連合会長、意気込みを語る

きのうのエントリで紹介したasahi.comの連合高木会長のインタビュー記事ですが、なかなか興味深い内容を含んでいます。記事にいわく、「世界的な不況を背景に、非正社員らを解雇する動きが止まらない。近年にない厳しい状況のなかで、働く人の雇用や暮らしを守るため、連合(組合員数675万人)は来春闘をどう戦うのか。高木剛会長に聞いた。」ということです。「働けど貧困」という特集の一部のようなのでその方向のバイアスがかかっている可能性はありますが、労組にとって困難な状況にあって大いに意気込みを語っていて力強いものがあります。

――非正規労働者の大量解雇に歯止めがかかりません。

 あってはならんことだ。一番頭に来ているのは、トヨタ自動車キヤノンなど、中小に比べて体力のある大企業が、次々と非正規の人たちを大量に減らしていることだ。満期を待たずに中途解約する例も多い。数カ月の雇用すら継続できないほど、切迫しているのか。御手洗冨士夫日本経団連会長は会見で「苦渋の選択」と言ったが、「苦渋」の中身が全く伝わってこない。
 仕事がないのに雇い続けろとまでは言わないが、在庫を持たないのと同じ感覚で人を安易に解雇していいのか。雇用全体の議論をしようと、2カ月以上前から経団連に申し入れている。「アメリカのせい」「あとは政府よろしく」じゃ許されない。
http://www.asahi.com/special/08016/TKY200812130243.html、以下同じ)

これはたぶん記者の問題だろうと思いますが、若干議論が混乱しています。高木会長の憤りはおそらく二つあって、ひとつは「大企業が、次々と非正規の人たちを大量に減らしていること」で、これはおそらく契約期間満了のときに更新・延長せずに雇い止めしていることへの憤りでしょう(中には中途解約もあるでしょうが)。もうひとつは「満期を待たずに中途解約する」ことで、これはおそらく中小・大企業問わずに憤りの対象となっているのではないかと思います。
第一の憤りについては、どこまで非正規を維持しなければならないのか、というのが問題になります。「体力がある」というわけですが、たとえば赤字になっていない、利益が出ているのであれば非正規を期間満了で雇い止めするのはけしからん、ということなのか、それとも赤字が続いて内部留保が底をつくまで雇い止めまかりならん、ということなのか。
あるいは、その職場でまだ残業をしている、あるいは年次有給休暇の使い残しがある、だったらまだ雇い止めまでしなくてもいいじゃないか、というレベルなのか。高木会長は「仕事がないのに雇い続けろとまでは言わない」とも言っているので、このくらいのお考えなのかもしれません。
現実には、企業に対しては、利益が出ていても余剰人員が存在するなら、人員削減してさらに利益を出せ、配当を増やせという要求をする人たちもいます。企業自身にもそれなりに利益を出さなければ運転資金の融資が受けられないとか、内部留保から老朽更新投資をしなければ企業が存続できない、とかいった事情もあるでしょう。このあたり、個別企業の経営者はかなりシビアな判断を迫られているはずで、「苦渋の選択」というのが大方の実態ではないでしょうか。
もちろん、連合会長としては、苦渋の選択だったらそれでけっこうだ、と言えないのは当然ですし、もう少し利益を削ってでも非正規も含めて雇用を守ってくれ、と言うのもまた当然です。ナショナルセンターレベルではそういうことでも、「現実にどっぷりつかった単組」レベルではしっかりと話し合って対応していくことが大切でしょう。
第二の憤りにはまことにもっともなものがあります。たしかに、期限を切ってそれまで雇用すると約束した以上は、それを途中で解約するのは「在庫を持たないのと同じ感覚で人を安易に解雇して」いると批判されても仕方ないでしょう。少なくとも、すでに出ている利益をさらに増やすためにこうした挙におよぶ企業は、社会的に指弾を受けても当然だと私は思います。
なお、「アメリカのせい」「あとは政府よろしく」じゃ許されない、ということですが、「アメリカのせい」はかなりの程度事実ですし、民間の力が不足しているときこそ政府の出番だというのも普通の考え方でしょう。まあ、企業にもまだ努力不足の部分がある、特に連合の立場からみればそれが大きい、ということでこうしたネガティブな表現の発言になっているのでしょうが…。

――非正規労働者はどう身を守ればいいのでしょうか?

