得意技

もうひとつ2日の日経から。長妻厚労相が年金担保貸付事業を廃止する方針を固めたそうです。問題があるなら禁止、廃止すれば問題もなくなるという短絡単細胞がまたしても繰り返されようとしています。まあ、事業仕分けでも廃止とされたそうですし、独法のやることはなんでも気に喰わないということなのかもしれませんが、いいかげんこの幼稚な思考様式は改めてほしいものです。

 長妻昭厚生労働相は1日、公的年金を担保に最大で250万円まで前借りできる年金担保貸付事業を廃止する方針を固めた。多額の前借りをした人が年金受給額が減って生活保護に陥るケースが増えているためだ。近く廃止した場合の影響調査を実施する。悪影響が大きいと判断した場合、事業を廃止したうえで代替措置を検討する意向だ。今後、廃止時期などの詳細を詰める。
 同事業の利用件数は年21万件超に上り、合計で約2000億円を融資している。ただ2008年度は5000人近くが借入金の返済期間中に生活保護費を受給。生活保護費が実質的な返済財源に充てられていることが問題になっていた。
 年金を受け取る権利を担保にした融資は禁止されているが、厚労省所管の独立行政法人福祉医療機構だけは例外的に認められている。本来は葬儀費や医療費などの急な出費が必要になった際、民間金融機関の融資を受けられない年金受給者が悪質な貸金業者などから借りる事態を避けるための制度。だが実際は、遊興費や借金返済に充てる例も多いという。
 厚労省内では、同事業を廃止しても、市町村社会福祉協議会を窓口にした「生活福祉資金貸付制度」で代替できるとの意見が多い。政府の行政刷新会議事業仕分けでも年金担保貸付事業は「廃止すべきだ」と判定された。ただ利用者から厚労省に「廃止すべきではない」との意見も数多く寄せられている。
 厚労相は近く、利用者が融資を何に使ったのかなどについて実態調査を実施する。制度廃止の悪影響が大きく、既存の制度では代替できないと判断した場合は、使途や貸付額を限定するなど融資条件を見直した新たな措置も検討する。
(平成22年5月2日付日本経済新聞朝刊から)
http://www.nikkei.com/paper/article/g=9695999693819481E2E3E2E2908DE2E3E2E7E0E2E3E29797EAE2E2E2;b=20100502

だから、これは「本来は」「葬儀費や医療費などの急な出費が必要になった際、民間金融機関の融資を受けられない年金受給者」が受けるべき融資なのです。。問題はそうした本来の利用目的ではなく、「遊興費や借金返済に充てる」人にまで融資してしまっていることにあるわけで、要するに制度の問題ではなく運用の問題です。もちろん、制度自体が不要だとか、運用では対処できない問題が大きいというのであれば廃止すべきでしょうが、運用の問題であるなら運用の改善をはかるべきでしょう。つまり本来の利用目的に合致する人に対してのみ融資がなされるように審査をしっかり行うことが必要なのです。これはそれほど難しい運用ではないでしょうから、まずはそこを徹底すべきと思われます。
にもかかわらず、もしこれを廃止してしまったら、本来利用者として想定されている「葬儀費や医療費」などが必要で、しかし「民間金融機関の融資を受けられない」人が困窮するであろうことは目に見えています。まあ、生活福祉資金貸付制度が大幅に緩和されましたので、記事にもあるようにそれで代替できる部分は小さくないとは思われますが、代替できない部分や併用が必要な場合なども考えられるでしょう。逆に、葬儀費や医療費の必要に迫られて融資を受け、返済期間中に生活保護に追い込まれた人が出たとしても、その人が生活保護を受給することには世間の理解は得られるのではないかと思います。
まあ、これはまずは実態調査を行うとのことですので、結果的に本当に不要だということであれば廃止すればいいわけですが、問題があるから即廃止という考え方はやはりまずかろうと思うわけで、予断を持たずに検討してほしいものです。