坂東眞理子『女性の品格』

すでに昨年末の「今年の10冊」で取り上げた本ですが、「キャリアデザインマガジン」第60号のために新たに書評を書きましたので転載します。

女性の品格 (PHP新書)

女性の品格 (PHP新書)

売れているらしいです、この本。出てすぐに読んで、いい本だとは思ったのですが、まさかこれほど売れるとは思いもよらず。「女性の生き方」指南の本はたくさんあるのではないかと思うのですが、その道の専門家(?)ではなく、行政官が書いた本がそうも売れるというのも不思議な感じです。
以下転載です。
 昨年10月に出版された本だが、ここ2〜3ヶ月くらい、とみに書店で平積みされているのが目立つようになってきた感じがする。それもそのはず、先週みかけたこの本のオビには「55万冊突破」と大きく書かれていた。特段なにかのきっかけがあったというわけでもなく、さまざまな媒体の書評で取り上げられ、静かに売上を伸ばしているらしい。実際、いい本だと思う。「女性がいかに生きるか」はすなわち女性のキャリアデザインであるから、これはキャリアデザインの優れた指南書ということにもなる。
 著者は東大卒のキャリア官僚であり、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事(これは初の女性総領事であるという)などを歴任し、内閣府男女共同参画局長として行政の男女共同参画の責任者を務めた人である。そうした著者が説く「女性はいかに生きるか」は、単純なジェンダーフリージェンダーイコールを叫ぶものではない。変わりつつあるとはいえ、まだまだ旧弊なジェンダー意識が根強く残存する日本社会の現実を踏まえたうえで、しかし伝統的な女性らしさに回帰するのではなく、今日的な「よき女性らしさ」を提示しようとしている。この内容を女性がどう読むのかは男性である評者には当然ながら理解の及ぶところではないし、読む人の読み方によっても異なってくるだろう。とはいえ、これだけのキャリアを積んできた著者が、自分自身の反省も率直に述べながら、副題にもあるように「装いから生き方まで」、服装や話し方、マナーといった身近なものから、恋愛や人生に至るまで、ビジネス・私生活の両面で具体的かつわかりやすく語りかけているところに、おそらくは類書にはない魅力、説得力があるのだろうという推測は十分にできる。
 いっぽうで、男性にとっては、当然ながらビジネスマナーや服装などについては共通するものがあって、それだけでも役立つ本ではあるのだが、それだけではない。世の中で活躍している女性が男性をどう見ているのか、男性である自分の言動が女性からはどのように見えているのか、ということが一目瞭然にわかるという点で、まことに手厳しくも勉強になる本である。正直に白状して、評者も一読して反省しきりだった。55万部のうち男性読者がどのくらいを占めているのかはわからないが、もともと男性向けのメディアとされる新書であるだけに、男性読者もかなりいるのかもしれない。実際、男性が手にとってみて決して損はない本だし、むしろ積極的におすすめしたい本である。平易で達意の文章はたいへん読みやすく、通勤電車の中などでもどんどん読み進められるから、男性諸氏にもぜひカバーをかけて(笑)読んでみてほしいと思う。それが男女共同参画社会に向けての一歩である、といっても必ずしも大げさだとばかりもいえないのではないか。