耕論続き

きのうの続きで、hamachan先生の談話です。これは、先生のブログにアップされていますのでさっそくコピペします。

 日本でのワークシェアリングをめぐる議論には、奇妙な特徴がある。世界的にワークシェアリングの標準とされているのは雇用創出型だ。ところが、02年に日本でワークシェアリングの導入が検討された時、緊急避難型と多様就業型のみが具体的な政策課題とされ、雇用創出型は、労使双方の発想になかった。
 企業単位の緊急避難型ワークシェアリングは、日本では以前から行われていた。70年代の石油ショックの際には、正社員の雇用を守るために、操業時間の短縮や子会社への出向が行われた。その意味では、別に新しいものではない。緊急避難型は日本で定着しなかったのではなく、もともと定着していたものが、景気が良くなったために必要がなくなったにすぎない。
 多様就業型については、オランダがモデルだと言いながら、それはうわべだけで、実はパートタイマーを増やして、労働力を安上がりにしようという側面もあったのではないか。その結果、皮肉なことに、派遣やフルタイムの有期雇用がどんどん増え、今回の派遣切りや雇い止めにつながった。
 今回のワークシェアリングの議論でも、やはり緊急避難型と多様就業型が中心であることに変わりはない。ただ、緊急避難型については、02年とは状況が大きく変わった。非正規労働者が大幅に増えた結果、緊急避難型ワークシェアリングの対象が正社員だけでいいのか、非正規も含めるべきではないかという議論が提起されざるをえないし、実際に提起されている。
 もちろん、ワークシェアリングで非正規を全部守るのは、現実には難しい。だが、企業の労使も、従来の考え方にとらわれず、非正規も含めてどこまでワークシェアリングが可能かということを議論してはどうか。非正規にも、家計補助的な働き方の人もいれば、それで生計を立てている人もいる。そこまで細かく見て、切られたら困る人たちについては、対象に入れることを検討していいと思う。
 多様就業型については、雇用形態の多様化そのものを後戻りさせることはできない。ただ、経済社会がそういう働き方を求め、それを認めざるをえないのであれば、セーフティーネットをきちんと張り巡らしておくべきだ。雇用が不安定である上に、賃金が安く、労働条件が悪いというのは明らかにおかしい。非正規の人たちが、社会的に不利益を被らない仕組みを作る必要がある。02年に鳴り物入りで打ち出されながら、尻すぼみに終わってしまった多様就業型ワークシェアリングにあらためて魂を入れるには、待遇の改善とセーフティーネットが2本の柱になる。
 非正規を含めたワークシェアリングを、日本ですぐに実現するのは難しいかもしれない。だが、いま日本の労働者や社会は、連帯や仲間意識といったものを再定義する必要があるのではないか。同じ職場で働く非正規労働者も仲間だという意識を正社員の側が持ち、待遇改善に取り組んでいく。そのための第一歩として、ワークシェアリングの議論は意味があると思う。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-1392.html

さて冒頭の歴史的記述はそのとおりとして、

 多様就業型については、オランダがモデルだと言いながら、それはうわべだけで、実はパートタイマーを増やして、労働力を安上がりにしようという側面もあったのではないか。その結果、皮肉なことに、派遣やフルタイムの有期雇用がどんどん増え、今回の派遣切りや雇い止めにつながった。

というのはたしかに「皮肉な」ご発言です。当時、オランダ・モデルとかポルダー・モデルとかいうのが流行したのは事実ですし、参考にもされたでしょうが、それでは多様就業型のモデルがオランダかといえばそうではないでしょう。
当時の厳しい雇用失業情勢の中で、これから雇用を増やしていくには多様化を進めることが不可欠であり、働く人のニーズにも合致したものとすることで労使ともにメリットがある、という認識があり、そのもとに「派遣やフルタイムの有期雇用がどんどん増え」たわけです。ですから、これは別段「皮肉なこと」でもなく、また今回の雇用調整期において、派遣契約や雇用契約の満了にともなう雇い止めが起きたのも自然の成り行きと申せましょう。ただ、今回の景気後退があまりに急速だったため、雇い止めも急激だったことは問題を大きくしたことも間違いありませんが、こうした事態が起こったこと自体が、「労働力を安上がりにしようと」したのではなく(もちろん多少はそれもあったでしょうが)、柔軟性確保が主目的であったことを裏付けていると申せましょう。
さて、

 もちろん、ワークシェアリングで非正規を全部守るのは、現実には難しい。だが、企業の労使も、従来の考え方にとらわれず、非正規も含めてどこまでワークシェアリングが可能かということを議論してはどうか。非正規にも、家計補助的な働き方の人もいれば、それで生計を立てている人もいる。そこまで細かく見て、切られたら困る人たちについては、対象に入れることを検討していいと思う。

というのは、笹森氏に較べるとかなり現実的なご提案です。おそらく、労組が求めれば応じる経営者もいるでしょう。もっとも、正社員だけのワークシェアリングであっても、いざ自分たちの賃金が削られるとなると「どうして我々の賃金を削るのか、あそこに働いてない奴がいるではないか」という声に押されて希望退職を選択する労組も多いわけで、ここはまさに先生ご指摘のとおり「同じ職場で働く非正規労働者も仲間だという意識を正社員の側が」相当強く持たなければ難しいところかもしれません。とはいえ、長年苦楽をともにしてきた正社員同士と、あくまで有期雇用で、期限付きとわかった上で入ってきた非正社員とでは、「仲間」であるという意識は持てるとしても、その強さには違いが出てくるのもまた人情であろうと思いますが…。あくまでこれは労働者、労働組合の問題ですが、多くの人にとってはあまり不自然な仲間意識をかつぎ出すよりは「本当に困っている人には、行政がしかるべく支援を行う」という安心感を共有できるほうが幸福なのではないかと思うのですが、そうでもないでしょうか。