増加する資本家への配分

きのうの日経新聞で報じられていました。

 上場企業が株主への利益配分を強化している。配当金と一株利益の増加につながる自社株買いを合計した金額は、二〇〇六年度に十三兆三千億円程度と前年度比二三%増え過去最高となる見通しだ。企業収益の拡大が続くなか、純利益の半分相当を株主へ返すことになる。本格的なM&A(企業の合併・買収)時代を迎え、株主配分を増やし、市場での評価を高めることで買収の標的となるリスクを軽減する狙いもある。
(平成19年3月19日付日本経済新聞朝刊から)

この記事を見ると、先週木曜のエントリでご紹介したように、「連合は、労働分配率の復元や付加価値配分構造の歪みの是正を強く求め、政府や国民が、連合の考え方を肯定し、家計への配分を求めたにも拘わらず、国際競争力論や横並び論にこだわり、組合側の控え目な要求に充分応えなかった一部の経営側の対応ぶりは残念でならない」という発言が連合会長から出てくるのもむべなるかな、とも思えなくもありません。
とはいえ、「配当を減らして賃上げせよ」と簡単に言えるかといえば、必ずしもそうではありません。たとえば、配当は赤字決算にでもなればゼロになるわけで、株主の負担するリスクは従業員とは較べ物にならない(これとは別に、株価自体が下落するリスクもありますし)ことは認めざるを得ません。たしかに、労働条件の中でも、業績に応じて変動する賞与の割合が高まってはいるでしょうが、いかに業績が悪くなっても賞与がゼロというのはよほどの例外でしょう(もちろん、りそな銀行のようなことが起きることもあるわけですが)。まして賃金がゼロになるというのは(倒産寸前の遅配とかを除けば)まずはありえない話ですし、ベース賃金が下がることだってめったにあることではないでしょう。
あるいは、よく指摘される話ですが、「配当による運用益が将来の年金の原資となり、いずれ労働者に還元される」というメカニズムも存在することは否定できません。まあ、それがいかほどの額、割合かという問題は大きいので、それほど強く主張できる理屈ではないとも思いますが。
また、「買収の標的となるリスクを軽減する」というのも、経営者の保身がすべてかといえば決してそんなことはありません(まあ、人によっては経営者自身は自分の保身しか考えていないかもしれませんが)。現実に企業が買収された場合、雇用や労働条件にも影響が及ぶことは十分に想像できます。多くの場合は、リストラで従業員が痛みを受けることになるでしょう。経営の安定は従業員にとっても望ましいことが多いことには注意すべきだと思われます(もちろん、中には無能な経営者が退陣して経営が好転することもあるかもしれませんが)。
いずれにしても、現状が歪んでいるかどうかはともかく、株主とそれ以外の関係者との利益配分のバランスが良好であることが望ましいことは間違いないでしょう。そこで労組が株主への配分を減らしてその分を従業員に配分させたいのであれば、それなりに作戦を考える必要がありそうです。政府や国民が家計への配分を望むのはある意味あたりまえのことなので、連合がそう言って、政府や国民もそうだと言っているのに企業がそのとおりにしないのはけしからん、と言っているだけでは効果は望めません。よく使われる作戦は業績連動賞与で、これは経営サイドとしても業績に応じて支給額を増減させやすいという点でメリットがありますし、労組としても業績向上分を確実に取れるところは魅力でしょう。あるいは、買収防衛策に協力して企業買収のリスクを低下させれば、経営サイドも従業員への配分増を検討できるかもしれません。従業員持株会を買収に対抗できるほどに大規模化するというのは、さすがになかなか容易ではなさそうですが、労組としては、企業買収にともなう退職者は破格の退職金を受け取れるという労働協約を締結する(いわゆるティン・パラシュート)というのはなかなか興味深い作戦なのではないでしょうか。