけですが、しかし最低年俸はないわけなのでバスケットボールの最低年俸1,000万円とは川淵さんよく言うよねえという印象はなくもありません。ただB契約の上限の480万円がA契約の事実上の下限となっている可能性はあり(それを下回るならB契約に移行したほうがA契約の枠を消費しない分クラブにとって有利なはず)、J1のクラブに在籍する選手については少なくとも1クラブ15人は480万円が事実上の最低年俸になっているのではないかとも推測されます。そもそもJ1にふさわしいクオリティを確保するためには最低年俸を定めなければ意味がないわけで、ただ明文化しないほうがいざというときに融通が利く(一時的な経営悪化の際に一部のA契約の選手の年俸を480万円未満にして15人規制をクリアするとか)という話なのかもしれません。このあたりまったくの推測なので、詳しい方にご教示願えれば幸甚です。
さてサッカーには野球のような明示的な一軍登録制度(登録されてない選手は二軍)はないわけですが、ベンチ入り選手は18人までと定められていますので、ベンチ入りする選手がまあ一軍で残りが二軍(ただし登録等は不要で任意に入れ替え可)という話ではあるのでしょう。
その点、これは野球の話のところでも書きましたがバスケットボールには一応二軍はないとはいえそうなので、二軍も含めた最低年俸とは較べられないという話もあるかもしれません。具体的には選手登録15人、ベンチ入り12人と定められている(これはFIBAルールでNBL・bj共通)わけですが現実には各チームとも11〜13人程度しか登録しておらず(サラリーキャップがあるので当然そうなる)、故障などを考えればまあ全員がベンチ入りするのが実態だろうと思うからです。
とはいえベンチ入りメンバー全員に一軍クオリティと1,000万円の最低年俸を要求するというのは育成面での悪影響は強く懸念されるところです(Jリーグでも一軍レベルの新人の年俸上限を700万円に抑制しているわけで)。もちろん新人選手はまずは2部以下のチームに入団し、そこで頭角を現したら1部のチームに移ればいいという考え方もあるかもしれませんが、やはりトップレベルの中に入ることでより速く・大きく伸びるということもあるでしょう。そもそも川淵氏の試案にも「20歳以下の選手を1クオーターに必ず1人起用する」という要件もあげられていて同様の趣旨と思うのですが、しかし20歳で年俸1,000万円のレベルに達している選手というのも相当に例外的ではないかと思います。JリーグのC契約と同様、年齢や経験年数、あるいは公式戦経験などを要件とした育成枠を少なくとも3〜5程度設けることは、クラブ経営と競技力向上を両立するためには不可欠ではないでしょうか(育成枠を抜けた新人の年俸上限については不要との考え方はあるでしょうが)。
なお「20歳で年俸1,000万円のレベルに達している選手というのも相当に例外的」というのは本当で(これは有力選手は高卒ルーキー時からバリバリ主力で活躍する女子とは対照的です…もっとも女子は男子よりさらに低年俸らしいので彼女たちが年俸1,000万円いっているかどうかはまた別問題ですが)、ここ10年くらいに幅を広げても2005-2006シーズンに高卒(盛岡南高)で新人王を獲得した川村卓也選手(現和歌山トライアンズ)しか見当たりません(これまた20歳当時に川村選手の年俸が1,000万円に達していたかどうかは不明ですが)。それ以前となるともう記憶もないわけですがすぐに思い出すのは田臥勇太選手(2000年に20歳)が人気だけでもそれだけの価値があったというくらいでしょうか(選手としてはハワイでくすぶっていた時期ですが)。
ちなみにこうなるのには理由があり、つまり現状オールジャパンで8強入りするようなトップチームの日本人選手はすべて大卒という事情があります。これはボディコンタクトが激しいという競技特性上高卒新人には体格差・体力差が大きすぎて危険(これはラグビーなどにも共通する傾向)だという理由と、バスケットボールは企業チームといえども(事実上の)プロ契約が主流であり、かつ1990年代後半に企業チームが続々と撤退して将来が不安視されていたということで高卒者の受け皿になりにくかったという理由が考えられます。いっぽうで大卒のルーキーは例年それなりに活躍しており、そういう意味では慶応大学時代の竹内公輔選手や東海大学時代の竹内譲次選手などはあるいは20歳時点ですでに年俸1,000万円の水準に達していたのかもしれません。
ということなので川淵氏の私案にある「20歳以下の選手を1クオーターに必ず1人起用する」というのはあまり現実的ではありません。いっぽうで22歳の大卒新人というのはそんな規定を設けなくてもけっこう出場しているので、最低年俸を設けるのであればあわせて一定数の育成枠を設定するくらいで十分かもしれません。どうでしょうか、まったくいいかげんですが、25歳まで下限450万円で3枠、さらに27歳までは下限600万円で2枠、あとは下限1,000万円でMax10人、現実にはまあ7人(合計12人)とすれば下限額の合計が9,950万円なので、外国人やスター選手にはそれなりの年俸を提示しても現行キャップの1億5,000万円でおさめることもできるかもしれません。人数ではなく割合で(4割とか)、という手もありそうです。加えて育成枠を使う選手は川淵氏の私案のように一定の出場義務を課することも考えられそうですがそこまでは現場が対応できないかな。
さてもうひとつ労使関係の話を書きたかったのですが、今日も長くなってきましたのでもう一回だけ続きます。