 非正規の人に対しても、経営者が解雇回避の努力を尽くしたかどうかなど、正社員と同様な整理解雇の原則が適用されるべきだ。ただ、非正規の人たちに自分でそれを交渉せよというのは酷だ。企業の労働組合がそれは言っていかねばならない。自分たちが切られる立場になった時にも同じ武器で闘うのだから。

ここがきのうご紹介した部分なのですが、「非正規の人に対しても、経営者が解雇回避の努力を尽くしたかどうかなど、正社員と同様な整理解雇の原則が適用されるべきだ」というのが、期間途中での解雇を指しているのか、期間満了にともなう雇い止めまで含んでいるのかがはっきりしません。まあ、前からの流れからすれば期間途中での解雇でしょうか?だとしても、ことはそれほど簡単ではありません。たとえば、解雇回避努力の定番として「希望退職の募集」というのがあるのですが(というか、これを前置しなければ整理解雇が認められる可能性はかなり低下すると考えたほうがいいようです)、非正規の期間途中の解雇を行うためには正社員まで含めて希望退職募集を行わなければならないのか、というのはかなり悩ましい問題になりそうです。まあ、「原則が適用されるべきだ」というのですから、適用の度合は正規より非正規のほうがゆるやかでもよい、というバランス感覚なのかもしれません。
また、きのうも書いたとおり、非正規の雇い止めまで抑止しようとすると、正社員の労働条件や雇用とのトレードオフがどうしても出てきます。連合はともかく、「現実にどっぷりつかった単組」には非常に難しい課題となるでしょう。

――派遣法などの規制緩和を許し、不安定雇用を増やした責任は連合にもあるのでは?

 規制緩和を止められなかったという批判は受けざるを得ない。不安定雇用の人を最小限に抑えねばならないという雇用の原則を、強く主張し続けられなかったことについては、ざんげしたい。ただ、製造業派遣を認めて派遣労働が急激に広がったころから、派遣法は「希代の悪法」になりかねないと、法改正を主張してきた。ようやくそれが実を結ぼうという矢先に、雇用危機が来てしまった。

実際、数ヶ月前までは派遣の「2009年問題」として、派遣の規制緩和から3年を経過して上限に達する派遣労働者が多数出るのでその穴埋め(言葉は悪いですが)をどうしようか、という議論をしていたのに、今となってはその派遣労働者が来年期間満了で雇い止めになるので、その雇用対策をどうするか、という議論をしなければならない状況になってしまいました。これはおそらく、連合としてもかなりつらい状況だろうと思います。もちろん、連合の建前としてはこうした受け答えにしかなりようがないのでしょうが、現場の派遣労働者の実態はといえば、これまでどおりの派遣でいいからもっと働き続けたい、というのが大方の本音でしょう。連合がこれまで「不安定雇用の人を最小限に抑えねばならない」と主張したのに対し、規制緩和論者たちは「そんなことを言ってたら結局雇用が減るだけですよ」と反論していました。まさにこの反論が的中していたということを、今まざまざと見せつけられているわけで、それは決してハッピーなことではありませんが、しかしあるものをないと言ってみてもはじまりません。連合ははたしてこういう繰り言を述べているだけでいいのでしょうか?私は連合も今は目をつぶって、派遣法を「改悪」してでも一人でも多くの派遣労働者が就労を継続できるようにしていくことに取り組む必要があるのではないかと思っているのですが、まあ無理な話というものなのでしょうが…。

――政府の雇用対策をどう評価しますか。

 雇用促進住宅の利用や、生活資金貸し付けなど、連合として要求したことはほぼ実現にこぎつけた。迅速に対応してもらいたい。ただ、今回の対策は、すりむいた後のばんそうこう。政府が企業に雇用調整を慎重にするよう申し入れても、残念ながら経営側に対して大きな影響力は発揮出来ていない。

政府が企業に対して雇用確保を求めるのもこれまた当然で、そのために雇用調整助成金制度のような政策努力も行われています。派遣を正規雇用すれば100万円、などのような効果が疑わしいアイデアもあるようですが…。いずれにしても「申し入れる」だけでは影響力が限られるのは当然のことで、大きな影響力を発揮できるような裏づけのある雇用対策とはどういうものか、ということがポイントでしょう。とりあえず新しい道路をジャンジャン作ることにすれば建設業者などにはかなり大きな影響力を発揮できるでしょうが、それがいいかといえばなかなかそうもいかないわけで…。投資、特に研究開発投資を促進するような対策を求める意見も多いですが、こちらは即効性という面で難がありそうです。どうして、簡単な問題ではなく、私も特段のアイデアはありません。なお「雇用促進住宅の利用や、生活資金貸し付けなど」はたしかに有意義と思われ、「連合として要求したことはほぼ実現にこぎつけた」のはまことにご同慶です。

