日雇派遣禁止で困る労働者

 派遣法改正もこの政局でどうなることやらと思っておりましたが、自民党の一部に、どうせ負けるにしても、やはり負け戦は少しでも先に延ばしたいという意見が出てきたようで、案外当初の目論見どおりこの臨時国会でやれるかもしれません。まあ、負け戦というのは延ばせば延ばすほど大きく負けるとしたものでしょうが、それでも一縷の望みに賭けて傷口を拡げてしまうのが人情というものなのでしょう。
 それはそれとして、このブログでもたびたび書いてきましたが、日雇派遣にいろいろと問題があるのは事実としても、一律に禁止してしまうと便利に使っていた人たちに不便を強いることになってしまいますよ、という話が今週月曜日の日経新聞に掲載されていましたので取り上げてみます。

日雇い派遣は「ワーキングプアを生む原因」と指摘され、厚生労働省の審議会はこのほど「三十日以内の日雇い派遣を原則禁止すべき」との報告書をまとめた。低賃金で不安定な雇用を強いられる労働者の保護が狙いだが、働く現場は急激な環境変化にとまどっている。
 「自由が効く、すぐにお金がもらえる、煩わしくない、いろんな仕事が経験できる」。軽作業を扱う派遣会社三社に登録し、一時期、日雇い派遣だけで生計を立てていた都内在住の小野大さん(25)は、「日雇い」のメリットを列挙する。
 小野さんは秋田県の高校を卒業後、上京して都内の印刷会社に就職、正社員の作業員として五年間働いた。だがファイナンシャルプランナーを目指して〇七年夏に退社。資格を取るため専門学校に通い始めた。
 資格試験までの十カ月、専門学校の学費を払いながら生活するために利用したのが日雇い派遣。倉庫内での仕分け、模擬試験の試験官、居酒屋の洗い場。勉強の合間を縫って、こまめに稼いで食いつないだ。「貯金だけではとても生活できなかったので助かった」
 日雇い派遣は派遣会社に一度登録すれば、次々に携帯電話のメールで仕事情報が送られてくる。好きなときに好きな仕事を選び、嫌なら一日で辞められる。アルバイトではこうはいかない。
 日雇い派遣とアルバイト。なじみの薄い人には区別しにくいが、働く側から見ると大きく違う。日雇い派遣の職探しは携帯電話で派遣会社からの送信を待つだけ。アルバイトは職場に出向いて面接を受け、採用されないと仕事に就けない。

 東京都中野区に住む宮沢裕美さん(47)はガラス造形作家。ガラス細工の作製と展示会準備にいそしむ傍ら、日雇いなど短期派遣で生計を立てている。創作や展示会の空き時間に「日雇い」で稼ぐ。宮沢さんにとっては面接がないのも「時間のロスがなくて魅力的」だ。日雇い派遣が禁止になると「とても不便」と顔を曇らせる。
 子育ての合間を使う主婦や、休日の副業にあてるサラリーマンなどにとっても「日雇い」は便利な働き方として定着している。「日雇い禁止」は彼らから稼ぐ手段を奪うことにもなりかねない。
…日雇いが禁止された後、これまで日雇い派遣で働いてきた人々の雇用機会が保たれる保証はない。「しゃくし定規に禁止されたら、ワーキングプアがただのプアになってしまう」(小野さん)。弱者保護の規制が弱者を圧迫する恐れもある。
(平成20年9月29日付日本経済新聞朝刊から)

実際、伝え聞くところによりますと、厚生労働省では日雇派遣禁止後に従来それで働いていた人が失業するのに備えて、彼ら・彼女らを対象とした雇用対策の必要性について議論しているのだとか(ウラを取ったわけではないので自信なし)。なんか、おかしな話ですね。
日雇派遣の禁止については、政治サイドではそうすればあたかも日雇派遣のような不安定で低処遇な働き方がなくなり、その人たちが安定的で好条件な職につけるようになるかのような言い方がされていたと記憶します。もちろん、そんなことはないわけで、実際、鎌田耕一先生が座長を務められた厚生労働省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書では、当然といえば当然なのですが、日雇派遣を禁止すれば雇用が安定するなどということは一言も書かれていません。むしろ、マッチングの手法を制限するわけですから、それによって失業が増えると考えるのが自然でしょう(まあ、あまりに不安定・低処遇な仕事には、マッチングさせずに失業させておいたほうがマシだという考え方もあるでしょうが)。派遣法改正の建議は出てしまいましたが、改めて考え直したほうが…という印象は禁じ得ません。