川喜多喬『仕事と組織の寓話集−フクロウの智恵−』

キャリアデザインマガジンのために書いた書評を転載します。


川喜多喬『仕事と組織の寓話集−フクロウの智恵−』 2006.11.10 近代労働研究会


以前も紹介しましたが、下の文中にもあるとおり商業出版されていない本です。お問い合わせは著者個人か(hoseitakashikawakita@yahoo.co.jp)、近代労働研究会 fax 042-311-5854へどうぞ。


 今を去ること10年前、人事・労務管理専門誌の老舗「労政時報」に、本書著者による「ピラミッド組織で何が悪い」というエッセイが掲載された。当時、バブル崩壊後の経済不振の中で蔓延していた「組織改革」ブームに対して辛辣な筆致で批判したこのエッセイは、「労政時報」誌の読者である人事労務担当者の絶大な支持を獲得した…のだろう。同誌で著者による「こだわり人事のススメ」という連載エッセイがスタートし、その終了後さらに「続・こだわり人事のススメ」として2度めの連載も行われたくらいだから、よほど好評だったのに違いない。実際、「年功序列を大切にしよう」「終身雇用のすばらしさ」「減点評価で何が悪い」「学歴尊重で何が悪い」「出社せよ、定時に」…などなど、該博な知識とユニークな事例をふんだんにまじえ、ときに軽妙、ときに辛辣な語り口で「賃金改革」やら「人事制度改革」やらの「新人事」を次々と槍玉にあげたこのシリーズは、これら「新人事」に実は疑問を感じていた多くの人事担当者の大いなる共感を呼んだ。かくいう私もそのひとりであり、連載当時職場で回覧される「労政時報」誌のそのページだけは、職場の各メンバーが思い思いに下線を引いたり、コメントを書き込んだりしていたことがなつかしく思い出される。
 この本の第二部「頑迷固陋人事の勧め」は、この「こだわり人事のススメ」「続・こだわり人事のススメ」の再録だが、今読んでみてもまことに痛快で刺激的であり、「新人事」ブームや「成果主義」騒ぎが過ぎ去った後では、むしろこれが先見性に富んでいたのだと気付かされる。第一部「人と仕事の説話集」第三部「人と組織の警話集」もほぼ同様のエッセイ集で、面白い事例と洒脱な文章で軽薄な「新人事」を斬り、人事管理の核心に踏み込んでいる。人事担当者であれば我が意を得たりと膝を叩くところが多いだろうし、人事担当者でなくとも多くの働く人の励ましとなる本ではないかと思う。ガチガチの成果主義信奉者であっても、博覧強記の筆者が繰り出す多彩な挿話は十分楽しめるはずだ。
 まことに不思議なことに、この本を商業出版しようという出版社はなかったのだという。成果主義本を売りまくった出版各社には、こういう内容の本は売れないだろうという思い込みでもあるのだろうか。というわけで、残念ながらこの本は書店で買い求めることができないが、ぜひとも版元(近代労働研究会、fax 042-311-5854)から入手して一読することを強くお勧めしたい。1,800円プラス送料290円の価値は絶対にある本である。それほどたくさんは印刷していないはずだから、売り切れないうちに大急ぎでどうぞ!いずれ、古書店で高値がつくかもしれない…とまではいかないか、いや案外そうでもないか?