――09年春闘方針で8年ぶりにベースアップ要求を盛り込みました。

 ベア要求の理由は、物価が上がったから。給料の目減り分を補うのは当然だ。今はベアを求める必然性の高い社会状況、経済状況ということだ。
 経営側は「賃上げよりも雇用安定を」と主張しているが、賃上げしないと需要は戻らず、操業率も上がらないし、雇用は減る。それに対するきちんとした反論は聞いたことがない。「賃上げも雇用も」が当然で、優先順位はつかない。

まあ、労組としては経済状況にかかわらず実質賃金の確保は譲れない一線というか、少なくとも要求段階からここを降りることはたしかにできないでしょう。
賃上げしないと需要は戻らず云々とか、「賃上げも雇用も」とかいうのは永年の水掛け論ですが、結局は経団連が賃金と雇用にトレードオフがあるという一般的な経済学の考え方をとっているのに対し、連合は「賃上げして内需主導の景気拡大」を重視しているという違いが大きく、どちらの理屈にも一理あるだけに議論がまとまりにくいところです。ただ、生産性向上をともなわない賃金引き上げは価格転嫁されることで実質賃金上昇につながらない危険性があることには注意が必要だと思いますが、これまた古くから言い尽くされたことではありますが…。

 ――各単組や産別労組には「ベア要求は厳しい」という声もあります。

 だから一生懸命に旗を振る。色々なところで経営側と接しているから冷まされている部分はある。ベアの必要性は我々が言い、産別が言い、単組がみんなに言わないといけない。回れというなら、全単組を回ってもいい。

 ――産別がまとまり闘争態勢をつくる五つの「共闘連絡会議」を立ち上げました。

 お互いを支え合うような関係になるには時間がかかるだろう。ただ、経営者は同じ業界内のことはとても気にしている。だから、お互いに「こっちは10という回答が出てくるまで頑張るから、そっちもそこまで頑張ってくれ」と下相談して交渉すると、だいぶ違う。

おや、これはきのうのエントリでご紹介したhamachan先生のご意見とも通じる考え方ですね。「現実に足がついていない空論をナショナルセンターで出すけれども、現実にどっぷりつかった単組では全然読まれないという事態に陥りがちで、そこで産別や地域組織の意義があると思うのです。」を地で行った取り組み…とまではいかないかもしれませんが、かなり共通したところはありそうです。

――労使協調路線の浸透で本当の意味で闘えるのでしょうか。

 今は経営側に「色々言っているが、突っぱねていれば息切れして妥結する」と高をくくられている。正社員がそこまで追い込まれていないのか、論理的にも経営側に飼いならされたのか。嫌がることもやらないのに組合の主張をのませることはできない。

――経営側への「拮抗力」を取り戻すには。

 要は会社が嫌がることをできるかどうかということ。例えば忙しい時、納期が迫っている時に残業を拒否したら会社には効く。

まあそれはそうでしょうが…このご時世、「忙しい」「納期が迫っている」などという幸せな企業がどれほどあるのか…もっとも、そういう幸せな企業は可能な範囲で大いに賃上げすればいいわけで、これはたしか経団連もそういう主張をしているという報道があったと思います。
いっぽうで、経営者が資金繰りに奔走していて、残業してこの注文を納期までに入れれば一息つける、というときに、「嫌がる」から残業拒否しろ、といわれたら従業員だって困るでしょう。これこそ「現実に足がついていない空論をナショナルセンターで出すけれども、現実にどっぷりつかった単組では全然読まれないという事態」の最たるものかもしれません。でも、UAWというのは今それに近いことをしてるんですよねえ。支部レベルではどう思っているのでしょうか?わが国では、連合が賃上げ要求しろといえば多くの産別・単組も右にならえで要求は掲げるでしょう。しかし、連合がそうしろというから企業が「嫌がる」ことをやろうか、とまで思う単組がたくさんあるとはちょっと思えないのですが…。残業拒否もストライキも必要に応じて採用すべき戦術でしょうが、好況期に「もっと」というときには効果的でも、現下のような情勢下では副作用のほうが大きいのではないでしょうか。まあ、余計なお世話ではありますが…。
いずれにしても、労組にとって困難な状況は、また労組の力が求められる時期でもあるでしょう。文中にもあるとおり、こういう時期こそナショナルセンターとしては極論・空論と知りつつも「旗を振る」ことがその重要な役割のひとつでありましょう。最終的には個別労使で十分な話し合いが行われ、誤りのない結論を導くことが最重要なのだろうとは思いますが、産別・地方の各組織を通じた連合のナショナルセンターとしての指導力がどこまで発揮されるのか、期待したいところではあります。