ここがおかしい日本の雇用制度(3)

一日飛びましたが、今日からまた、週刊エコノミストの特集「ここがおかしい日本の雇用制度」を取り上げます。続く論考は水野谷武志北海学園大学経済学部准教授による「圧倒的に長い日本男性の労働時間」です。

 先進国のなかで、日本人の労働時間は飛び抜けて長い。これを国際比較統計で明らかにしてみたい。
 比較する前に、どのような統計が必要なのか簡単に説明しなければならない。日本の実態に即して比較する方法に配慮しなければ、日本の特徴がぼやけてしまうからである。
 それは第1に、労働時間の属性(誰の労働時間なのか)を可能な限り特定した統計で比較することである。その際に基本となる属性は性と雇用形態である。正社員と近年増加する非正規雇用との間における労働条件は大きく異なるので、この2つは分けて比較すべきだ。さらに日本では、長時間働く傾向にある正社員の圧倒的多数を男性が、短時間労働の多い非正社員の圧倒的多数を女性が占めるので、雇用形態に加えて性の区分も欠かせない。
 第2に、日本で社会問題化している不払い残業サービス残業)時間を取り込むために統計の調査方法に注目し、そしてできるだけ同一の調査方法による統計で比較することである。労働者が不払い残業時間も含めて実際に働いた時間(実労働時間)を把握するためには、企業に回答を求める調査(事業所調査)よりも、働いている本人が直接回答する形式の調査(世帯調査)が適している。幸い、労働時間を含む就業状態全般について調査する「労働力調査」が先進国では広く実施されており、その統計が利用可能である。
…フルタイム雇用者の週実労働時間についてみると、日本の男性と女性の労働時間が他国に比べて圧倒的に長いことがわかる。しかも男女の労働時間差が一番大きいのもまた日本である。逆に、労働時間が短く男女差も小さい国は北欧地域に多い。これは北欧において男女共同参画社会がより高いレベルで実現されていることと無関係ではないだろう。
 次に、パートタイム雇用者をみると、ここでも日本の男性と女性が他国に比べて突出して長く、男女差も大きい。日本のパートタイム労働者のうち、正社員並みの仕事や労働時間をこなす、いわゆる「フルタイム・パート」労働者がかなり存在することは以前から指摘されていたことであり、国際比較によってこの日本の特殊性が際立っているのである。
…日本と欧州との労働時間格差は1980年以降、縮まることなく現在に至っている。日本の長時間労働が改善されない主な理由を欧州と比較して考えると、労働時間関連法規制の弱さ、労働組合組織率の低さ、男女平等・共同参画の遅れなどが指摘できるだろう。
 国際比較統計には各国の調査方法等の違いが持ち込まれているので、厳密な比較ではない点に注意を要するが、それを割り引いて考えてもなお、日本における長時間労働の現状を改めて、そして強く指摘せざるを得ず、特に男性正社員は大変に長い。

水野谷氏の文章は事実の紹介に大半が割かれていますが、労働時間の国際比較を考えるときには、労働時間以外の時間がどう過ごされているのかも考慮する必要でしょう。
たとえば、海外では学校放課後の子女の教育を両親が行っているのに対し、日本では両親が費用を支払って学習塾に通わせているとか、あるいは欧州では自宅のメンテナンス(外壁の再塗装とか)を自分で実施することが珍しくないのといわれるのに対して日本では料金を支払って業者に外注するとかいった違いです。働いて稼いでサービスを買うか、自前でやるのか、トータルすればおそらく似たようなものだと思うのですが、自前でやった時間は(おそらく)労働時間にはカウントされないのでしょうから、労働時間は前者のほうが長くなります。
あるいは、日本では24時間営業のコンビニエンスストアに容易にアクセスできますが、海外ではそうではない、といったこともあります。労働者が長時間労働をやめれば消費者の生活のクオリティは下がらざるを得ないということにも、政策を考える際には注意が必要でしょう。