改正高齢法

参議院で問責決議を可決する前に採決して成立させたわけですから対決法案ではなかったことは明らかで、まあ自民党も直近の選挙公約に掲げていた(http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/doc/j_file2010.doc)わけなので「心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱い」を指針に定めるという修正を入れたことでよしとしたというところでしょうか。
これについてはこのブログで散々書いてきたところですが、そもそも解雇の合理性・相当性判断のようなものは一律にできるものではなく、個々のケースの実情に応じて判断されるべきものと思うところ、それを具体的に法令に書き込むというのはいかにも筋が悪いというか書きようがなかろうと思われ、したがって私としては個別労使による取り決めによることが好ましいと主張してきたわけです。
それでもまあ法案は成立したわけなので指針もしかるべく作成しなければならず、厚労官僚の皆さまにもご苦労なことだなどと思っていたところ、今月はじめには指針の案も私がクビになったところの基本問題部会に提示されました。それによるとこうなっております。

 心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。
 就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として、解雇や退職の規定とは別に、就業規則に定めることもできる。また、当該同一の事由について、継続雇用制度の円滑な実施のため、労使が協定を締結することができる。なお、解雇事由又は退職事由とは異なる運営基準を設けることは改正法の趣旨を没却するおそれがあることに留意する。
 ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002l15q-att/2r9852000002l1b2.pdf

すでに昨年末に開催された一連の基本問題部会の議事録も公開されているようですのでご関心のむきはお読みいただければと思いますが、このブログでも何度か言及したように、「希望者全員の再雇用は定年延長となにが違うのか」というのが私の中心的な関心事項でした。そして、定年延長ではないという以上は、再雇用時に職務や処遇、労働条件などが変更される場合の合理性・相当性判断は、単一労働契約の継続中における労働契約法10条のそれより緩やかで、再雇用されない場合の合理性・相当性判断は同じく労働契約法16条のそれより緩やかでなければならないというのが私の主要な主張だったわけです。これに対する回答は当然ながら「裁判所が判断すること」というものであったわけですが。
そこでこの指針案ですが、「解雇事由又は退職事由とは異なる運営基準を設けることは改正法の趣旨を没却するおそれがある」としたうえで、さらに継続雇用しないことには合理性・相当性が求められると念押ししているわけで、「おそれがある」なので必ず没却するということではないにしても、まあ労契法16条と同じだぞという意思表示とみていいのではないでしょうか。要するに定年前に解雇しても合理性・相当性が認められるような労働者については再雇用せずに定年で円満にお引き取り願うことは可能ですということで、まあ使用者サイドの最悪の懸念だけはクリアするような形で指針をつくることで法案を修正した国会の顔を立てたというところではなかろうかと思います。結局のところ法令で具体的に書こうという発想がやはり筋悪なわけで、書くとしたら現実問題としてこうしかないのかなあという印象です。
いっぽう、職務や処遇、労働条件などの変更については書かれなかったわけですので、こちらは個別・柔軟に判断される可能性は残ったということになるでしょう。というか、労契法16条のほうでは定年延長と変わらないということで指針に書かれたわけなので、その分10条のほうは相当程度幅広く合理性・相当性が認められてしかるべきではないでしょうか。
労使協定については、再雇用に関しては「当該同一の事由について、継続雇用制度の円滑な実施のため」と、いたって制約的な役割しか与えられておらず、はなはだ余計なお世話ながら連合は本当にこれでいいのかという感はあるのですが、たぶん再雇用時の職務や処遇、労働条件などの扱いが、今後各労使間の大きな課題になるでしょうから、そこが各労使の協議に事実上ゆだねられていくのだろうと思います。